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なんでも屋稼業 その2新たなる任務

 なんでも屋ライフアシストのオフィスにて。

 なにやら士郎の怒鳴り声が響いてくる。

「社長、どうして俺の報酬が半分になっているんですか」、そう言いながら社長のデスクを両手で叩いた。

「まあまあ、落ち着くんだ。君の気持ちも分かる。だがなー・・・」善次郎は何とかなだめようと必死になっている。

「だがなあじゃあないですよ。俺は命がけでやったんだ!」

「ああ、それも良く分かっているつもりだ。しかし、あの竜崎社長が、ジョー黒崎と折半にしてくれ頼んできたんだ。竜崎社長には色々と世話になっているからなあ。分かってくれよ」

「ちっ、ジョー黒崎か? 確かにあいつは有能かもしれんが、今回は俺の方がずとっと頑張っているぞ」

「ああそうだな、だが最後に神風を捕縛したのはジョーだったんだ」

「ふん、それだって俺が居たからこそできた事だ」

「分かった分かった。次はボーナスを弾んでやるから、頼むよ」

 それでも士郎は釈然としない表情で、ふと腕時計を見た。

「おっと、大学の授業がある。この科目は出席日数が足りなくて単位を落としそうなんだ。この話はまただ」、そう言ってあわてて出て行った。

 善次郎は、それを見て、ホッとため息をついた。「あいつ、プライドが高いからなあ。報酬は半分でも充分過ぎるほどなのに」


 それから2週間ほどは何事も無く過ぎた。

 士郎もちょっとリッチになったので、金の心配もせずに大学生活を大いに楽しむ事ができた。

 そんなある日、大学で授業を受けていた時の事だ。

 時々、眠くてコックリ、コックリと船を漕いでいると、胸ポケットの携帯が振動した。

 ライフアシストからのメールである。

『士郎、久々にお前に相応しい仕事をやる。まあ大した事は無いが、ある最先端テクノロジーで作られたナノマシーンを運んで欲しいだけだ。とりあえず東村山にあるナノマシーン研究所へ行って、一の谷博士に会ってくれ。そこでマシーンを受け取り、北陽大学付属病院まで運ぶ、良いな、ただそれだけだ。ただし、報酬は弾むぞ』

