妖精
「真理、魚が欲しい」
居間で文が作った新聞を読んでいたら、我が家の台所を預かるあとりが今晩のおかずに魚が必要だと言って来た。
「にとりから貰ったのはどうした?」
新聞をめくりながら尋ねる。相変わらず、捏造な内容が多いなあいつの新聞は……見ている分には面白いからいいけど。
「それ以外のがいい」
「釣って来いと?」
「うん」
尋ねると素直に頷いたよこいつ。まぁ、夕飯なんて準備が面倒だし、いつも三食かかさずに作ってくれるから無碍にはできんか。
「別に人里で買ってきてもいい」
「ボウズだったらそうするわ」
立ち上がり、釣り道具が置いてある部屋へと向かい準備を完了させ、釣り場へと向かった。
「ううむ、釣れなくはないが、ちっこいな」
紅魔館近くの湖にやってきて先ほどから釣り糸を下ろしては当たりがあるのだが、来るもの来るものちっこくてとてもじゃないが夕飯に出来ない。
「くわぁ~」
陽気が心地よく思わず欠伸が出てしまう。思えば俺も変わったなぁ~。ちょっと前までは各地をあちこち歩き回っては噂を確かめに行ったものだが、今じゃ幻想郷に住まう一人の妖怪だ。
別に椛を引き取ったことも、あとりを向かいいれたことも後悔は無いが、俺が一つの場所に留まり続けているってのは自分で思ってもビックリだ。
まぁ、幻想郷も変わり続けているから退屈ではないし、気心しれた友人も何人かいるから飽きるということは無いが、それでもやっぱり旅に出たいと思う気持ちは今もあり続ける。
ただ、外の世界じゃもう文明がかなり進んでいて俺達にとっては住みづらいどころか、住めない世界になっちまっているんだろうなぁ……
寂しい気持ちもあるが、それ以上にかつてのことを思い出すと別視点でみる現代というのも興味がそそられるな。今度、真面目にあいつ等と共に遊びにいくというのもありかもしれない。
「来なくなってしまったな」
雑念だらけすぎてダメなのか、さっきから当たりが全く来なくなってしまった。
「ちょっと昼寝して、その後少しやってダメだったら人里で買って帰るか」
釣竿を足の指で挟んで足を組み寝っ転がると直ぐに睡魔が襲ってきた。
「……なよ……」
「だ……なん……だから!」
どれくらい寝ていたのか、気がつけばなにやら周りで騒いでいるやつらが2人ほど。殺気も感じないし、ここで俺が寝ているから悪戯をしようと考えた妖精辺りが騒いでいるのかな?
「やめなよ、チルノちゃん」
「大丈夫よ大ちゃん!なんたって、あたいがいるんだから」
意識がハッキリして目を開けると、そこには水色と緑の幼女がなにやら言い合っていた。背中から生えている羽を見るに完全に妖精だなこいつらは。
ただ、妖精としてもかなり力が強い。通常妖精なんて大した力も持たず、悪戯してくる程度の可愛い存在だ。それゆえに知能もかなり低く、力を持たない人間でもちょっと知恵を絞れば簡単に切り抜けられる存在だ。
更に言えば、妖精は自然に一部なので塵も残さずに消し去っても、時間が経てば復活するというある意味で不死性を有している存在だ。
っと、話がそれたな。なんだって、この2人は俺の周りで騒いでいるのかね。
「おいおい、何を騒いでいるんだ?」
「うぴゃっ!?」
緑のほうの妖精が変な声を上げて驚く。見た目幼女だし、許せるがこれが普通の大人の格好ならかなりイラっとしたかもしれん。
「漸く起きたわね!ここがどこか知っているの!」
緑の妖精が水色の妖精の後ろに隠れるとほぼ同時に、今度は水色の妖精が胸を張りながら尋ねてきた。
「どこって湖だろ?」
「そうよ!そして、ここはアタイの縄張りなのよ!」
「んで?」
「だから、あんたはアタイの子分なのよ!」
意味が分からん。縄張りに来た侵入者を迎撃に来たのなら話は分かるんだが、行き成りお前は子分だと言われたらどういう風に対応すればいいんだ?
