弾幕ごっこ
「ふむ……」
「おーい、やろうといったのはそっちなのに、いつまでちんたらしてんだー」
霖之助から貰ったルールブックを読んでいると、待ちきれないのか魔理沙が俺をせかしてくる。ったく、最近の若者は待つことを知らんのかねぇ。
「ん?気にせずかかってきな。俺に攻撃を当てるやつなんて早々おらん」
未だに読んでいる途中だし、いまひとつ理解できない部分が多いために、時間がかかりそうだ。なので、読みながら相手をしてやるとする。
「っ!私を嘗めたこと後悔させてやるぜ!」
俺の言い方が気に入らなかったのか、怒気を含んだ声で高らかに一枚のカードを取り出す魔理沙。
「魔符【イリュージョンスター】」
高らかに宣言すると同時に、魔力を含んだレーザーらしきものが俺に向けて飛来する。速度も速く、隙間も中々に少ないから不意打ちで打たれたら避けづらいかもしれん。
「よっと」
「弾いた!?」
「え?ダメなの?」
流石に一尾だとちょっときついために、近づいてきた一本を片手で弾いたのだが、魔理沙が物凄く驚いた。
「ぎりぎりセーフじゃないかな?直撃して耐えました。は、ダメだろうけど、それくらいは障壁や結界での防御の延長だといえばそのままだし」
「よかった」
「てか、本を見ながらどうやって、弾いたんだ!?」
「気配」
元々が野生動物の延長である俺の気配察知は他のやつ等よりも優れている。まぁ、能力との相性もあるからそこからきているのかもしれないけど。
「よし、とりあえずは攻撃を弾くのはぎりぎりセーフと」
「便利なの持っているね」
「前に外行って買ってきた」
俺が万年筆を使ってルールブックに記載しているのを見た霖之助が物欲しそうな顔をしてるから、経緯を教えてやる。
「ちくしょう!」
「っと、流石にこれは被弾するな」
更に激昂した魔理沙は攻撃の密度を上げてきた。ただ、ルールブックにも書いてあるが、避けられないものはダメと書いてあるように、回避不可能とまではいかない。ただ、滅茶苦茶シビアだが。
「う~ん……3尾開放」
とりあえず、現状のままだと近からずに被弾してしまいそうだったので、力を解放する。
「尻尾が増えた!?」
「魔理沙。彼は、普段力の大部分を封印して過ごしているんだよ」
俺の尻尾が増えたことにより驚く魔理沙に霖之助が丁寧に説明している。ふむ、あまり人付き合いが好きじゃないこいつが、他人に気を使うとは、彼女には何かあるのかね?
「ほれ、嬢ちゃんかかってこないのか?」
「っ!」
俺の挑発に面白いように乗っかる魔理沙。今のままじゃ、麻耶にいいようにおもちゃにされかねんなぁ……俺にも該当するが。
「とりあえず、ほれ」
「うわっ」
器用に箒を操作して俺が撃った妖力弾を避け、難を逃れる魔理沙。
「後方注意」
「は?……うわっ」
俺の注意に一瞬、何を言っているのか分からなかったようだが、直ぐに思い至ったのか慌てて回避行動に移り、成功する。後方から戻ってきた妖力弾はそのまま俺の近くまでやってきて留まり続ける。
「弾幕が戻ってくる?」
「アリス、霖之助!今の、若い連中ってこの程度できないのか!?」
操作弾を使っただけなのに、かなり驚いている魔理沙に俺も驚いてしまい、大声で二人に確認する。
「そんな簡単な術式じゃないわよ!」
「僕は戦闘は専門外だよ」
大声で返してくるアリスと、役に立たない霖之助。えー……この程度は普通にできんだろ?
「あんたや清明とかが特殊なの!」
「いやいやいや、麻耶にもできんぞ」
「理不尽組みと一緒にしないで!」
「ほら、真理。鬼神殿だってできないだろ?」
「おぉ」
ポンと手を撃って納得する。確かに玲央もできんな。まぁ、あいつ自身が弾幕が苦手なだけだけど。ただ、苦手なだけで出来ないわけじゃない。
「でも、これって俺が3つぐらいの時にはできていたような?」
万年前になるからあやふやだが、生まれて直ぐに弾幕の修行をさせられたような記憶があるんだが……それに、玲央の場合は拳こそってやつだから練習しなかったせいじゃないのか?それとも、操作弾って必修科目じゃないのか?
