なんでも屋稼業 その1 ジョー黒崎登場
一方、神風、三郎、竜崎、それに4人のライフルを持った男たちは、大きな爆発音と同時に周囲にあった塀の一部を破壊する。
そこが、彼らの脱出ルートとなる。そこを抜けて暫く走って行くと、こんもりとした茂みがある。
その中を掻き分けて入っていくと、黒塗りのリンカーンとバンが置いてある。
この車で、彼らは逃走しようと企んでいる。
「さあ、早く乗るんだ」、神風が命令する。
リンカーンには、すでに一人の犯人グループのメンバーが乗っていた。セキュリティルームに居た人物である。
神風はその男に運転するように命じ、自分は助手席へ、三郎と竜崎は後部座席へと乗り込んだ。
他のメンバーはバンへ乗り込む。
「ボス、行きますぜ」、その声に神風は軽く頷いた。
ところが少し前方へ走った途端に、“プシュー”という音がする。
「パ、パンクしたようです」動揺した声が響いた。
「どうした、何があった」
「ボス、地面をよく見てください。何かありますよ」
ヘッドライトに照らし出された地面には、黒光りする何か鋭いものが無数に転がっている。
「ああ、あれはマキビシですよ。忍者がよく使う」と、三郎が言う。
「くそ、あの忍者の仕業か・・・!」そう言って、神風は悔しがった。
バンに乗っていた者たちも降りてきた。
「だが、あの忍者は雷電が始末したはずだ!」と神風が言ったとき、彼の足元で何かが刺さる音がした。
クナイである。
よく見ると、そのクナイに紙が巻きついていた。
神風がクナイを地面から抜き取り、その紙を広げて見た。
『雷電は眠った。次はあんた達だ! 忍者より』という文章が書かれている。
さすがの神風も冷や汗が出た。
「あの忍者は生きている。注意しろ」
ライフルを持った男たちは身構えた。
暫くすると、赤く燃えた物体が何処からともなく、空高く舞い上がり、こちらに向かって飛んでくる。
ライフルを持った男がそれに向かって発砲する。
すると、その物体は彼らの頭上でバラバラとなり、その一つ一つの破片がまばゆく煌いた。
その瞬間、光の中から恐ろしい速さで、何かが襲い掛かってくる。
“ドス、ドス”という鈍い音とともに、ライフルを持つ男たちが次々に倒れていく。
その影は三郎にも襲い掛かるが、彼は身軽にそれをかわした。
暗闇の中で士郎は思った。『なんだ、あの三郎という奴、たんなる鍵師ではなさそうだ』
月の淡い光の中に残されたのは、神風、三郎、それに竜崎の3人となった。
神風は咄嗟に竜崎を引き寄せ、彼の頭にピストルを突きつけた。
「おい、聞こえるか忍者! 次に何かしでかしたら、こいつの命は無いぞ!」と、大声で叫ぶ。
静寂が辺りを包んだ。
士郎は、何も答えない。
神風が三郎に命じた。「バンを出せ」
しかし、三郎は動かない。
「どうした三郎、早くするんだ」神風の怒声が飛ぶ。
三郎が口を開いた。「神風さん、もう諦めた方が良い。あんたの負けだ」
どうも三郎の様子がおかしい。しかも今までの神風にへつらうような声ではなく、むしろ威厳のある声だ。
神風の顔から血が引いた。
「きっ、貴様、俺を裏切るのか!」怒りと動揺が入り混じったような声だ。
「あんた、まだ分かっていないのか?」三郎は、そう言いながら素早く動き、神風のピストルを持つ手をねじり上げた。
恐ろしい力である。
「イテテ、お、お前はいったい誰だ。三郎じゃあないな?」
「ふふ、漸く分かったようだな。俺はジョー黒崎。竜崎社長のガードマンだ」、そう言いながらポケットから紐を取り出し、器用に神風の両手首を縛り上げた。
そして、次に竜崎の縄をほどいてやった。
竜崎は、やっとほっとした表情をして、ジョーに顔を向けた。
「お前、本当に見事な変装だな。どこから見てもジョーとは思えない。本当に助かったよ」
「竜崎さん、それはどうも」と言いながら、ジョーは自分の変装を解いた。
三郎の顔の下から出てきたのは好青年で、やや金髪がかった髪の毛と、賢そうな目、頑丈そうな顎が印象的だった。
「社長、もう一人、礼をいう奴がいますよ!」
「ああそうだ、あの忍者だな。たいした男だが、一体どこに居るんだ?」、 竜崎は暗闇の中をキョロキョロして探し回った。
「おーい忍者! いや士郎君だろ。早く出て来るんだ」、ジョーはそう言いながら地面に落ちていたクナイを抜き取り、そのまま右手方向の草むらに向かって投げた。
すると黒い影が、音も無くハイジャンプし空中で一回転して着地した。
士郎は意外な展開に驚いていた。ジョー黒崎という男も信用できないと思っている。
士郎は、ひと声「ジョー黒崎!」と叫び、音も無く歩いて行く。
それに応じるかのように、ジョーはにこやかに手を振った。
「なぜ、俺の名前を知っている?」
「ああ、善次郎さんから聞いているよ」と、涼やかに言う。
善次郎、そう何でも屋ライフアシストの社長である。
「ほう、ということはお前もライフアシストの社員なのか?」
「昔はな、だが今は違う。ただ善次郎さんとは、時々連絡を取っているのさ」
「なーんだ、俺の先輩って事か!」ようやく、士郎の顔から疑問が取れ、笑みがこぼれた。
「そういう事だ。また君とは長い付き合いになりそうだ」と言って近寄ってきて、士郎と握手をした。
その時、ガクっと首を下げていた神風がつぶやいた。
「そうか、金庫が開かなかったのは、三郎、いやこのジョーという奴が細工をしたためだったのか・・・」
「まっ、そう言う事だ!」と、ジョー。
「なるほどな。だがな竜崎、お前の強引な企業買収によって恨んでいる者は大勢いる。これで終わりだとは思わん事だな」と言いながら、ギロリと竜崎を睨みつめた。
ホッとしていた竜崎の顔に不安がよぎる。
「竜崎さん、そんなに心配するな」とジョーが竜崎の肩を叩きながら笑った。