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One Route Online  作者: 向日葵
~ログアウトを目指して~
3/25

βテスター『チル』の情報

 ゲーム内で日が傾いてきた頃、ユウのレベルは15になっていた。調子に乗って周囲のブルーボアのターゲットを一点に引き受け、片っ端から屠っていたらいつの間にかこんなレベルになっていた。

 武器も今持っている【初心者用 太刀】から【銅の太刀】に変わっていた。ブルーボアがドロップしたのだ。

 後でナギのレベル上げをしっかり手伝ってやろうと心の中で決心したユウ。何せユウの為に調べ物をしてくれているのだから。

 ポーンと、メールが届いた時とは違う音が響く。ナギがフレンドチャットを送って来たのだ。


『おい、シナリオ開始の条件分かったぞ』

『なんだ?』

『レベル10以上で最初の町の町長の家に行けば良いらしい』

『了解した。 直ぐに町に戻る』

『え、お前レベル10超えたの?』

『いま15だ』

『( ゜д゜)』

『んで、時間的にはお前そろそろログアウトしないといけないんじゃないか?』

『あ、やべ…』

『じゃ、俺は進めとくわ。 レベル上げは言ってくれれば手伝うから遠慮なく言えよー?』

『了解だ。 じゃ、お疲れ~』

『お疲れ様』


 そのチャットを見て直ぐにログアウトしたのか、フレンドチャットの画面に『ナギ様がログアウトしました』と表示された。

 ユウは鍛えられた【AGI】--現在、105--で草原を走り抜ける。ちなみに他のステータスは【STR】が45、【INT】と【DEX】が0である。素早い脳筋の鏡の様なステータスである。

 ものの2分程で最初の町――今マップで確認したらアルトの町だそうだ――に到着し、マップを見ながら町長の家へと直行--の前に、武具店へ向かって防具を新調するユウ。溜まった素材を売りさばいて、ドロップした武器も売り、始めてから数時間にしてはそこそこの額になったので、革のコートを買って装備する。ズボンも革製を購入する。どうやら色は購入時に決めれる様なので、ズボンを黒色、コートを灰色にして装備する。その組み合わせは、傍から見てもなかなか様になっていた。


「さて、さっさと町長の家に行こう」


 今度は町の中なのでゆっくりと歩く。薄暗くなった広場を見て、ふとユウはある事を思いついた。


「…何処で寝たら良いんだ?」


 マップを開いて、とある店を探す。すると、村長の家の隣の隣にその店は存在した。宿屋である。


「寝落ちって、出来るのかな…」


 そんな事を呟きつつ町長の家に到着。少し考え、ノックしてからその家に入る。


「おやおや、旅のお方。 何も無い家ですが、ゆっくりして行って下さい」


 そんな声と共に町長の顔が少し俯かれる。同時に、頭上に!マークが表示される。クエストが発生したのだ。この状態で話しかけるとクエストを受ける事が出来る。

 ユウはヘルプを見ながら、村長に声を掛けた。すると--


「実は、困っている事があるのです…」


 何故かやたら長い話を繰り出したので要約すると、北東にあるボアの巣からボアが出てきて、隣町に行こうとした商人が襲われたそうだ。だから、腕の立つであろう--レベル10以上の--冒険者である俺にボアの巣でボアを倒して来て欲しい。ただ、あそこにいるボア達は凶暴だ、との事だった。

 話を聞くと、自動的にクエストを受注し、視界にクエスト達成条件のウィンドウが開く。


『ボア討伐 0/20』

『ブルーボア討伐 0/15』

『ビッグボア 0/1』


 ユウの予想では、ビッグボアと言うのはボスモンスターだ。0/1と表示されるモンスターはその大半がボスであるか、稀にしか出ないなんとかメタルみたいなモンスターかである。

 それに、ボアの巣のモンスターは全員が【アクティブモンスター】である事も予想できた。【凶暴】の一言でそれは理解できた。

 特にクエストの期限は無いので、取り敢えず宿に行って休もうと思い、足を進める。

 直ぐ近くだったので数十歩で辿り着く事が出来た。


「1日100Gになります。 何日ご利用でしょうか」

「取り敢えず、1週間でお願いします」

「かしこまりました。 700Gになります。 この板に手を置いて頂くと自動で支払いされます」


 そう言って差し出された板に手を載せる。チャリーンと言うSEと共に所持金欄が表示され【-700G】と表示される。


「102号室です。 ごゆっくり」

「はい。 …ん?」


 返事をし、階段の方に振り向いた時に違和感を感じた。ユウの聞き間違え出なければ、102号室と言われた。つまり、101号室を使っているプレイヤーがいるという事だ。

 暫く考えていたが、やがて「それがなんだ?」と思うようになり階段を上がった。

 そして、上がった先でそのプレイヤーと鉢合わせした。


(あれ、この人って確か…)


