親子
博麗大結界を張ったからといって、これといって変わるものでもなく暇な毎日が続く。
「旅に出たい」
「お父様?唐突にどうしたんですか」
思わず、声に出た俺の本心に椛が首をかしげながら茶を置きながら尋ねてくる。
「いや、暇でな」
「だったら、玲央様なり麻耶様なりと戦ってはどうです?」
何故にそんな物騒な話になるんだ。小さい頃からあいつ等と一緒にいたせいで思考が少々脳筋になってしまったか?どこで育て方を間違えた。
「お父様と一緒にいたら最終的にはそういった解決法が一番楽だと子供心に納得しました」
尋ねてみたら原因は俺だった。
「あいつ等とやると周りが煩いんだよ。あと、暴れるのはメンドクサイ」
あ~、旅をしていた頃が懐かしい。各地の噂を聞いてはそこに赴いて、噂の真相を確かめたり、友好を交わして酒を呑みあったりなど。
「そういえば、お父様はここに来る前までは各地を放浪されていたんでしたね」
「ああ。色々な奴とあっては笑いあっていたさ」
「私の、せいですよね……」
俯いてしまう椛の頭を撫でると再び顔を上げてくれた。
「気にするな。お前の成長を横で見ているのも十分に楽しめた」
「お父様……」
なにやら俺の言葉に感動してくれたのか椛の瞳が潤む。
「しみったれた話して悪かったな。そうだな、体を動かすか」
「はい」
「丁度いい機会だから、お前が相手しろ」
「はい。……はい?」
呆けた顔になる椛。はて、俺は何か変なことを言ったかな?
「いえいえいえいえ!無理。無理です!私ではお父様の相手は出来ませんよ!」
「いやいや、ガキの頃から俺や玲央たちなどと一緒にいるからそこらへんのやつ等よりは十分に強いだろ?」
体力はまぁ、俺の後についてくることが多かったせいでかなりのものだし、戦闘については麻耶や玲央が娘を変な男に教われないようにとかふざけたこと言いながら教えていたからな。
「別に俺に勝てとは言ってない……まぁ、いずれは超えてくれと思うのが親心だがな」
「お父様を越える前に寿命が尽きそうです」
「何を不吉なことをのたまう。親より先に死ぬなんて」
「お父様はもう少し自分の年齢というものの自覚を持ってください」
つっても、俺よりも年上が最低でも二人いるし、かたっぽはキチンと妖怪だぞ。
「ほれ、兎に角としていくぞ」
「やめて!引っ張らないでお父さん!」
お、久々にお父さんって言ってくれたな。それだけで俺は張り切っちゃうぞ!
「アッー!」
「うぅ……酷いです」
「いやいや、中々いい動きだったじゃないか」
「そうですよ。そこらの鴉よりよっぽど強いです」
「せやなぁ。どこぞの大天狗たちにも見せたかったわぁ」
「白狼天狗としては破格の実力だろう」
家に帰ってくると当然の様に居座っていた玲央たち。近くに酒があるということは俺らの戦いを肴にして酒盛りしていたな?
「とりあえず、お前等は今日は帰れ。今日は珍しく椛と一緒に話がしたいんでな」
渋る3人をとっとと家に追い出すと居間には俺と椛となる。あとりは、気を利かせてくれたのか、自分の部屋にこもっているといって出て行った。
「お父様?」
「二人っきりなんだ、お父さんでもいいぞ?」
俺が珍しく人を気にして、人払いした意図が分からないのか尋ねてきた。
「はぐらかさないでください」
「別にはぐらかしてはいないんだがなぁ」
いや、本当にお父さんお父さんと呼んでいた昔が懐かしい。一体いつからこんな硬い口調になったんだか?
あいつらの中で可能性があるとすれば清明なんだが、ここまで口調が固いというわけではない。アイツの場合は単純に多少ぶっきらぼうな喋りなだけだ。
「さてと、お前も成長しているのは分かったことだしな。昔から尋ねたかったことがあるんだよ」
「尋ねたいことですか?」
俺が椛に尋ねるということが想像つかなかったのか、驚きの顔をしている。
「ああ。お前が俺に引き取られた経緯は覚えているな?」
「はい」
確りとした態度で頷く椛。ここで、多少なりともトラウマが再発して精神的にくるのならばこの話はここまでにしようと思っていたのだが、これなら大丈夫だろう。
「あの時、妖怪達がなぜ攻めてきたかお前は知っているか?」
「分かりません」
ふるふると首を横にふる椛。流石にこの話は言ってないか。
「実はな………というのが、理由だ」
「紫さんが、理由だった。というのは、まあ、ありえなくは無いですね」
小さい頃から交流があるせいか、椛の紫に対する評価が酷い……概ね間違いではないと思うが。
「この話を聞いて紫を恨まないか?」
「そうですね、一言言っておきたいことがありますが、それで恨むというのはありません」
「何故だい?」
「妖怪は良くも悪くも本能に忠実です。紫さんがやったこと自体は攻められません」
なるほどな。確かに妖怪は良くも悪くも本能に忠実だ。俺の場合は好奇心。玲央なら闘争。そういったものをいかに抑えるかが脳ある妖怪か獣の妖怪の違いだろう。
「さて、ここからが本題だ」
「今の話ではないんですか?」
「それを踏まえた話だよ」
そうして、俺は椛にあの時に起こったことの原因の一旦である俺の術について話す。
「つまり、俺のあの術があったからこそあいつ等は大妖怪である紫に対抗できると踏んで幻想郷を襲ってきたんだ」
話をするにつれて椛の顔が青くなる。やはり、トラウマを刺激してしまったか?
「何が言いたいのですか?」
青くなりつつも気丈に俺に尋ねてくる椛。
「要は、お前の両親は間接的とは言え、俺によって殺されたということだ」
「っ!」
俺が言い終わると同時に椛が湯呑みに入っていたお茶を俺に向かってかけてきたんだが、とっさだったものでつい避けてしまった。
「避けないで下さい」
「ごめん」
なんともいえない空気がさ迷う。
「コホンッ!」
椛がわざとらしく堰をする。
「いいですかお父様?見くびらないで下さい。お父様がそんなこと気にしていないのは何百年も一緒にいたから知っています。お父様は別に私を情けや哀れみで引き取ったのではないのでしょう?」
見事俺の核心を言い当てる椛。
「ああ。お前を引き取った理由は本当になんとなくだ」
むしろ哀れみや情が働くならば麻耶に預けたほうが何倍も楽だからな。
「ですので、そんなことは言わないで下さい。私は私を生んでくれた両親。それと、私を育ててくれたお父様、その両方に感謝こそすれば、憎しみを抱くなんてありえません!」
力強く宣言する椛。子供ってのは知らず知らずのうちに大人になるんだな。
「そうか、ありがとよ」
「はい」
椛に礼をいって、夕飯の支度をする。今日は気分がいい。めったに料理をしたがらない俺が料理をふるまってやることにしよう。かつて、禅寺にやっかいになっていたときに覚えた精進料理を改良したものをご馳走してやった。
「お父様……貴方は何者なんですか!?私より料理が上手って!?」
「おいしい」
料理は椛にもあとりにも好評であった。酒飲みが料理できないと思うなよ。美味いつまみが欲しいときは自分が作るのが通例だ。
玲央や麻耶、清明だって料理が美味い理由の半分はそこにあるんだからな。
こうして、俺たち親子の絆はより深いものになった。
さて、後1~2話やったら原作というかメインの物語に入っていく予定となります。
その間に何かやるかな?コラボしてもいいけど、募集来るかな?




