ナギの受難
注意!! 若干のテンプレ?ホラー要素があります!苦手な方はお気を付け下さい!
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警告空白の終わり。
シキがアキと共にIDに向かった同時刻。ナギはトランクィッロよりも5つ以上も先の『大都市コン・ブリオ』と呼ばれる、このゲーム最大の都市にいた。例に洩れず演奏記号で、『活気をもって』と言う意味だ。
レベル上げの都合上、67程を超えるとこの辺まで来ないとなかなかレベルが上がらないのだ。
だが、ナギはレベル上げが目的と言うよりも、この都市に存在する闘技場でPVPをするために此処に居座っていた。一応闘技場のPVPでも経験値は貰えるので現在のナギのレベルは65まで上がっていた。
待機していたナギは大戦相手が決まったのか、光に包まれてフィールドへ転送される。
「さーて、NPC相手じゃ無ければ良いけどなー」
ナギは手に持つ白銀の槍を構えて正面の離れた所に転送されて来た相手を確認する――
「「?」」
と、同時に2人揃って首を傾げる。
転送されて来たナギの相手は剣と盾、軽鎧を装備している典型的な盾持ちの装備。
だが、ナギはそれに既知感を覚えた。
互いに相手の情報に目を向け、探ろうとする。
【名前:ハク】 【ルート:戦闘型:光騎士】 【レベル:75】
【名前:ナギ】 【ルート:戦闘型;槍使い】 【レベル:65】
互いが得た情報は最低限のものだった。
だが、2人にとってはそれだけの情報だけで十分過ぎた。
(……こいつ、まさか『あの』ハクか?)
(……もしかして、『あの』ナギ?)
ナギは、一番初めにプレイしたVRMMOのゲームでPVPの大会をしている時に決勝で当たったのがハクと言う盾持ちの片手剣のプレイヤーだった。
「戦闘すれば……」
「……解るかも」
互いにボソッと呟き、身体強化を掛け、AGI全開の突撃を開始した。
「【シングルスラスト】ッ!」
「【シールドバッシュ】ッ!」
突き出された神速の槍は横薙ぎに振るわれた盾によって打ち払われ、軌道がズレる。
その隙を逃さず、ハクは片手剣のスキルを発動させ、追撃を狙う。
「【ダブルスラッシュ】ッ」
一撃目で100%気絶状態にし、二撃目で強力な一撃を叩き込む技。スキルを受け流されたナギには回避できないと踏んだ一撃。
だが――
「【クレセントスピア】」
「っ!」
その場で半回転しながらの槍の横薙ぎ。その一撃はスキルが発動しているハクの片手剣を捉え、打ち消す。
咄嗟に後退したハクはこのゲームでの槍のスキルを思い出して舌打ちをする。
「【グランドスラスト】」
地面に槍を突き立て、相手の足もとから岩の槍を生成し、追撃を行う。
「うあっ」
着地した瞬間を狙われたハクは回避できずにその直撃を受け、打ち上げられる。
勿論ナギはさらに追撃を行うために槍を思い切り振りかぶり、スキルを発動させる。
「【スナイプピアシング】!」
「くっ、うあぁっ」
最初のシングルスラストよりも速く飛来する槍を打ち上げられながらも見ていたハクは咄嗟に盾で受けたが、そのまま勢いに押されて思い切り吹き飛ばされて場外手前に落ちた。
ゆっくりと起き上りナギに顔を向けるハク。やられたにも拘らずに狂気的な笑みが浮かんでいた。
「ナギだ。 ずっと探してた。 ずっとずっとずっと」
「やっぱりお前か」
「やっと見つけた。 あのゲームが終わってから何十ものソフトを買って探した。 あのゲームで名前だけ見つけたのに会えなかった」
ハクの言う『あのゲーム』と言うのはOROを始める前にナギがプレイしていたゲームの事だ。
当のナギといえば、まさか相手がそこまでしてるとは思わずに顔を引き攣らせていた。
「捉えた。 もう、別れなんて無い。 存分に、飽きるまで、飽きても、ずっとずっと戦おう」
「お、お前、そんなに戦闘狂だったか?」
「戦闘狂? 違う、断じて違う。 私はナギ狂なだけ」
「戦闘狂よりも達が悪いじゃねぇか!?」
「あぁ、やっと戦え――」
「降参!」
「――る?」
ハクが最後まで言い終わる前にナギは降参宣言をして控室へと舞い戻る。
そして続けざまに闘技場の出入り口に向かって全力疾走を開始する。
「みぃつけた」
出入り口を潜る直前、真横から悪魔の様な囁きが聞こえた。ナギには死刑宣告に近い精神的大ダメージを与えるほど威力を持った一言。
(な、なんでだ!? なんでこんなんになってんだよ!)
