なんでも屋稼業 その1 雷電
男が金庫室の前まで来ると、「こ、ここが、金庫室だ」と、震える声で言う。
「よし分かった。ありがとう・・・・。悪いがここで少し眠っていてくれ」、士郎は男の急所を突き、気絶させた。
『さあ、ここまで来たぞ。さてどうするか?』、士郎は思案した。
すると、金庫室のドアが突然開いた。
ドアから雷電が、縛り上げた竜崎を前にして出てきた。
竜崎は後ろから拳銃を突き付けられている。
雷電がしゃべった。「おい! 誰だか知らんが、そこに居るのは分かっている。出て来るんだ!」
すでに、士郎の姿はそこには無い。
だが雷電は天井に向かって短剣を投げた。
不思議なことに短剣は、天井に刺さる途中の空間で静止した。
暫くは静寂が続いたが、突然甲高い笑い声が響く。
「はっはっは、どうやらバレていたようだな」
すると、天井がもこもこと動き、士郎が降りてきた。
「あんた、なかなかやるなあ。他の奴とは違うようだ!」、士郎はにこにこしながら言った。
「お前は何者だ? 随分仲間を痛めてくれたようだが」、雷電が怒気を含んだ声で言った。
「俺か? まあ名乗るほどの者ではないが・・・。そうだなあ、忍者とだけ言っておこう」
「忍者だと? この時代にそんな者がいるのか? 何はともあれ、この男を助けにきたんだろう」
「そうさ、おいおい竜崎さんを傷つけるんじゃあないぞ」
「ふん、ならば下手に動くな。こいつを殺す事になるぞ」
「殺すなよ、殺したら金庫は二度と開かない」
「そんな事は無い。こいつの目があれば良いんだよ」
「ちっ、それはまずいな」
雷電と話している内に、士郎の周りにライフルを持った男4人が来て周囲を塞がれた。
地下の迷路で、竜崎を探していた者たちが戻ってきたのだろう。
「おやおや、これで一層俺の立場が悪くなったようだな」、士郎は周囲を見ながら他人事のように言った。
雷電は「諦めろ!」と言った後、ライフルを持った男たちに「この忍者をあの椅子に縛り付けておけ」と命じた。
縛り付けられた士郎に向かって、「おい、良い物を見せてやろう。金庫の中を拝ませてやる」と言った。
「ああ、期待しているよ」と士郎。
「おい、遊んでいる暇は無いぞ。警察がこちらの異変に気付いたようだ」、神風がイラついた声で催促した。
「分かってますよ、ボス!」と雷電。
雷電は、竜崎を網膜認証システムの前に立たせ、スイッチをONとする。
ところが意外な結果が出た。
機械音で、「認識できません」と応答があった。
雷電は何回か繰り返すが、結果は同じだ。
「三郎、どういう事だ。どこかで間違えたという事はないか?」
三郎は、雷電に睨まれて、少し動揺するが「いや、俺の仕事は完璧だ」と、はっきり言った。
神風は竜崎を睨みつけた。「お前、何か細工をしたな!」
「お、俺は知らん。どういう事なんだ?」、どうやら一番驚いているのは竜崎のようだ。
そこへ、セキュリティルームからの無線が入る。
「ボス、警察が突入してきます。奴ら三階からの攻撃が無いことに気付いたんだ」
「分かった、すぐに脱出するぞ」神風は決断した。
彼は竜崎に向き直った。
「金庫の金は諦めるが、お前は連れて行く。身代金をたっぷり請求してやるからな」、そう言って神風は竜崎を伴って駆け出した。
そして、部屋を出る直前に一言。
「その忍者は、お前が仕留めて置け」と雷電に言った。
三郎も神風の後を追う