ほしねこによるチルの特訓
一週間開いた、だと…?
今度はもっと早めに出来るように頑張ります!
ユウとシキが巣窟をクリアする1時間程前にほしねことチルは巣窟を突破し、トランクィッロに戻ってきていた。
「やっぱりレベル凄い上がったね」
「13も…」
チルのレベルは35から48まで上がっていた。
それもそのはず、ほしねこのグラビティで数体ずつ足止めし、そこにチルの拳銃&ナイフスキルを撃ち込んで撃破、という作業を永遠と繰り返していたからだ。
その甲斐あって、レベルは勿論、ナイフ、拳銃のスキルレベルまでそこそこ上がっていた。
「まだ、ユウのレベルには追い付いていない。 ここで受けれるクエスト受けて」
「ん…」
チルはほしねこの言うとおりにクエストを受けて、今度はグランディオーソの森へと向かう。
「私が援護するから、ナイフだけで倒して」
「…? どうして?」
「下手に色々な物を使うより、それ1つだけ使った方がスキルレベルが上がり易いの」
「βからやってたけど、それは知らなかった…」
チルが受けたクエストにより、森の敵の配置が変わっている。
通常はファイター、アーチャー、マジシャンがいるが、チルのクエストによってウォリアー、シールダーが配置されている。その数、ウォリアーが10。シールダーが8の計18体だ。
「5秒の間に5体倒して…! 【グラビティ】」
「っ!!」
ほしねこの魔法により、同時に5体ずつウォリアーとシールダーを抑え込む。そこにチルが走り寄り…。
「【光突】、【縮地・一突】」
目の前のウォリアーにAGI全開の光突をぶち込み、少し離れた所にいるシールダーに向かって瞬時に距離を詰め、突きを繰り出す縮地・一突を放つ。この間、コンマ7秒。4,3秒内に倒すべき敵は、後3体。
「【蝶舞斬撃】」
蝶が舞うと書くように、チルもそのような動きで周囲で抑えられている3体を巻き込んで斬り刻む。が、2体のHPが僅かに残ってしまう。
「【スターシュート】」
グラビティを切ったほしねこが残りのMPを使って白く光る弾を2つ打ち出して残りのHPを奪い取る。
「ごめん、倒しきれなかった」
「これ、レベル50以上のパーティ推奨クエストだから、此処まで削れただけでもすごいと思う」
「でも、これじゃまだまだユウに追いつけない…」
「それはレベルと装備のせい。 そこさえ埋めれば、簡単に追いつけるし、制圧もできる」
そう言いながらほしねこはMPポーションを飲む。全回復までにはしばらくかかるので、ターゲットされない位置に移動し、少し休憩する。
「この調子だと、後どれくらいかかるかなぁ…」
「ハードな奴で良いなら、1時間くらいで簡単にスキルレベル上げ斬る方法知ってるけど…」
「取り敢えずその前に此処の制圧、ね…」
残り13体。
「さて、と…。 ハードな奴が良いなら直ぐにこいつら始末するけど?」
「…ん。 ユウのためだから」
チルは自分では気付いていないが、ユウに向けている感情は少なくともネットを通して繋がっている人に向ける感情以上の物だ。ちなみにほしねこはそこに気が付いてチルに提案を持ちかけた。
『私は一応GM。 ユウのお手伝いも出来て、管理もできるスキルを手に入れない?』…と。
最初はチルも疑っていたが、ユウと一緒に行動している時の事を挙げられてGMという事を信じる事にした。
ハイド系のスキルを使って潜んでいた可能性もあるかと思ったが、ネットなんだし騙された時はそれで良いや、と思いきった結果がこれだ。
「【大地よ、その身を砕き我の道を塞ぐ者にその一撃を与えよ グランドデストロイヤー】」
ほしねこは地魔法最強のスキルを使い、残っていた13体を纏めて攻撃する。
しかし、実はこのスキルは中心であればある程ダメージが上がるというスキルなので、中心から離れた所にいるシールダーが生き残ってしまう。その数4体。
「あ、やばい」
その4体のターゲットはほしねこに向く。一斉に剣と盾を構えて突撃して行く--所でHPを0にして散って行った。
「ほしねこでも仕留め損ねる事ってあるんだ…」
「GMとはいえ、権限も何もないノーマルキャラクターだし、当たり前」
「それもそっか」
チルは4体のシールダーを倒すのに使った拳銃を降ろしながら呟く。
「で、ハードな奴って何?」
「PVPだよ」
「えっ」
「まぁ、やって見ればわかるけど…。 死んじゃったら駄目だから…ね?」
ほしねこからチルにPVP申請を飛ばす。チルは多少困惑しながらも承諾を押す。
「最初から全力でいくよ。 【アイシクル・リンゲージ】」
「えぇっ!?」
いきなりの詠唱短縮最上級魔法にチルは身体強化によるAGI全力で魔法の範囲から逃れようとするが、逃げ切れずに被弾してしまう。HPは残り4割だ。