「捉えたって、もう、別れなんて無いって言ったよね?」
「はや!? ぐえっ」
瞬時に追いつかれ、ナギの装備の後ろ襟を掴み引きとめる。
ナギは忘れていたのだ。彼女のレベルを。自分よりも10も上だった事を。
「嬉しい……。 また、会えて」
「ぐ、ぐえっ。 こんなんなってなかったら俺だって嬉しかったのに……!」
まるで締め付ける様にナギを抱きしめるハク。それもSTRの限界に迫ろうかという程強く。
「行こう?」
「ど、何処に?」
「私の家」
「!?」
ナギの顔が蒼白になる。もしも連れ込まれてしまえば、ジ・エンドだ。
(そ、そうだ。 これから用事があるって言えば……)
「ハク、俺ちょっとこの後友達と――」
「消して来るから名前を教えて?」
「――約束はありませんでした、はい」
「そう。 じゃあ、行こう?」
STR全開で手を握り締めて逃げる事が出来ない様にしてから歩き出すハク。
ただPVPを楽しみに来ただけのナギにとって、彼女との再開は喜べるもののはずだったのだ。
だが、ハクは変わっていた。余りにもナギに会えなさ過ぎてねじの1本や2本、3本に4本くらい弾け飛んでしまっていたのだ。
(……どうする。 なんとか時間を引き延ばす方法は――あ)
1つだけ足止めをする方法を思い付いた。
それこそ、さっきのPVPを再開すれば良い。そしてあの時の様に『賭けPVP』をして、勝てば良い。
思い付いたナギは早速行動に移す事にする。
「ハク、行く前にPVPしないか?」
「う? さっきの、続き?」
「そうそう。 それで、昔みたいに賭けPVPとかしてみたり」
「懐かしいね。 良いよ、行こう?」
なんとか自宅に連れて行かれる事だけは避けたナギはハクと共に闘技場へと向かう。
到着した闘技場でNPCに闘技場を使ったPVPを申し込むために向かおうとして――声を掛けられた。
「そこの2人、パーティーか?」
「もしそうなら、俺等と賭けPVPしない?」
「え、パーティじゃ――」
「良いよ。 私達はパーティ組んでるから」
そう言いつつ最速でパーティ申請を送ってきたので取り敢えず承諾。
「じゃあ、賭けは何にする?」
「俺等が勝ったら、一番良い装備をよこせ」
「解った。 ナギ、何か欲しいものある?」
ハクが小首を傾げながら問いかけてくる。
だが、ナギも対して欲しい者は無かったので首を横に振り、ハクに一任する。
「じゃ、奥儀書ね」
「「「奥儀書?」」」
思わずその場でナギを含めたハク以外が声を揃えて疑問を口にした。
「そう。 一冊数百万以上の価値のあるもの」
「「なっ」」
「まぁ、負けなければ良い話だから」
「ひっでぇ……」
「これは貴方達が売った喧嘩。 まさか、女1人と弱そうな男1人相手に、逃げないよね?」
にこりと悪魔の様な笑みを浮かべながら挑発するハク。
その笑顔に威圧されつつも挑発された事により苛立った男2人は――
「舐めやがって! やってやる!」
暫くして転送の光に包まれた4人はフィールドに送り込まれた。
「ナギ。 奥儀書の力、見せてあげるね」
「え、持ってるもの要求したのか?」
「ナギの分だよ。 2人だけのパーティが永劫に続くんだよ? 必殺技くらいもっとかないと」
「……」
「まぁ、見てて」
ハクが盾と剣を構え、突っ込んでくる男2人に向かって容赦無く『奥儀』と呼ばれる必殺技をぶちかました。
「「うお!?」」
