ログアウト不可は一人だけ
良くあるVRゲームの小説です。
表現がアレな所があるかと思いますが、生温かい目で見守ってくれるとありがたいです。
では、どうぞ~。
One Route Online。
それは、近代の技術の結晶であるVRゲームだ。
受け売りは、【複数選択できる職業から、自分を未来を見つけ出そう!】というものだった。
VRゲーマーは勿論、これを期にVRゲームに興味を持った人たちは食い付いた。
まさに道を選ぶゲーム。だが、タイトルのOneの意味だけは誰にも解らなかった。故に、各々が納得する解釈をしていた。
初芝優は、友人に勧められてそのゲームをやる事にしたのだが--
△ □ △ □
初芝優は混乱していた。
One Route Onlineと言う新作VRゲームにログインしたのだが、意味不明なメールが一通送られてきたのだ。
内容は--『おめでとう。 このゲームで、唯一君だけがログアウト不可になりました! このゲームのタイトルのワンは、君だ。 君が、主人公だ。 全てのシナリオを見届けて欲しい』--だそうだ。
その下には、クエスト方式でこう書かれている。
『ログアウト条件:全てのシナリオをクリア 0/100 レベルを最大まで上げる 1/200』
「なんでこんな事になってんだか…」
優がこうなる前に、時間は遡る--。
学校、 放課後にて。
「優。 約束、覚えてるよな」
「あぁ。 One Route Onlineにログインすればいいんだろ?」
「あぁ。 くぅ~、初めてだぜ。 リア友とVRゲームするのは!」
優に話しかけて来たのは樫葉直樹。生粋のゲーマーである。
そのゲーマーである彼に誘われたからこそ、優はそのゲームをやる事にしたのだ。
VRハードもソフトも持っていなかったが、ここ5年間ぐらい貯めてたお小遣い+お年玉があるのでそろえるのは苦労しなかった。
「じゃ、取り敢えずゲームの中でな」
「おう」
校門で別れ、自宅に向かう優。ちなみに、優と直樹の家は真反対の方向にあるせいで、一緒に帰る事は出来ない。
帰路について、優はふと嫌な事を思いついた。
優は良く小説を読むのだ。だから、VRゲームにログインしてログアウト不可のデスゲームに…なんて小説はかなり読んでいる。
まさか、その手の類じゃないよな…、なんてフラグを建てつつ優は自宅へと帰還する。
「ただいまーっと…。 誰もいないよな」
当たり前だった。現在優は一人暮らしをしているのだから。
来ていた服を洗濯機に入れて洗剤を入れ、スイッチを押す。残り5分の文字が表示される。最近になって、洗濯完了までの時間が恐ろしく短くなった。これも科学技術の進歩による物なのだろう。
洗濯機を回している間にシャワーを浴びる。温めのお湯が優の汗を流していく。
シャワーを終えると、丁度洗濯機が止まっていた。優は私服に着替え、洗濯された服を今度は乾燥機に放り込む。此方も3分程で乾燥完了だ。
その3分の間にVRゴーグルから出てる2本の線の内の片方をコンセントに差し込む。もう片方の先には、ディスクドライブの様な物が付いており、そこにソフトを入れる。
「さて、こっちの準備は完了したが…。 お、丁度乾燥終わりか」
優は乾燥機の下まで行き、服を取り出してクローゼットに掛けておく。
約束の時間まで残り10分だ。もうそろそろログインしたほうが良いだろうと思い、布団に寝転がる。そしてゴーグルを装着し、電源ボタンをONにする。
急速に意識が遠くなり、優の意識はゲームの世界へと導かれた。
『キャラクター設定』
そんな文字が暗闇に浮かんでいた。それをタップすると、記入しなければならない項目が現れる。
『キャラクター名』
『使用武器』
『スキル。4つまで。 *ゲーム内で4つ以上習得可能です。 さらに、1つは武器選択で自動的に選択されます』
『容姿』
この4つが表示される。
優は一番上の名前から目を通し、入力して行く。
『キャラクター名:ユウ』
『使用武器:太刀』
『スキル:太刀、身体強化、エンチャント、サーチ』
『容姿:髪色、黒。 髪型、現実。 顔:現実アレンジ』
最後に、一番下にあった【完了】を押す。すると、暗闇から一転、視界が真っ白に染まる。
『ようこそ。 One Route Onlineへ!』
その文字が現れ、数秒してから視界が徐々に晴れて行く。
「ふう。 ログイン完了かな」
自身の身体を見下ろす。
腰には初期武器である太刀。服装はよくある初心者用装備になっていた。
「ん?」
カコン、という音と共に視界に手紙マークが表示される。それをタップしてみる。
「…なんだこれ」
そこにはログアウトが出来ない旨と、ログアウト条件、その他が記されていた。
そして、今に至る。
「はぁー…。 やれやれ、まさかガチでログアウト不可になるとはなぁ…」
