全ての始まり
その日もまた普通な一日だった。
当たり前のように続く言葉の暴力、何度死にたくなったことか。
教師は当たり前のように見て見ぬふりをし、あるグループが自分に絡んでこない限りは普通に接してくれる知り合いたちもそのグループが一緒にやろうぜと言ったら嬉々として嫌がらせや嫌なことを言ってくる。
これが現代社会の縮図そのものだと何度実感したことか。
それでも自分は死ねない。
何れ見返す時が、復讐時がきっと来ると信じて。
そしてその時が来たと自分は思った。
普通の朝、普通のHRをしていたらいきなり日の光が差し込む窓は暗くなり、窓からは黒一色のみが見えた。
廊下に続くドアも窓も開かなくなり、苛立たしさを募らせ担任が自分に当ろうとした時だった。
「パンパカパーン!!おめでとう、君たちは見事、奴隷有、エルフや獣人と言った亜人有、悪魔や魔王と言った魔族、魔物有、ドラゴンやペガサスと言った厳重有な剣と魔法のファンタジーな世界に行けることになりました!!」
声の主は、半分が笑い半分が泣いている奇妙な仮面をつけ、道化師のような姿をした男とも女とも性別が分からない小さな子供だった。
ただし、宙に浮いている子供を子供と言えるのなら、だが。
「おい、貴様あまりふざけたことを言うな!!」
いつも自分を嬉々として嫌がらせをしてくる高口は宙に浮かんでいる子供に喧嘩腰に行った。
「ふざけてないさ。ボクは至って大真面目さ」
子供はとても楽しそうに言い切った。
「ああ、そうだ。まだ自己紹介してなかったね。ボクの名前はセムこれから君たちが行く世界の神の一柱さ」
それだけを言うと、クラスメイト全員が人ひとり分程度の大きさの白い光の柱に包まれた。
「わ!!」
「きゃっ!!なにこれ」
「おい、どうなってんだ」
「ここからだせ!!」
口々に文句を言い、光の柱から出ようと試みるが、触れた瞬間跳ね返され無意味に終わった。
そんな中、一部自分と似たオタク気質な者達はワクワクとした表情をしていた。
「ああ、何か嬉しそうな表情をしている人たちもいるけど、ボクが君たちに何かあげるとでも思ったの?そんなバランスを崩すようなことボクはしないよ」
意味深な表情で言うセムだが、俺TUEEEEしようと思い、奴隷ハーレムなり姫ハーレムや亜人ハーレムを目論んでいた者達は愕然とした表情となった。
「そんなに心配しなくても、才能が有れば億万長者や勇者、英雄それこそ建国して王様にだってなれるさ」
それを聞いた瞬間、喚き暴れていた者達さえ落ち着きニヤツキだした。
才能さえあれば何にでも成れる、現実ではあり得ないことだ。
それが可能な世界と言うのは下手したら今の世界以上にウマいのでは誰もがそう思った。
特に現実と言うものを嫌というほど知っている担任がその典型だった。
逆に言うと才能がなければ奴隷に落ちるそのことを皆頭から抜け落ちている様だった。
セムがいの一に奴隷有と言ったのにだ。
「それじゃあ転移するよ」
セムは楽しそうな声音で言うと、手を胸の前に拳一つ分開けて構えると青白い色を放つ幾何学模様が集約し始めた。
次の瞬間、幾何学模様が弾け飛ぶ自分達を閉じ込めていた光の柱にへばりつき出した。
「お、おいどうなってんだ」
「だ、だいじょう、ぶなの、か」
皆転移何てもの体験したことがないので当たり前の反応を示している。
そう言う自分も不安があるが、だからと言って今さらどうにかなる訳では無いのである種の諦めの悟りを開いていた。
ただ無念と言うか、やり残したことがあるとしたら復讐を成し遂げることが出来なかった事位だ。
もし、転移先で可能だったのならば出来る限り惨たらしい方法でしてやると自身に誓った。
「ああ、転移先は典型的なみんな同じ場所と言う訳じゃないから、どこに行くかはボク自身分からないギャンブルなんだ。一応陸地に転移するようにしているから行き成り海のど真ん中や空からダイブはないから安心してね」
それだけを言うと光の柱の光は強くなり幾何学模様も青白い色が一層強く光り出した。
眼を開くとそこは新天地、異世界と言う訳では無く、辺りを見渡すと白一色で十分もすれば発狂しそうなまでの空間が永遠と続いていた。
そんな世界からいきなり頭に話しかけてくる声があった。
『やあ』
これが、頭に話しかけて来ると言うものなのかと一人自分は納得していた。
『あれ?聞こえてない?そんなことない筈なんだけどな』
声の主は案外呑気なようだ。
「ああ、大丈夫聞こえているから。声に出して声の主に聞こえるのか悩んでいただけだから」
『なんだ、そんな事か。なら心配しなくてもこの通り聞こえているよ』
声の主は割と気さくに話しかけてくれた。
「それであなたは誰なんですか?」
『ボクかい?ボクは真理であり真実であり理想であり現実だよ。君たち人で言うところの名前、個別名称はないよ。むしろボクに個別名称を与えるだけの存在がいなかったともいえるけどね』
声の主は笑いながらそう言った。
「それでその大層な存在が自分に何か用なのか?」
『いいや、ボクとしては一切用はないよう。しいて言うなら君は世界と世界の移動の内に偶然ここを垣間見ているだけだよ』
あまりにスケールが壮大過ぎて理解が追い付かない。
『でも、偶然とはいえここを認識できたんだからなにかご褒美を上げないとね。何か欲しいものがあるかい?対価に見合った物を対価の数だけあげるよ』
「等価交換か。どこかの錬金術師と似通っている気もするが……でもいきなりくれてやって、新しい世界について出血し何て事無いよな」
『その辺りはきちんと配慮してあげるから安心して良いよ』
「じゃあ、左目をくれてやる。だから自分に忠実で学習能力が高く、戦闘力も高く等身大サイズの兵を数に制限なく召喚できる力をくれ。次に俺の老いる未来をくれてやるだから、元居た世界の武器、兵器、資源資材食料を含めた物資を量の制限なく即運用可能状態で召喚できる力をくれ」
『確かに承ったよ』
そう言った瞬間、身体に白い光が集まりだした。
次の瞬間、左目が潰れ左目のあった場所からは噴水のように血が飛び出した。
『君の言った代償だと、一番最初のは君の言った内容に加え一体だけ召喚でき、24時間に一回性能や学習したことを共有した状態で分裂出来ると言う制限が掛かってしまったね。二つ目は一日に5回だけしか召喚できないと言う制限が加わってしまったね』
「それで大丈夫だ。これで……」
戦力としては十分だ。
一日一回分裂すると言うことは、倍々に増えていくと言うことだ。
一年もしない内に復讐できるそれだけを思うと段々と意識が遠のいて行った。
これは、クラスメイトに嫌がらせやイジメに遭っていた自分、榮倉司の愛と勇気と裏切りと策謀と復讐の物語――