 そこにいたのは、黒に赤を少し足した様な色の髪の少女、チルがいた。昼間にナイフと拳銃で戦っていたプレイヤーだ。このゲームでは性別を偽れないのでリアルも少女なのだろう。流石に顔と髪型と髪色くらい変えてると思うけど…。


「貴方、昼間に草原を歩いてたレベル1の--あれ?」

「………?」


 どうやら相手もユウには気付いていたようだ。まぁ、あれだけ凝視していたら気づかれてもおかしくはないと思うが。


「どして、私よりレベルが上に…」


 チルの頭上に表示されるレベルは13。もしかしなくても--


「まさか、あんたずっとボア相手に戦ってたのか…?」

「安全、第一」

「はぁ…。 なるほどね。 ちなみに俺はブルーボアを倒しまくったただけで特別な事は何もしてないぞ」

「安全マージン、確保してない…」


 どうやらチルの思考は安全第一の様だ。まぁ、良い事ではあるが、ユウにとってはゲームなんだから、と思う気持ちが強くあった。


「まぁ、何はともあれお前もログアウトする時間だろ絶対」

「うぅん。 夏休みだから、まだ狩りに行くつもり」

「あ、そうなのか…」

「うん。 …ところで、貴方はどうしてルート選択してないの?」

「うん?」


 聞き覚えの無い言葉に、ユウは逆に聞き返してしまった。


「私のルート、見えるでしょ? 名前の横にある奴」

「…あ」


 先程レベルを確認したというのに、その横を見るのを忘れていたユウである。

そこに表示されるのは『かけだし』ではなく『戦闘型』になっている。


「俺、初心者だから…」

「βテスターじゃないの? そんなにレベル上げれてるのに…」

「βテスターなら苦労しなくて済むんだけどな…」

「………?」

「あー、情報的な意味でな?」


 苦労しなくて済む、というフレーズにチルが不思議そうな顔をする。ログアウト不可プレイヤーだと感づかれる前に適当にごまかしを入れるユウ。それを聞いて、納得した様な顔になる。


「…情報、あげようか?」

「お前はβテスターなんだな…」

「でなきゃ、あんな片手武器ワンハンドウェポンの使い方しない」

「それもそうか…」


 ユウは少し思い悩む。もし、情報が手に入れば少しは楽になる事は分かっているのだが、逆にログアウト不可プレイヤーだと疑いを持たれたくないとも思ってしまう。

 黙考するユウを他所に、チルは手を突き出してVマークを作る。ユウが怪訝な顔でそれを見ていると、チルは口を開く。


「情報1つ、200G」

「金取るのかよ!?」


 続いて両手をパーにし--


「今なら10個で1000G」

「破格っ!」

「ふふっ。 どう、する?」


 にやり、と口角を上げつつ聞いて来る。ユウは思わずインベントリを開き、所持金欄を確認する。


『13290G』


 無駄にブルーボアを狩り、素材、装備品を売り飛ばし、防具を新調して残った額がこれだ。

 これなら1000Gってむしろ俺が得するんじゃ…。そんな考えが頭を過る。ちらりとチルの様子を窺うと、相変わらずにやにやしつつ此方を見ている。それを見てユウは直感した。絶対に何か裏がある、と。

 ユウはこういう駆け引きを得意としない。ギャンブル系統のゲームも滅法弱い。だから、どういう判断をすればいいのか分からない。


「…くっ」

「ふふっ」


 ユウは、決断し、インベントリから1000Gを実体化する。


「情報を……買う」

「毎度あり。 で、まずはなんの情報が、欲しい?」

「そのルートって奴を詳しく教えて欲しい」

「えとね…」


 チルの説明によると、ルートは大きく分けて2つあるらしい。

まず、チルが選択した『戦闘型』。これは、戦闘に特化するプレイヤーが選ぶルートだそうだ。戦闘系スキル--例えば太刀とか--のスキルレベルが上がり易くなるそうだ。

 もう一つの方が『生産型』。こっちは名前の通り、生産を楽しむ人たちが選ぶルートだ。こちらは生産系スキル--裁縫、鍛冶など--のスキルレベルが上がり易くなるらしい。

 別に『戦闘型』になったから生産が出来ないとか、『生産型』だから戦闘が出来ない訳ではないらしい。あくまでどちらをメインにするか決めるだけだそうだ。

 大きく分けて2つのルートも、小さくすると無数に存在するらしい。『戦闘型』では、戦闘系スキルレベルが上がるにつれて、その横に職業の様な物が表示されるらしい。例は『戦闘型:アサシン』や『生産型:裁縫師』などだそうだ。


