シナリオ再開/決意
登場人物紹介を更新すると同時に、1部目に持っていきました。目を通している方は1部目になってるのでお気をつけくださいー。
次の日。ついにシナリオ再開の日が来た。
時間は午前9時から午後17時の昼休憩ありだとほしねこから連絡が送られてきていた。追記としてユウと残れる人は20時までやるとの事だ。
参加メンバーはユウ、チル、ナギ、ほしねこ、シキ、ハクである。ちなみにハクが行くと言い出したのは誰もが予想外だった。
そして現在8時半。既に半分が揃っていた。
「あれ、2人とも割りとやる気なのか?」
「「もち」」
チルとほしねこは親指を立てて返事をする。2人ともやる気は本当のようで、集合場所に着くなり武器を装備していた。チルが大剣で、ほしねこが小太刀2本だ。
「そうか、小太刀ってSTRよりAGI依存の武器だったか」
「そう。 これなら私は戦える」
ふんす、とやる気十二分なほしねこ。そのレベルは90に届きそうになっている。
「私も前みたいにリーチ短く無いから、戦える」
やる気、というオーラは出ているのだが、そこまでテンションが高いというわけではないチル。だが、元気が無いというわけでもないという不思議な状態だった。レベルはユウに追いつき、80を超えている。
「……レベル、上げすぎたか?」
「それは、どうだろう。 あそこからPSも求められてくるし」
「上げすぎて損は無い」
2人の言う通りだった。スキルでごり押しができない状況なのでレベルは割りと重要だった。
3人で他愛の無い話をしていると、2人のプレイヤーが近づいてきた。
「ハク、歩く邪魔になるから離してくれ」
「やだ」
鎧を脱いだ状態のハクと、腕を組まれているナギ。非常にだるそうに歩いている姿が印象的だった。
「おいユウ。 お前俺を売りやがって……」
「え、売るというか、ハクさんのことを考えただけだが……」
「俺のことも考えてくれよ!?」
ナギの文句を聞いているとハクが歩み出てきて口を開く。
「ありがとう。 これから、シナリオ以外ではずっと貰っとくね」
「どーぞどーぞ」
「ちょま、ハク、何処に――」
「時間まで、デートしよ?」
「誰か、助け――」
言葉が最後まで終わらないうちに転移翼を使用し、2人はどこかへと行ってしまった。残り時間は15分ほどである。
誰もが15分で何処に行くのかが気になったが、本人達がいなくなってしまったので聞けないことをもやもやしていた。
ユウの耳にポーンとチャットが届いた音が鳴った。ウィンドウを開いて確認してみると、チャットを送ってきたのはシキだった。
『右斜め後ろ』
「……」
右斜め後ろを向くと、少しはにかんだ様に笑いながら手を振っているシキの姿があった。出てこない理由は恐らくまだユウ以外、図書館以外で顔を合わせて話すことは出来ないからだろう。戦闘になれば人が変わったように話せるようになるのだが……。
ユウの視線を追いかけてチルとほしねこがシキの姿を捉え、シキが竦み上がって隠れるのと同時にAGI全開で走り出し、引きずって連れて来るという傍から見れば何をやってるんだろう、と思うことをやっていた。ちなみに連れて来られたシキはユウにしがみ付いて震えている。
そんな感じで時間は過ぎて行き、集合時間になった。ちゃんと戻ってきたハクとナギ。元からユウの傍から離れなかったチルとほしねこ。連行されて怯えながらユウにしがみ付いたままのシキ。
状況は別々だが、ちゃんと全員揃った。
「よし、全員揃ったなー」
ユウが周りを見渡しながら言う。
「一応確認しとくと、今から行くところは『スキル禁止エリア』だ」
「スキル禁止……。 『モンスターハウス』によくあるトラップだけど……」
そこそこレベルの上げているハクはそれに掛かったことがある。スキルが使えず、自身の力量だけで切り抜けなければいけなかったのだ。ちなみに彼女は気合と装備と実力で生き残った。
「で、今回のクエストの内容は、『マーマンスラッシャー』の討伐だけらしい。 多分ボスだな」
ユウがチラッとほしねこに目を向けると、小さく頷いた。それを確認してから話を戻す。
「その後のクエストは良く解らんけど、取り敢えず昼までにカランド湖のクエストが終わったらいったんそこまでで休憩ということで……」
『異議無し』
満場一致を見せた反応に、ユウは頷いて武器を装備する。
「それじゃ、行こうか!」
『おー!』
皆が元気良く返事する中、1人だけ疑問に思っている少女がいた。
(……なんで、こんな本格的にやってるの?)
