異変の兆候
「つーわけで、大体が俺の5尾に合わせた力に抑えれば楽しめるかな」
魔理沙との実験を追え、翌日に訪れたいつもの面子に加減の度合いを教えてやる。
「5尾ですか。そうすると、私は両手両足に錘が必要ですね」
「身体能力が異常な鬼神は苦労するな」
「うちとか、清明はんは出力を抑えれば問題ないな~」
つっても、麻耶の場合は能力を使わないという制限がつくが。てか、清明は魔理沙なんかに色々と教えているから加減の度合いわかるんじゃないのか?
「弟子として見ているから、分からん」
分からないので、尋ねてみたらそんな言葉を返された。てか、陰陽術師のはずなのに、いつの間にか魔法使い達の師匠的な立場になっているなこいつ。
「いかんせん、古いからな。昨今の技術とじゃ折り合いが悪い。まぁ、その分、相手に手の内を分かりづらくさせられるが」
なるほどなぁ。あれ?でも、博麗の巫女なんかはつかえるんじゃね?
「確かに教えてはいるのだが……今回の巫女は一癖どころの話じゃないからな。そういう意味では真理の好みに合うという感じか?」
なんじゃ、そりゃ。博麗の巫女って元々が曲者ぞろいだろうが。先代の霊音もあれで中々の曲者だったが。
「ねーねー、お話は終わった?」
今まで俺達の会話を俺の膝の上で黙って聞いていたフランが区切りがついたところで話しかけてきた。
「そうだな、大体終わったかな?」
「フランさん。いい加減、真理さんから降りなさい!羨ましい!」
相変わらず、本音が駄々漏れだな玲央は。
「べー!真理兄様がいいって言ってるんだもんねー!」
ちっちゃく舌をだして拒否するフランに玲央の怒りのボルテージが上がっていく。
「よろしい、ならば……」
「ガキ相手に熱くなるな」
「はい!」
「見事な忠犬っぷりだな」
「子供達に見せたらどないなるやろな~?」
俺の言葉に素直に頷く玲央に苦笑いの清明と、ニヤニヤと面白いおもちゃでも見つけた子供のような表情の麻耶。
まぁ、こんなんでも、普段は大和撫子みたいな感じでこの中では女子力が一番高いからなぁ。
そういえば、フランが俺を兄様と呼ぶようになったのはいつだったかな?気づけばそう呼んでいたんだが。
あぁ……前に、玲央たちに向かっておばちゃんとかぬかして痛い目にあったときだったかな?
俺としちゃもういい歳したじじぃな訳だし女呼びされなければどうとでもよかったんだが。ついでとばかりにそう呼ばれだしたんだったな。
「そういえば、フランは何しに来たんだ?」
この家に誰かしらが来るなんて日常茶飯事なために、用件も聞かずに上げたが、目的を聞くのを忘れてた。
「えっとねー……なんだっけ?」
フランも用事があってきたことを思い出そうとしたのだが、結構な時間を遊んでいたからか、忘れてしまったようだ。
「それは私が説明しよう!」
「礼儀を知りなさい。呼び鈴を鳴らして出直しなさい」
スッパーンと障子を開け放ち、現れたのはフランの姉のレミリアであった。だが、しかし、現れた瞬間に椛に襟を掴まれ引きずられていく。やがて玄関から投げ捨てるように放り出された。
その後、呼び鈴が鳴り、椛に案内されてきたはいいのだが、涙目である。
うちはかなり大らかな家系なのだが、最低限の礼儀はしれと教えているために、こういう細かいことにはわりと煩いのだ。
ちなみに、一番の礼儀知らずは間違いなく俺なのだが、分かっていてやっているから別になんとも思わん。丁寧な対応をしろと言われれば出来るが、ただ、やる理由がないからやってないだけだし。
「もーお姉さまったら、慎みが足りないわよ」
妹にまで言われる始末である。哀れ、レミリア。
「うわーん!咲夜ー!」
突如駆け出したと思ったレミリアが、いつの間にか現れたメイドに泣きつく。だがしかし、メイドも一連の動作を見ていたら分かったはずなのだが、椛にレミリアもろとも玄関から投げ捨てられた。
「椛ちゃんはこういうことに関しては煩いな~。乙女としては間違いやないけど」
「そこらへんの躾けをしたのは全部お前等だからな?」
