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One Route Online  作者: 向日葵
~ログアウトを目指して~
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壊れ武器、3連続

「し、死ぬかと思った……」


 コンビニで買い物を済ませて来た彼女は、机の前に座ってパソコンを起動させた。そして『自作ソフト』と書かれているショートカットをクリックして立ち上げた。

 開いたウィンドウに書かれていた文字は一文とその下にある何かを入力する空欄と開始のボタンだけだった。


『隠密情報盗み見ソフト』

『One Route Online』

『開始』


 彼女は迷い無く開始のボタンを押す。すると、閑散としていたウィンドウにびっしりと英数字の羅列が現れた。


「ふんふん……。 さすがVRなだけあってセキュリティ厳しいなぁ」


 そう呟きながらもいくつかある英数字の羅列から一つを選択し、そこに掛かっているロックを解除する為にキーボードに指を走らせる。そのタイピングの速さは異常で、常人から見たら適当に打っているようにしか見えないだろう。

 それから20分程タイピングを続けていた彼女は、不意にEnterキーをタンッと押すと、大きく伸びをして息を吐いた。


「やっと解けた……。 時間があまり無いのになぁ」


 彼女とて一応ゲーマーなのだ。こうした事をしている間にも生産スキルを上げたり、戦闘スキルを上げてあのメンバーに追いついたりしたいと思っているのだ。レベルは生産と戦闘の2つ同時にこなせば経験値が溜まるので勝手に上がって行ってくれるのだが。


「………………やっぱりかぁ」


 One Route Onlineについてを調べていた彼女から諦めた様な、だが納得した様な声が漏れた。

 表側のOneについては理解していたし、それは全プレイヤーに知れ渡っていること。だが、その裏に気が付いたのは彼女が初めてだった。

 そこに書いてあった情報をメモ帳に写し、パソコンをシャットダウンしてベッドに寝転がった。そのままゴーグルを装着して電源を入れる。すると、彼女の意思はゲームの中へと消えて行ったのだった。


 後に残されたのは彼女が使っていたメモ帳だけ。

 そしてそこにはこんな一文が書いてあった。


『Oneは常に存在し続ける』


* * *


「んーっ。 やっぱりゲームの中が落ち着くねぇ……」


 アキに戻った事を喜びながら復元の残り時間を確認する。


『残り時間:30分』


「やっぱり買い物に時間掛け過ぎちゃったかな……」


 ちなみに彼女が買い物に掛けた時間は小一時間程だった。

 間に合ったんだから良いか、とアキはそのもう直ぐ復元が終わる武器のプロパティを開いた。通常、復元中にプロパティは開けないのだが、残り時間が1時間を切ると確認できるようになるのだ。それが例え復元時間30分の物だとしてもだ。


「……なに、これ」


 アキの口からそんな驚愕した声が漏れた。

 だが、それはこのプロパティを見れば誰もがそうなるのは目に見えていた。


【天魔双刃エンフェルネ】 【攻撃力:21000】 【付加効果:光属性(大)闇属性(大)付与】 【天の導き:一定確率で周囲のパーティーメンバーに身体強化バフ全(大) HP回復(大)】 【魔の導き:一定確率で即死効果発動(ボスを除く)】 【装備レベル:125】


 と、この様に装備レベルこそ高い物の、それに見合うだけの能力を持つ武器だからだ。


「これ、すっごい。 アキの鎌より高性能だ……」


 彼女が持つ鎌も大概壊れ性能なのだが、どう見てもこの武器と比較は出来ないだろう事は容易に理解できた。

 だがその武器を形状を見て、思う。


「使いにくそうだなぁ……」


 大剣を2つ、柄でくっつけた様な形をしているのだが、物凄く扱いにくそうだとしか彼女には思えなかった。


(精々使えるとしてもスキルを打つ時くらい……? それにこれ、必須STRの値高そう……)


 勿論武器にも表示されていないとはいえ重量はある。アキが使う鍛冶鎚は金槌くらいの、つるはしはリアルつるはしのくらいの重さを持つ。ちなみにチルが持つ大剣で大体150キロと言う所なのだが、この大双刃という種類の武器は単純にそれの二倍はありそうな形状をしている。


「あっと、そう言えば頼まれてたアイテムがあったね。 ユウさんが来るまでに終わらせちゃおうっと」


 アキは裁縫スキルを使い、服を作って行く。注文は白いコートと黒いズボンで、能力は問わないらしい。

 そうなれば最早アキにとっては朝飯前で、サクサクと終わらせて行く。何せ、何時も此処を利用してくれるユウ達一向の為に日々能力付きの見た目重視装備を作っているのだから。


「これで服は大丈夫かなっ。 じゃあ次は武器……二刀流で使いやすそうな剣って漠然としてるなぁ……」


 注文をメモしていたウィンドウに目を通して溜め息を吐くアキ。そもそも彼女は剣は使わないので、どんな形状が二刀流に向いているのかが分からないのだ。

 パッと思い付いたのは普通の片手剣。両刃があって、そこそこの長さの剣だ。何かのアニメでは黒と白の片手剣で二刀流をしているキャラがいたのを思い出したのだ。


(でも、使いやすそうなので考えると刀みたいに反った形状の剣の方が良いかなぁ……)


 この前ほしねこに作った小太刀は二本同時でも使いやすいとの感想を貰ったが、小太刀では二刀流スキルは発生しない。精々出来て小太刀スキルの並行使用くらいだ。


(よし、反った形状の剣で行こう)