シキだった。ここにいるメンバーの中で、彼女だけまだユウがログアウト不可のプレイヤーだということを知らないのだ。だからこそ、彼女には此処まで本格的にやることの意味が解らない。
(でも、せっかくだから楽しまないとね)
装備欄の弓と属性の矢を確認し、前を歩くユウ達の背中を追った。
ユウ達がダンジョンに潜ると同時に、1人の少女がその近くを通りかかっていた。偶々戻ってきていたアキだ。
「ふふっ、随分と本格的で、楽しそうだなぁ」
こっそりと近くの物陰からずっと見ていたのだ。その口元には薄い笑みが浮かんでいる。
「そろそろ、調べないといけないなぁ……。 この世界の、『One』について」
「ギイィ!」
後ろから攻撃を仕掛けてくるモンスター。ここはフィールドだ。勿論敵もいる。
だが――
「グギャアァ!?」
「ふふっ。 邪魔だよ」
アキは目にも止まらぬ速さでウィンドウを操作し、取り出した大鎌で切り裂いた。一撃でHPを削りきり、経験値とドロップアイテムに変えた。
「今日のお昼に武器の復元が終わる……。 それまでに、調べれるだけ調べておこっと」
武器をインベントリに直し、転移翼を使用してコモドへと戻る。自分が仮の生産場所として使っている露店の中に入ってログアウト操作をする。
現実世界に戻ってきたアキは身体を起こす。ゴーグルを取り外し、ベッドから降りる。
「んーっ。 後3時間……いや、2時間かぁ」
部屋をでてリビングへと移動する。冷蔵庫を開けて中身を確認し――目を見開いた。
「た、食べ物と飲み物が無い……!?」
実は昨日ログインする前に食べたものと飲んだものが最後の1つだったのだ。
「くっ……」
実は彼女は日の光が大嫌いな人間だったりする。つまり、真夏の快晴の日に外に出るなどもってのほかなのだ。
「ひ、日傘は……」
玄関に目を向けるが、そこには骨の折れた日傘が立て掛けてあるだけだ。ちなみに壊れた理由は、傘が無かったときに台風が来て、どうしても外に行かなければならなかった時に使ったらからだ。
「こ、このままじゃ死んじゃうっ!?」
戸棚などを虱潰しに探し回ってみたが、特に食べれそうなものは何も出てこない。飲み物も、水道水かポットのお湯程度しかない。
「学校に置き日傘なんてするんじゃなかったよぉ……」
半泣きになりながらもせめて日の光を浴びない服を、とタンスの中を漁り始める。だが、運悪くそれも洗濯している途中だったのだ。彼女の家は、優や知流の家の様に進んだ電化製品は無い。ついでに言うと、乾燥機すらない。洗濯をすれば、干して乾かす。今となっては昔のやり方で生活していたのだ。
「あ、あっ……。 そん、な……」
グゥ、と彼女のお腹が鳴る。腹が減ったと訴えるように。
ゆらり、と立ち上がる。薄着の上から、唯一洗濯せずに残っていたパーカーを着込み、フードを目深に被る。ただし、下は短パンで膝下までの靴下姿だった。しかもパーカーが若干大きい所為で短パンが隠れるという、一部に人気が出そうな格好になっていた。
「私は、行く。 行かなくちゃ、行けない……」
ふらふらとした足取りで進み、机の上に置いてあった財布を手に取る。そしてそのまま玄関へと向かう。
スニーカーを履き、財布の中身を確かめながら開錠し、手を掛ける。彼女は決意したのだ。炎天下、直射日光を浴びる中、買い物に行くことを……!
大きく息を吸い込み、吐き出す。
そして、力強く目を開くと一思いに扉を押し開ける!
「私の戦いは、これからだ!」
これまた力強く呟いた少女は、近くのコンビニに向かって走り出すのであった――!