ちなみに、死んでもリアルで死ぬという事は無いらしい。きちんと蘇生ポイントに復活するらしい事がメールの下の方に書いてあった。後、全プレイヤーの中に一人だけログアウト不可のプレイヤーがいるという事は周知されてるらしい。
「うぅん…。 出来れば周りに言わない方が良いだろうな、これ」
唯でさえ厄介な状況なのに、悪化しかねないからな、と優は心の中で呟いてマップを見つつ、直樹と待ち合わせしていた広場へと向かった。
待ち合わせ広場に到着し、事前に教えてもらった名前である『ナギ』を探す。するとナギと同時にお互いを発見し、駆け寄る。
「えーっと、直樹であってる?」
「あってるぞ。 んでお前は優だよな? 名前そのままだし」
「何処にでもありそうな平凡な名前だからいいだろ」
そういう直樹も、『なおき』から『お』を抜いて『き』を『ぎ』に変えただけである。
「んで、ユウはやっぱり太刀を選んだのか」
このナギの「やっぱり」というのは、優が直樹の家に遊びにいったときにVRゲームをやらせてもらった時、太刀しか使わなかったからだ。
余談だが、どうやってVRゲームの画面を除くかというと、ゴーグルをPCに繋ぐ事でそのゴーグル使用者の中での状況を見る事ができる。しかもチャットもできる。
「あぁ。 ナギは槍か」
「おう。 前までやってたVRゲームではずっと槍だったしな」
「お前、槍でPvPした時凄かったもんな…」
「お前の太刀に言われたくないぞ…」
ナギがこう言うのも仕方がないことだった。
なぜなら、ナギの出した最速タイムのタイムアタックダンジョンの記録を初プレイで抜かしてしまったのだ。
如何にダンジョンの構造を教えていたとはいえ、これは完璧にPSがナギよりも上ということを示していた。
「そうだ、なんかログアウト出来ない奴が一人いるとかメール来たんだが、お前にも来てるか?」
ナギの言葉に、ユウは思考を巡らせる。その結果、ナギだけには教えておこうと結論が出た。
「実は、そのログアウト出来ないプレイヤーって俺なんだ」
「…まじか?」
「誰にも言わないでくれよ? ほら」
メールを他人にも見えるようにするボタンを押し、ナギに見せる。
それを読んだナギは、表情を険しくしていく。
「ログアウト条件がなかなかハードだな…」
「だよなぁ…」
言いながらもユウはメールを自身にだけ見えるようにし、メールボックスを閉じる。
「シナリオクエストはともかく、レベルカンストってきつそうだ……が、俺は手伝うぜ」
「ありがとう……ってなんだこれ」
ユウの視界に、謎のボタンが現れる。ナギに断りをいれてボタンを押す。
「!?」
視界にに表示される回線切断のマーク。前にいるナギも驚いたようにしている。
このゲームは回線切断してから10分はゲーム内にとどまる性質を持っている。これが通常の人だったらログアウトの選択肢もあるのだが、ユウはログアウトが出来ないので待つしかなかった。
5分くらいで、ユウの視界から回線切断マークは消え去った。
「ユウ、大丈夫か?」
「あぁ…って、今度はメール?」
カコンという音と共に新着メールのマークが表示される。
『君の現実の体は点滴の出来る場所に運んだ。 心置きなくゲームを楽しんでほしい』
読んでてイラッとしたが、どうせ夏休み中ずっとやってるつもりだから問題ない。メールを閉じると、ナギが話しかけてくる。
「何て書いてあったんだ?」
書いてあったことをそのまま伝えると、
「誘拐だろそれ!」
「まぁ、大丈夫だ。 どうせ夏休み中ずっとやってるつもりだったから」
「え、お前、夏休み中に終わらせる気か?」
「当たり前だろ? でないと委員長が怖い」
「あぁ…。 そうだったな」
2人してとある人物を思い浮かべる。………正しくは、その人物の鬼の形相を。
その人こそ、喚く不良も返り討ちにするクラス委員長、『神楽佐紀』である。勿論、名前の通り女子である。…が、不登校などすると、何処から情報を手に入れたのか、家までやって来て学校まで連行する恐ろしい存在である。
「家に押し掛けてくることを考えると、確かに夏休み中にログアウト出来なきゃどうなることやら…」
「メールの通りだと、恐らく俺は家にいないだろうしな…」
「加えて、病院でもないだろ。 病院ならゴーグル外されてるはずだしな」
ナギの言う通りである。加えて、メールには『病院』等と一切書いていなかった。
「さて、動くとするか…」
夏休み中に終わらせる事を考えると、さっさと動いた方がいいとユウは判断した。
「でも、シナリオクエスト発生条件とか分からないんじゃ…」
「ナギ、調べてくれないか? 俺はレベルあげたほうがいい気がする」
ナギは少し考えたのち、了承してくれた。連絡用にと、フレンド登録をして別れる。
「さて、こういうゲームのレベル上げの定番の場所は、と」
ユウの知識では『森の中』や『次の町周辺』が定番の場所である。これは小説からの情報でもあり、ユウ自身でもそう思う情報である。