「余所見とは余裕すぎだぜ!」
タンマともストップとも言ってないために、戦闘中によそ見している俺に攻撃を仕掛けてくる魔理沙。ここら辺は、いい感性しているな。勝負ごとに卑怯もへったくれもないしな。
「んじゃ、弾の数を増やすかね」
今まで使っていた妖力弾を一旦消し、今度は5つの弾幕を作る。色は、赤・青・緑・黒・黄だ。
「五行!?」
「お、一発で見抜くか。いや、清明の名が出ているし、ある程度は師事しているのかな?」
あいつって、わりと面倒見がいいし、何より将来性が高いやつには結構気にかけてやるやつだし。昔だと、畏れられすぎてできなかったからなぁ。
「きゅっとして、どっかーん」
どこぞの吸血鬼娘の台詞をパクリ、魔理沙の横を通過しようとした瞬間に弾けさせる。
「うわっ、っと、この!」
「上手い上手い」
手を叩きながら、魔理沙の攻撃を避ける。まさか、奇襲という意味でやったのだが、避けられるとは思ってなかった。
「ぐぅ、完全に馬鹿にされている」
「まぁ、人を見た目だけで判断すると、火傷じゃ済まないっていい例だな。勉強になっただろ?」
「生憎と、この魔理沙さんに反省って言葉はないだぜ」
「いや、それは重要だろ?」
後悔がないのは別にいいんだが、反省は必要だ。じゃなければ、同じ過ちを繰り返すだけだし。
「これでどうだ!恋符【マスタースパーク】!」
「これは、幽香の?」
マスパっていやぁ、幽香の代名詞だと思っていたのだが、こんな小娘まで使うもんなのか?幽香が教えるとは到底思えんが。
突き出したミニ八卦炉から極太の閃光がこちらに向かって襲い掛かってくる。
「4尾は……ちときついな。5尾開放」
3尾のままでは防ぐことも交わすことも出来なかったので、一気に5尾まで開放し、向かってくるマスパに対して一枚のカードを宣言した。
「四獣【朱雀・暁】」
宣言すると同時に大きな焔が、鳥の形を象り、魔理沙のマスパに向かって突っ込んでいった。
激突する力だったが、自力が違うのか、はたまた力を使いこなしてないのか知らないが、均衡は破れて俺の朱雀が魔理沙に着弾した。
因みに、今回は練りこまなかったが、あれは着弾と同時に炎の竜巻を発生させて近くのものを燃やすように巻き込む性質がある。
流石に、練習ということと、一瞬で作り出したために練りこみきれなかった。
もうもうと煙が立ち込めていたが、やがて止むと、中からは多少ボロボロになった魔理沙が飛んでいた。
「だー!負けたぜ」
「当然ね」
「勝てたら幻想郷のバランスが崩れていたんじゃないかな?」
勝負も終わり、再び香霖堂へと戻ってきた俺達だが、よほど負けたのが悔しかったのか、魔理沙が文句を垂れる。
「しっかし、マスタースパークなんてどこで教わったんだ?」
「ん?あれは、いつだったか、天辺に向かって極太の閃光が走ったのを見て、清明に聞いたら、そういう魔法だと教えてもらったから、私なりに再現したんだぜ!」
「ちなみに、本人が打つと、最初のレーザーぐらいの太さしか撃てないわね」
「おいおい、アリス。そのことは秘密にしてほしかったぜ」
天に向かってって、あれか?俺か玲央が相手してやっているときの幽香が放ったのを見ていたのか?つまり、わりと俺達の戦いって人に見られている?問題でもないから、別にいいけど。
しかし、見ただけで独自で再現しようとしたこいつはわりと、霖之助が言うように才能はあるかもしれんな。
「しかし、よくやろうと考えたな」
「弾幕はパワーだぜ!」
いい顔で言う魔理沙。
「お前は、玲央と気が合いそうだ」
「さっきから、ちょくちょく名前出ているけど、それって誰なんだ?」
「「「鬼神」」」
魔理沙以外の声が重なる。玲央を表す言葉なんてそれで十分だ。
「うぇっ!?鬼って、いるのか!?」
「いるが?てか、あいつわりと人里に酒や食べ物買いに行ってると聞いたけど」
「いるわね。たまたま、魔理沙と鉢合わせないんじゃない?」
「それに、普段は角かくして来るそうだから気づかないようだよ」
どうやら、玲央なりに気を使ってくれているようだ。てか、鬼の存在をしらんとは、今の幻想郷って危機管理薄いんじゃないか?
「まぁいいや。兎に角として、いい練習になったよ」
「加減は掴めたかい?」
「大いにな」
霖之助に礼を言ってから、店を出る。しっかし、5尾まで開放するとは思わんかった。普通に戦うのであれば、3尾で十分だが、弾幕限定ってなると、3尾だと火力が足りんかもしれん。
まぁ、帰ってから、あいつらに報告してやるとするか。
ゲームだと避けなきゃアウトだけど、小説だと流石に表現しきれないため、弾くのはありと設定しました。
あと、感想で魔理沙にトラウマが~と言われましたが、本気を出すつもりは最初から無かったために、こういう形で落ち着きました。