俺は自由に育って欲しいと思い、わりと自由に育てていたが、礼儀作法なんかは玲央たち含め、こいつらが仕込んだことだし。
まぁ、女性としての魅力が十二分に備わったとなったから俺としてはありがたいがね。
「ねえねえ、お兄様」
「どうした?」
椛が軽く説教をしているのをBGMにフランがこちらを見上げながら話しかけてきた。
「私ってもう、お外に出ても大丈夫?」
「俺じゃなくて玲央に聞いてくれ」
ぶっちゃけ預かったはいいが、ほぼ放任主義の俺に子供の再教育なんかは出来るわけなく、玲央に任せっきりにしてしまった。こういう部分では玲央は本当に優秀だな……暴走癖がなければ完璧なんだが、天は二物は与えないってことか。
「玲央お姉さま、どう?」
「問題ないですよ。フランさんも今まで溜まっていた鬱憤が原因でしたし、ここで開放的に生活されて、鬱憤も晴れ、気持ちも落ち着いていますからね」
「やったぁっ!」
今までは、ここと紅魔館の往復か、玲央同伴でしか外にいけなかったが、これからはフラン一人で外に出ても大丈夫というお墨付きを貰ったわけだ。
「だから、それで話があるの」
説教は終わったのか、レミリアは涙声で会話に割って入ってきた。後ろにはバツの悪そうな顔をしたメイドが……ただ、なんで若干ほっこりした顔をしてるんだ?
「フランが外に出るのならば、ある程度は大々的にやりたいと考えていたら、幻想郷の管理人がやってきてな」
「また、あいつか……ちょっと待ってろ」
そういい残し、フランを下ろして立ち上がり、一気に八雲家へと飛んだ。
「む?真理か。どうかしたか?」
「ちょっと、あの紫を借りていく」
「構わんが、やりすぎないでくれ」
「あいよ」
藍に許可を貰い、紫の部屋へと向かった。
「アッー!」
「ただいま」
「げふ」
ボロ雑巾になった紫を適当に放り投げ、再び座ると、自分の席はここだといわんばかりにフランが座ろうとしたが、何故か椛が先に座った。
「おい?」
「あ、いや、こ、これは!」
椛もほぼ無意識だったのか、俺に指摘され、真っ赤になりながらあわくちゃと手を振りながら言い訳を探している。
「椛さんも小さいときは本当にお父さんっ子でしたからねぇ」
「そうやなぁ。どこに行くにも一緒についてまわっとったし」
「それに、膝の上に乗るのもそうだったな」
「うぅ……」
昔話を暴露され、さらに真っ赤になる椛。かわいいな。隣に座らせて頭を撫でてやると、真っ赤になりながらも嬉しそうだ。
「んで、なんで紫が関与しているんだ」
「ピチュらせといて放置した挙句に、何事も無かったように進めるな!」
知らん。
「はぁ」
思いっきり溜め息を吐く紫。この歳で苦労性とは同情しない。同情するならこいつに仕えている藍にする。あいつ、こいつとルーミアの世話しているんだもんなぁ、えらいわ。
「んで?」
「ほら、博麗の巫女が新ルールを提唱したでしょ?どうせなら、この子たちには序にそのルールにのっとった異変を起こしてくれないかしらって」
「いやいや、異変を起こしたら、後に残るのはないだろ」
「ないな」
俺の言葉に紫より早く反応したのは清明だ。
「今までの巫女ならば、滅して終いだったが、今度の巫女は遺恨を残さないためにも基本的に撃退して終いだ」
「へぇ、珍しい奴だな」
「無論、害意しか振りまかん奴には流石に容赦はせんが、話が通じるようなやつであれば、基本的にはそんな感じのやつだ」
「面白い奴だ」
「やっぱりな」
「そういう反応するわよね」
清明と紫が揃って溜め息を吐く。そういや、清明が俺の好みの奴だといっていたが、なるほど、的を射ている。
「というわけで、今度の異変は貴方は出ちゃだめよ?新ルールの実戦とお披露目が目的なんだから」
「いつも言っているが、こっちから喧嘩を売った記憶はないんだがな」
いつも売られる側で買っているだけだ。
「そういうわけで、フラン、ど派手に華麗に決めるわよ」
「そうね、お姉さま」
やる気になっている姉妹はいいんだが、結局あのメイドは誰だったんだろうか?なんか、片隅で顔を隠しているんだが、若干血のにおいがしたのはなんでだったんだろうな?