「…理解、出来た?」

「おう。 メモもバッチリ」

「転売したらPKプレイヤーキルするからね? …で、これが一つ目。 次は?」

「えぇと…」


 ユウが2つ目に選んだのは、ボアの巣について、だ。


「あそこか…。 β時代から変わってたら教えて。 返金するから」


 そう前置きして話し出す。

 まず、ボアの巣はIDインスタンスダンジョンらしい。

 IDインスタンスダンジョンとは、基盤となるエリアとは別に、新たに生成されたダンジョンの事を指す。すなわち、他のエリアとは隔離された空間であるという事。

 簡単に言うと、パーティーを組んでいない限り、そこに1人で入ると絶対に他の人とは遭遇しないという事だ。

 次に、ボアの巣には、『ボア』、『ブルーボア』、『レッドボア』、『ビッグボア』が出現するらしい。

 ここで注意すべきは、全員が『アクティブモンスター』であり、フィールドをうろついてるボア達よりも遥かにレベルが高い事らしい。

 β時代では、ボアがレベル10。ブルーボアがレベル15。レッドボアがレベル20。ビッグボアがレベル30だったそうだ。

 レッドボアは、ビッグボアのHPを2割削る毎に2匹ずつ湧くとの事。

 適正レベルは15~30。推奨人数は2以上だそうだ。


「…こんなもの、かな」

「メモメモ」

「今ので2つ目。 他は?」

「んー…。 この付近で太刀のレアドロップする所知ってるか?」

「この付近は、無いかな…。 最初の町だし」

「と言う事はこの付近じゃなかったらあるのか?」


 無言で頷く。


「それを3つ目に、する?」

「あぁ」

「シナリオ順で行って、3つ目の町…というか、村。 その近くにある森に偶に出る『サムライコボルト』がドロップする。 …検証した結果、凡そ10%でドロップ」

「ふむふむ…。 ちなみに、出現率は?」

「ほんとに、稀にしか出て来ない。 けど、『とある方法』で、出現率ブースト出来る」

「…OK。それを4つ目の情報にする」


 再びにやりと口角を上げ、一言だけで説明して退ける。


「周囲のコボルトを狩りまくればブーストされる」

「しまった…! 駄情報掴まされた…!」

「ふふっ。 少しは頭使った方が良かったね」


 チルの言う通りである。『レアMob出すのに雑魚狩りが面倒なんだよなー』と、直樹に夏休み前に聞かされたのをすっかり忘れていたユウである。


「で、後6個。 …どうする?」

「…ん、もういいわ。 さんきゅ」

「ん、残った6個は前払いとして貰っとく。 聞きたい事があったら、後6個までなら無償で教え……る…………」


 チルの声が徐々にフェードアウトして行く。どうしたのだろうと思ったユウだが、それは視界に表示される時計を見れば分かる事だった。

 午前1時34分。それを見たチルは小さくため息を吐いて、露骨に残念そうな顔をしながらぽつぽつと呟く。


「レベル上げ、しようと思ってたのに…。 ユウに情報売ってたら、時間無くなっちゃった。 無くなっちゃった」

「そこ、大事なのか…?」

「うん。 とても大事。 あーぁ。 レベル上げしたかったのになぁ…」

「ぐっ…」


 チルが何を求めているのかは分かる。それこそ、赤の他人が見ても分かる。


「…分かったよ。 明日ボアの巣行くから、付いてこいよ」

「…貴方、レベル15だけど……死なない?」

「死ぬかっ!」

「そう。 なら、明日…いえ、今日の午前7時にこの町の広場集合」


 言いながらも何やらメニューウィンドウを弄っている。と、思っているとユウの視界にウィンドウが開く。


『チルが友達要請をしてきました。 承諾しますか? はい/いいえ』


 迷わず『はい』を押して友達登録をする。


「ん、これで連絡も取れる。 …じゃあ」

「あぁ。 なんか、長々とごめんな」

「気にするなら、明日のレベル上げで貢献、する」

「へいへい」


 軽く手を振ってチルは部屋の中に消える。それに倣う様にしてユウも部屋に入る。アラームを掛け、ベッドに倒れ込む。

 --さて、寝落ちが出来るか試してみるか。と、淡い希望を持ちながらも、ユウは意識を手放した。

よければ誤字脱字報告、感想をよろしくお願いしますー。

毎度、読んで下さりありがとうございます。

訂正、村長から町長へ。

町なのに村長って可笑しいもんね…。

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