なぜなら、レベル1の現状で始めの町周辺の雑魚モンスターを倒しても、通常の経験知しか貰えないと思うからだ。それに対して、次の町周辺や、初心者には難易度の高いであろう森の中などだったら多少強いモンスターが現れ、それを倒すと周辺の雑魚モンスターよりも経験値が多く入る………と言うのがユウの考えだ。
ユウがマップを見る限り、近くに森は無い。ならば、次の町へ行くべきだろうと判断し、地図を縮小する。そうする事によって、マップの見える範囲が広くなるからだ。
「えーと…。 北に進めばいいのか」
地図の通りに進む。時たますれ違うプレイヤーなどはパーティを組んで仲良く草原でモンスター狩りをしている。戦いもせずに歩いているのなんて、ユウのみだ。
ふと、珍しい武器構成で戦っている少女を見つけ、そちらを見る。じっと見ていると頭上に名前とルートとレベルが表示される。
『名前:チル』 『ルート:かけだし』 『レベル:7』
だが、この情報よりも目が行くのはその両手に持つ武器だった。
「…っ」
無音の気合いと共に右手に持つナイフが突き出される。イノシシ型モンスター『ボア』はお構い無しに突進し、そのナイフの一撃を受ける。HPは削りきれずに、このままでは少女がはねられる、と思ったがひらりとボアの突進を避ける。ボアは突進の勢いでチルとの間合いを取るが、それが仇になった。左手に持つ拳銃を4発撃ってHPを削りきって消滅させる。
そう、チルと言う名のアバターが扱っている武器はナイフと拳銃である。どちらも片手武器だから、右手、左手にそれぞれ装備をしているのだろう。
ちなみに太刀は両手武器扱いにされている。だが、例え片手武器でもユウは二刀流などする気は無かったが。
「見てる場合じゃない。 行こ」
ユウは次の町目指して歩きだした。
程無くして、次の町が見えて来た。その町の周辺にいる敵は青いイノシシ『ブルーボア』である。通常のボアのレベルが1に対して、此方はレベル5だ。しかも、名前の横に☆マークが付いている。これは、【アクティブモンスター】を示すマークだ。
【アクティブモンスター】とは、此方が攻撃を仕掛けなくてもサーチ範囲内に入った瞬間に攻撃を仕掛けてくるモンスターの事だ。
「よし…」
ユウは腰にぶら下がっている鞘から太刀を抜き、【身体強化】を掛ける。まだスキルレベルが1なので、今あるのは【パワーアップ】のみだ。ちなみに効果は名前の通り、攻撃力を上げるものだ。だが、初期技と言うだけあって、全然数値に差は無いが。
続いてサーチを発動。これもレベルが1なので、【読み取り】しかできないのだが、この【読み取り】は恐らく高レベルになってもお世話になるだろう。敵の情報を見る事が出来るスキルだからだ。
【読み取り】によって、相手の弱点属性は火という事が発覚。直ぐ様、エンチャントの初期からある【下級ブレイズ・エンチャント】を掛ける。攻撃に火属性が加わるようになった。
何故、ユウが此処まで使いこなせているのかと言うと、やはり直樹の家でプレイさせてもらった時の感覚と直樹の教えが影響しているからだ。
「せぁっ!」
「フガッ!」
試しに一度斬ってみる。若干の攻撃力上昇、属性付与による弱点攻撃による一撃で、ブルーボアの体力は3割ほど削れた。
ブルーボアは怒り心頭の様で、突進を繰り出してくるが、ユウはそれを避け--。
「うわっ!?」
「フガァッ!」
なんと、通り過ぎだ後にバック走をしてきた。流石のユウも不意を突かれてケツアタックをくらってしまう。しかもHPの4割を削られた。
なんだか腹立たしく思ったユウは…。
「【一閃】」
太刀スキルの【一閃】を発動させ、火属性と攻撃力UPを乗せた太刀で地面と平行にに一閃する。流石に倒しきれないものの、残り1割まで追い込んだ。それに慌てたブルーボアが突進を仕掛けてくるが、突き出された太刀に突っ込んでしまい、そのHPを散らした。ほぼ自殺である。
【レベル2になりました! ステータスポイント10ゲット!】
文字と共に、ステータス画面が開く。そこにあったステータスは【STR】【INT】【DEX】【AGI】の4つだった。幸運は何処へ行ったのだろうかと思うが、これはVRゲームだ。相手の弱点部位を狙う事によってクリティカルを出す事が出来る。だからこそステータスから外されているのであろう。
ユウは【AGI】に7、【STR】に3使って確認ボタンを押す。ステータスを閉じると、ブルーボア2体に捕捉されていた。
ユウは久々に体験するVRゲームでの戦いに、高揚感を感じながらもブルーボアを屠り続けた。
よければ感想、誤字脱字報告よろしくお願いしますー!強制では無いのでご安心を!
修正1:ワン・ルート・オンラインからOne Route Onlineへ変更
修正2:ふと、珍しい武器構成で戦っている少女アバターを見つけ、からふと、珍しい武器構成で戦っている少女を見つけ、へ変更
修正3:職業をルートに変更