この技は初撃が当たるの後はフルヒットしてしまうというPVPではなかなかえげつない技の1つだ。
だが、詠唱を省略した事によりチルのMPは4割程無くなっている。チルはPVPモードに頭を切り替えて拳銃とナイフを構える。
「【縮地・一突】」
「【ファイアボール・バースト】」
「っしま--あぅっ!」
スキルによって距離を詰めようとした所に爆発する火の玉が飛来し、真正面から受けて吹き飛ぶチル。これで残りHPは2割。
「それじゃ、ユウの役に立てない」
「っ!」
チルは必死に考える。今の突撃のいけない部分。それは案外簡単に思い付く事だった。
「システムに頼るのは、いけない事…! 【エレメンタルマガジン】」
拳銃が虹色の光を帯びる。
拳銃スキル50で覚えるエンチャント無しで打てる属性の弾。どういう原理か、自分が思った属性を10発まで打ちだす事が出来るというスキルだ。
「【アイススピア】」
「っ」
アイススピアは氷魔法60のスキルだ。複数の氷の槍を生成して任意のタイミングで飛ばす事の出来る厄介な技だ。
だが、チルは正確に氷属性の弾を放って迎撃して行く。
「【アースクエイク】」
「ぅあっ!」
チルの足元の地面が揺れる。ほしねこは足をもつれさせて転んだチルに向かって残っていたアイススピアを横に並べて射出する。
「【アイス・エンチャント】、【蝶舞斬撃】」
なんとか起き上ったチルはアイス・エンチャントを掛けたナイフでスキルを発動させ、飛んで来る氷の槍を全て弾く。が、その間にほしねこは詠唱を始めていた。
「【星よ、その引力で他の星を此処へ導け メテオストライク】」
「諦め、ないっ」
チルの斜め上から巨大な隕石が落ちてくる。だが、チルはその隕石から目を逸らさずに拳銃を向ける。
「【エレメンタルマガジン・リリース】!」
全てを打ち出していない状態で、かつ5発以上エレメンタルマガジンの弾が残っていれば使えるえれメンタルマガジンの特殊機能。
その銃口から七色の光が迸り、隕石に向かって行く。この時、ほしねこはチルの意識が完全に隕石に向いていると思っていた。だからこそ、新たに詠唱を始める。MP的に、詠唱しなければ打てない状態なのだ。
だが、それは間違っていた。
「【縮地・一突】」
「っ!!」
七色の光を背景に、信じられない速度で距離を詰められて突きが放たれる。直撃を喰らったほしねこは詠唱が中断され、さらに背後へ吹き飛ばされる。削れたHPは3割。
「【グラビティ】!」
「無、駄…!」
チルは後ろに下がってグラビティの範囲から逃れる。ほしねこは舌打ちをして直ぐ様グラビティを解除し、杖を構える。が、それよりも早くチルが動く。スキルもなにも使わない唯の突撃。故に、ほしねこは迂闊にスキルを打つ事が出来なかった。
「【スターシュート】!」
「【リロード】、【ステップスラッシュ】」
左手に持つ拳銃でリロードを発動させながらナイフを振りながら右に飛ぶ。勿論、距離があるためにほしねこにその斬撃が届く事は無い。同時にスターシュートも外れる。
「しまった…!」
「【ストームバレット】」
ほしねこは銃弾の嵐をその身に受け、残りHPが1割程になるまで削れてしまう。が、まだ死んでしまった訳ではない。
「【大地よ、その身を砕き我の道を塞ぐ者にその一撃を与えよ グランドデストロイヤー】!!」
誰もが驚く様な早口で詠唱を完了させ、そのMP全てを使って勝負を決めに行くほしねこ。
対するチルは冷静そのもので、リロードを発動させながらSTRとAGIを全開にして地面を蹴る。
高く舞い上がったチルはそこから拳銃を相手に向けて、スキルを発動させる。
「【ナチュラルバレット】」
まだ持続時間ギリギリだったアイス・エンチャントの効果を増幅させた弾がほしねこに向かって放たれる。放った反動で少し上に上がったチルの下では、凄まじい爆発が起こっているが、着地する時には消えていた。
「まさか、グランドデストロイヤーをジャンプで避けるなんて…」
普通の能力値の人がジャンプしても避ける事は出来ないが、AGIとSTRに極振りしている人が全力で飛んで、さらに1秒以上空中にとどまる事が出来るのならば避けることは可能だ。
「もう、ユウの役に立たないなんて言わせない」
「うん。 その通りだね。 …で、スキルは?」
「結構上がってる」
「もう少ししたら流石にユウ達もシナリオ終わらせちゃうだろうから、もっとハイスピードでやる」
「上等。 もう魔法使いとの戦闘方法は理解した」
今度はチルからほしねこにPVPを申し込む。
暫く全力でのPVPが続いていたが、30分後にユウから「シナリオ7クリアした」とのチャットが届いたので、2人はトランクィッロへと戻って行った。