「はいはい。親分、凄いですねー」
「当然よ。だって、アタイは最強だからね!」
「おお、凄い凄い」
「ふふん!」
「チルノちゃん、チルノちゃん。馬鹿にされているよ!?」
水色……チルノというようだ……が胸を張っている後ろから、緑の妖精が俺の意図に気がついたようだ。凄いな、基本的におつむが見た目相応のなはずなのに、この子は大分頭が回るようだ。
「んで、親分のお名前は?」
「アタイ?アタイはチルノよ!」
「そっちの子は?」
「わ、私は大妖精ですぅ……」
「俺は、風由真理。ちょっと長生きしている犬妖怪さ」
お決まりの台詞を言ってから足に挟んでいた釣竿を脇に置きなおす。あたりがくれば起きるだろうと思ったのだが、起きなかったということは来なかったということか。これは、買いに行かなきゃだめそうだな。
「犬?あんたの何処が犬だって言うのよ。犬ってのはね、こういう感じで……」
「チルノちゃん、お洋服が汚れちゃうよ!」
地面に手をついて、犬の真似をするチルノに大妖精が注意するが、チルノは何が楽しくなったのか、相変わらず犬のポーズを崩さない。
「変化しているからな。よっと」
人化から獣化しなおしてやると、チルノの瞳が輝く。
「とう!」
「もっと丁寧に乗れ。振り落とすぞコラ」
「あ、危ないよチルノちゃん!」
「安心しろ、何だかんだで乗られ慣れているからな。自分からバランスを崩さん限りは落ちんよ」
椛やあとり、妹紅やはては清明も背中に乗ったことがあるからなぁ……それに、獣化状態のときのほうが体長でかいから、昔はよく子供に乗られていたし。
「お前さんも乗るかい?」
「じゃ、じゃあ……」
おずおずと背中に乗っかってくる大妖精。ここら辺が妖怪ならではだなぁ……二人が乗ったというのにあまり重く感じないし。
「はいよー!」
「そりゃ、馬だ戯け」
首を叩きながらチルノが言った言葉にツッコミを入れながら歩き出す。釣具は後で回収すればいいだろ。妖精が持っていったとしても、ここらが縄張りだという二人がいるから持って行きそうな場所なんかも分かるだろうし。
「真理の毛は気持ちいいわね!」
「自慢の毛だ。引っ張ったり抜いたりするなよ?二度と触らせん」
チルノが毛をふさふさと触りながら言ってくるのに注意する。一応、今まで触らせてきた連中は約束を守ってくれたのか、そういった行為になんなかったが、ちょっちおつむが足りないチルノだとわりと心配だ。
そういえば、藍の毛もさわり心地で言えば最高だったな。あのもふもふ感がたまらん。
「いたのだー」
「ん?」
頭上から声が聞こえてきたので止まり、見上げてみると黒い球体が降りてきた……って、こいつってもしかしなくても。
「ルーミアか」
「誰なのだー?」
「何を言っているんだお前?」
声をかけたのだが、俺を忘れているっぽい?いや、ここ数十年あってなかったからしかたないのか?
「真理だ。忘れたか?」
「真理なのかー?」
「ああ」
「真理は人型なのだー」
漸く合点がいった。そういえば、ルーミアには元の姿を見せたことはなかったな。
「こっちが元の姿だよ」
「そういえば、そうだったわね」
「行き成り素に戻るなよ」
「貴女の前であまり馬鹿っぽいのも、後で馬鹿にされそうでね」
「そこまではせんよ。あと、一言言っておくが俺は男だ」
「えぇっ!?」
驚きは背中から聞こえてくる。この声からして大妖精だな。チルノの場合はあまりそういうことに感心はないだろうし。
「あれほど、綺麗な顔で……それに、ルーミアちゃんと知り合いだったんですか?それに、ルーミアちゃんその喋り方は……?」
一気にすべてのことに対してツッコミを入れてくる大妖精。なるほど、ルーミアとはさっきまであの幼いような喋り方しか知らないのか。
「結構昔からの知り合いなのだー」
「そうなのだー」
「真似するなー」
「すまんな」
チルノたちが背中から降りたのでさっさと人化する。なんだろうね、特に疲れるようなことも負担にも思わなかったのに、こう肩が凝ったようなきがするのは。
「それじゃ、かくれんぼをするわよ!」
「頑張れよ」
友人が揃ったからか、チルノが提案してくる言葉に応援の一言を残して別れを告げる。
「何言っているのよ、真理もやるのよ」
「そうしたいのは山々なんだがな、そろそろ帰らんと夕飯の支度に間に合わんのさ」
気がつけば、日がかなり沈んできていた。ルーミアなどにとってはこれからが本番だろうが、俺にしてみればこれからは大人の時間だ……主に酒飲みとしての。
「遊びたかったら妖怪の山の麓に立っている家にやってこい。朝からなら歓迎しよう」
「しょうがないわね!今回だけは特別よ」
「ククッ、了解だよ」
それだけ言うと、今度こそチルノたちと別れ、釣具が置いてある場所まで戻っていった。
因みに、釣竿が湖の真ん中まで持っていかれてしまっていたので飛んで回収しようとしたらついでにマグロが釣れた。何故に湖にマグロ?とは思ったが、あとりが大満足していたのでよしとした。
本当にそろそろ紅魔郷に入れると思いたい。
その前にアンケートで人気投票をとってその人の話を書こうか迷い中ですが。