「捕らえた、もう逃がさない」
地面から出て来た白銀の鎖につながれ、その場から動けなくされた2人にそう宣言する。
「これが、聖騎士の奥儀……」
盾に付いていた鞘に剣を収め、相手に向かって掲げる。そこに光の粒子が集まり、白銀色に染め上げる。
「【ジャッジメント・レイ】!」
凝縮された光の本流が鎖に捕らえられた2人を呑みこみ――そのHPを散らせた。その威力には目を見張るものがあった。戦士2人を瞬時に倒したのだから。
待機室に転送されたが、あの2人はいなかった。
「ん、ぅ……。 多分あの2人逃げた。 まぁ、予想済み」
「ハクが良いなら良いけど……」
「それに、私の狙いは2人きりの状態になる事」
「……え?」
「賭けPVP、しよっか」
にこりと、さっきよりも優しげな、しかしどこか嗜虐的な笑みを浮かべたハク。
ナギは先程の奥儀を思い出して、顔を引き攣らせ、素早くメニューを操作した。
「? 何をして――あっ、こら待て!」
「ハク、また何処かで会おう」
「許さない! 許さない許さない許さない許さない許さない!! 次会ったら、逃げる事さえさせないから!!」
掴みかかって来ようとするハクよりも先にログアウトのボタンに触れ、ゲーム世界から離脱したナギ。
「ふぃー。 なんて奴――」
テロン、と不意にメールが届く音がした。直樹は言葉を途中で止め、硬直する。
いやまさかあり得ない。だってアドレスを交換した覚えも無いし、なんて思いながらPCに一歩一歩向かう。
メールアイコンをクリックし、中身を確かめると――
【差出人:ハク】
【件名:許さない】
【本文:許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない縛って自由を奪ってやるログアウト出来ない様に拘束してやるそのまま身も心も負かせてやる私がいないと不安になり更に恐怖心が湧きあがってくるように調教してやる】
「うわぁ!? 一体どうやってアドレスを!?」
直樹は冷や汗を掻きながらまだ続く文章に目を向ける。
【貴方の事は全部調べた一人暮らししてる事も何処の学校に通ってるかも何県何市何町何丁目何番地何号に住んでるかも全部全部全部知ってる】
気が付けば直樹は震えていた。もうこれは犯罪者の息じゃないのか、なんて思いつつも最後の一文に目を通して――扉に目を向けた。
【これを読み終わった頃に、私は貴方の家の前にいる。 ログアウト出来ない世界で、負かせてあげるから、早く、アケテ?】
そう、書いてあった。
恐る恐る扉に近寄り、音を立てずにチェーンをはめる。
それと同時に、ガチャリと勝手に鍵が回った。
そして勢い良くドアが引かれたが、チェーンが引っ掛かって全部は開かなかった。
「っっっ!!」
「……なんで閉めるの?」
隙間から顔をのぞかせるのは見覚えの無い少女。否、見覚えはあった。髪の色が違うだけだ。
「開けて、ねぇ開けて?」
「ぁ、ッ……」
「ふふ、あ・け・て?」
「~~っ!? ~~!!」
喉元まで出かかった悲鳴を抑えた直樹は強く目を瞑り、頭を大きく振るい、目の前の状況を忘れるために部屋の中へと駆けこんだ。
この話から改行の所に空白を設けていますが、多分次話を投稿するまでには全部この状態に修正されると思います。
前までのは少し読みにくかったと思いますが、呼んで来てくれたから、ありがとうございます!