 そうと決まればと、注文してきた者の情報を漁る。

 レベルは85、AGI寄りのSTR型。

 そこそこのレベルに驚きつつ、チルの御蔭で発見する事が出いたネロインゴットを用意し、そこから素材を選択して行く。此処で重要なのが選択した素材によって、出来上がる武器の形状が変わると言う事なのだ。その事にアキが気が付いたのはつい先日だ。


「えぇと、これを入れて……あぁ、これも入れた方が攻撃力は上がるよね」


 ポコポコと素材を放りこんでいき、付加効果の欄を見て『敏捷UP70』選択されたものを全て確認してから開始ボタンを押す。

 鍛冶台の上に赤く発光したネロインゴットが現れる。それを愛用の鎚で叩く。

 暫くすると眩い発光をへて、一本の剣が完成した。それは狙い通り反った形の剣――と言うよりも肉厚の刀の様な形状だった。


【プレスティッシモ】 【攻撃力:5800】 【付加効果:敏捷UP70】 【急速の舞:攻撃時15%の確率で10秒間AGIが2倍になる(重複なし)】 【装備レベル:80】


「うわぁ……。 最近作ってて思うけど、壊れ性能が多くなってきたなぁ」


 人ごとの様にそう呟きながら、もう一本の剣も同様にして作る。インゴットこそ変わらないが、先程使った素材が切れていた為、別の素材を使って同じ形状になる様に調整をする。付加効果は『筋力UP70』。

 そして愛用の鎚で叩く事数分。先程と同じように発光現象を起こし、剣へと姿を変えた。

 完成したのは先程作った剣の色違いなだけだった。


【アジタート】 【攻撃力:6200】 【付加効果:筋力UP70】 【激しい怒り:攻撃時15%の確率で10秒間STRが2倍になる】 【装備レベル:80】


「これ、壊れすぎだよ……」


 自分の鍛冶の腕が上がっているのか、偶々バケモノクラスの剣がこんなにも完成するのかはアキにも分からなかったが、取り敢えずこの剣を注文した人はそこそこのトッププレイヤーには成れるだろうと言う事だけは理解できていた。

 不意にカウンターの前に人影がある事に気が付いたアキはそちらを振り返って、一瞬固まった。


【名前:レナ】 【ルート:戦闘型:ダンスマカブル】 【レベル:107】


 見たことの無いルートに、信じられないくらいの高レベル。あのほしねこを軽く抜かしていることに驚きを覚えながらも対応をしようとして、気が付いた。レベルこそ上がっているものの、この名前に見覚えがある事に。


「二刀流で使いやすそうな剣を頼んでいた方ですよねっ?」

「あぁ、そうだよ。 少し早すぎたかな?」

「いえいえ、今完成した所ですよっ」


 女性なのは間違いないのだが、何処か男の様な話し方をする事に違和感を感じながらも今さっき完成した二本の剣を開いたトレードウィンドウに入れて情報を開示する。


「うわぉ。 凄い剣だね、これ」

「能力とかは確かに凄いんですけど、形状はこれで大丈夫ですかね?」

「漠然とした内容で頼んだのはこっちさ。 文句は言わないし、そもそも言う必要がなさそうだ」

「良かった……」


 密かに安堵したアキは、金額をどうしようかを模索する。壊れ性能の武器を二つ買うとなれば、一体どのような値段になるのか一瞬計りかねたのだ。


「んぅ……この剣、強化できるかい?」

「出来ますけど、唯でさえ値段が凄い事になりそうですが……」

「強化代込みで1000万Gでどうかな?」

「いっせ!?」


 1000万Gなどと、普通用意できるような大金では無いはずだ――と言うよりも、そんなに持っている人物をアキはこれまでに見た事が無かった。確かにアキの所持金は貯金している者を含めると1000万など超えるのは間違いないが、それは商売をしてこそのものだ。

 それをぱっと見、戦闘しかしていなさそうな人が提示して来たのだから驚くのも無理は無い。


「あぁ、普通戦闘が他でここまで持ってる人っていないのか……。 いや、現在の攻略最前線で『シークレットダンジョン』って所があってね。 そこをソロで攻略してるこれくらいは貯まるのさ」

「そ、そんな……生産型終了のお知らせなんて……」

「あぁ、そんな事は無いよ? そこでしか取れない素材とか沢山あるしね」


 その言葉を聞いた途端、アキは頭の中で払って貰う対価が決まった。


「強化代込みで300万とそこの素材使えそうなの全部で」

「あ、あぁ……」


 あまりの気迫に気圧されながらも頷いたレナ。


「で、強化は幾らまで?」

「8」

「ブーストはするけど壊れても保証できないよ?」

「構わないさ」


 強化石と剣をウィンドウに放り込んで強化を開始するアキ。正直な所、今までは最大でも7当たりが限界だったのだが――


「なっちゃった……」


 見事に一度も失敗する事無く、二つとも強化値が8になってしまったのだった。そのあまりの出来事にレナまで茫然としていた。彼女は最悪片方は壊れるであろうと予測していた為、仕方が無いと言えば仕方が無いのであった。

 そして完成した剣【プレスティッシモ】と【アジタート】は、元々壊れ性能だったにも関わらず、更に壊れる攻撃力を有して、まだ若干茫然としているレナの手へと渡ったのだった。

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