 報酬をはずむという言葉にほくそ笑んだ。

 この男、お金には目が無いようだ。お金のためなら命がけの仕事でも何でもやる覚悟のように見える。


 翌日、彼はジーンズ姿に黒いフルフェイスのヘルメットを被り、ナノマシーン研究所へと向かった。

 東京都とは言っても、東村山まで来ると大分のどかな風景が広がってくる。その風景を楽しみがら忍者の里の事をふと思い出していた。

 そんな事を思いながらバイクを走らせていると、前方に巨大が発電設備を持った研究施設が視野に入ってきた。

 門の前まで来て改めて見ると、巨大な発電設備に比べて、研究棟はやけに小さく見える。

 だが、敷地は広い。

  研究棟の横には五面のテニスコートがあるし、またゴルフの打ちっぱなしの設備もある。奥の方には体育館も見える。

 そこここで、研究員やスタッフ達が汗を流しているようだ。

 最近の傾向として、大きな研究施設では、自由な発想、画期的なアイデアを生み出させるために色々と工夫している。気分転換に運動をするのも良い効果があるそうだ。

 突然テニスコートの方から若い女の子の声が響いてきて我に返った。


 警備室に居る丸顔で頭の禿げた、人の良いおじさんに来訪の目的を告げた。

 「城島さんですね。一之谷博士がお待ちしております」と言って、人懐っこい笑顔を作り、入門証を渡してくれた。

 士郎はそれを首に掛けて、研究棟の玄関へ急いだ。

 玄関の戸を開けて入って行くと、身長150センチ程の小柄な女性が待っていた。

 いかにも事務員風の服装をし、度が強そうな黒縁の眼鏡を掛けている。

 とうみても、冗談は通じそうも無い。

 「いらっしゃいましぇ。城島さんでしゅね?」と言って、士郎に向き直ってお辞儀をした。その声は、舌足らずの子供のような声で、どう見ても姿かたちと合わない。

 士郎はたまらず、「ぷっ」と吹いてしまった。

 この女性は、それを見て士郎を度の強い眼鏡越しに睨み返してきた。

 士郎は、『これはまずい』と思い、「失礼しました。城島です。よろしくお願いします」と若者らしい、はきはきとした声で応じた。

 それでも機嫌は直らない。彼女は相当自分の声を気にしているのだろう。

 そんな士郎の姿を見ながら、彼女は素っ気ない素振りをして「私に付いて来なしゃい」と言った。

 本人は、ぶっきらぼうに言ったつもりなのだろうが、士郎にはかわゆい声に聞こえてしまうのだ。

 士郎は、彼女の背中を追いながら、可笑しさを噛み殺していた。

 エレベーターの前に来て、彼女は突然振り向いた。

 すると、士郎のにやけた顔がそこにある。

 彼女は、その顔に向かって、はき捨てるように「ここに乗るにょよ」と言う。

 士郎は、またも大笑いをしたい所だが、ここは我慢をして「はい」と言おうとしたが、「ハヒイ」と口から出てしまった。

 彼女の機嫌は益々悪くなる一方だ。

 しかし、笑いを堪えるのも苦痛である。

 エレベーターは、地下3階で停止した。

 そこへ出ると、そこには様々な研究室が並んでいる。

 基礎研究、生物への応用、環境への応用などの分野がある。

 士郎は感じていた。地上には小さな建物しか露出していないが、逆に地下は広大な空間を研究施設が占めているようだ。


 どれだけ、歩いただろうか。前を歩く彼女の足が、ふいに止まった。

 彼女の前には、ナノマシーン応用研究室とあり、その下に室長一之谷と書いてある。そして、彼女の横ではいくつかの光が明滅しながら上下に動いている。

 やや経ってから、機械音で「田島事務員ですね。どうぞ、お入り下さい」と言った。すると前の扉が開いた。

 この時、漸く士郎はこの女性の名が田島だという事を知った。

 そこを入ると、今度はガラスのドアがあり、脇にはインターホンがあった。

 ガラス越しに見える研究室には、複雑そうに見える様々な機械がある。また、モニター画面には、世にも奇妙な形をしたウィルスのようなものが、うじゃうじゃとモニターの中を歩き回っている。

 そんな光景に見とれていると、再び彼女の舌足らずの声が響いてくる。

 「一之谷はかしぇ、城島しゃんをお連れしました」

 すると、インターホンからちょっと戸惑ったような声がしてきた。

 「えーと、その・・・・、君、誰だって?」

 田島は、ちょっと困ったような素振りをしていたが、2回ほど咳払いをしてから、「はかしぇったら、私、田島でしゅよ」と言った。

 インターホンからは「ほ、本当に田島君なのか?、よし分かった、とにかく行くよ」と言ってきた。

 それを聞いて、田島は胸をホッと撫で下ろす。

 そのやり取りを聞いていた士郎は、またも可笑しさがこみ上げてきた。あまりにも我慢しすぎて、目から涙が出てくるし、お腹まで痛くなってくる。


 ほどなくして、一之谷博士がやって来て、ガラスのドアを開けてくれた。

 「ああ、やっぱり田島君か! いったいその声はどうしたんだ?」

 博士は、50歳前後で白髪交じりの顔をしているが、目はエネルギッシュである。

 だが、今はその目は不思議そうに田島を見つめている。

 「はかしぇ、実は田所博士の研究室で誤って、変なガシュを、しゅってしまったんでしゅ」、やはり甘ったるい声で語った。

「ほう、それで体の方は大丈夫なのか?」

「ええ、それは大丈夫なんでしゅが、声だけはだめなんでしゅ。2,3日はこのままだそうでしゅ」、田島は悲しそうな、訴えるような目をして言った。

「そ、そうなのか。まあ田所先生には気を付けた方が良い。あいつは昔からそそっかしいからなあ」

「はい、注意しましゅ。ええ、それでこちらが城島しゃまでしゅ」と言って、可愛い溜め息をついた。

 「そうか、分かった。田島君はもう帰って良いよ」と、気の毒そうな顔をして言った。

 「はい、そうしましゅわ」と言って、肩を落として出て行った。

 その様子を見ながら、士郎は必死に笑いを堪えている。

 「君が城島君か? 大丈夫か、顔が真っ赤だよ」

 「あっ、はい。大丈夫です」、士郎は田島の後姿を見ながら、ホッとしていた。

 「うん、それなら良いが。とにかく見せよう。君に運んでもらいたいマシーンをね。付いて来てくれ」


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