霊脈
「平和だねぇ」
「そうですねぇ」
「そうやね~」
「のんびりするのも悪くはないな」
縁側で茶を啜りながら現状についてついこぼしてしまう。
「何か起きないかね」
「出来れば闘争に近い何かがいいですね」
「うちは仕事以外ならなんでもいいわ~」
「物騒すぎるわ。が、何もないというのもつまらんな」
てか、麻耶はまた仕事をほっぽりだして来ているのか。
「ひゃっはー!」
何も起きないと思いながら茶を啜っていたらなにやら世紀末的なことを叫びながら上空を妖怪が飛んでいった。
「あんな奴いたか?」
「うちの記憶ではいないで?こう見えても妖怪の山の連中の顔は把握しておるし」
「あんなお馬鹿さんがいたら誰かしらに絞められているのでは?」
摩耶はこう見えてもマジでそこらへん詳しいからなぁ。故に天魔なんだろうけど。それに玲央の意見にも賛成だ。あんなバカがいたら誰かしらシメているだろう。
「てか、あの方角って人里か?」
「声の聞こえ方からしてそうだな」
山から里の方へと向かう感じで聞こえてきたし。
「清明はいるかしら!?」
突如スキマから紫が清明を名指しで飛び出してきた。
「また、お前の仕業か?」
「酷い!?まぁ、そうだけど……」
認めるのかよ。いやまぁ、あんなバカが結界を通ってきたのならそれはそれで問題だが。
「なんで、あんなバカを?」
「外ではかなり大人しくて、消えそうだったから救いの手をって思ってね……色々と有能そうな子だったし、何かしら手伝って貰おうと思って連れてきたんだけど……」
「連れてきて、妖怪の山の神気に当てられて暴走したと?」
俺の質問に頷く紫。アホか!と叫びそうになった。俺だけでなく麻耶や玲央、清明も同じだったようで皆揃って呆れ顔をしながらため息を付いている。
「あのなぁ、妖怪の山はその名の通り、妖怪にとっては聖域なんだぞ?弱っている奴をここに連れてきたら全盛期なみに回復するわ」
「どういうこと?」
どうやら紫は知らないようで首を傾げている。
「ん?知らなかったのか。ここってかなりぶっとい霊脈が通っているんだよ。ただ、そのままだと妖怪の天敵になりかねないから、ちょっと弄って妖怪が住みやすい土地にしているんだ」
「私や真理さん。麻耶さんなど強い力を持っていたら効果は無いでしょうが、弱い子だとそのまま消滅するぐらい強力ですね」
最初見つけたときは資源豊かな山だなぁって思っていたんだが、後になって段々息がつまる感覚になって調べてみたらあら不思議。とても強力な霊脈があるじゃないってことで弄るのに苦労したわ。
「つっても、森の恵みのことなんかも考えて6対4くらいの割合にしているけどな」
それ以上、妖気を込めすぎると森がかれてしまうためにここが上限である。因みにあくまで妖怪が活性化しやすくしただけなので人間などに一切害はない。
「知らなかったわ……って、そうじゃなくて!」
「清明様、戻りやしたー」
「おら!とっとと歩けやボケ!」
俺の説明に納得してうんうん頷いていたのだが、途中で我に返ったように慌てだしたと同時に変態どもが戻ってきた。
やつ等の後ろには先ほどのバカが縛られてやってきた。
「なんだ手前等は!俺に何をしやがる!」
縛られてなお暴れようとするバカだが、清明の変態どもは性格に難はあれど能力高いからなぁ。
「戻ったか、ご苦労だった」
「清明様のためならなんのその!序に言えば真理ちゃんのためなら例え火の中、水の中!」
「テメエ!抜け駆けするんじゃねえぞ!」
ことの成り行きを見ていたら、何故か矛先がこちらに向かってきた。
「ふ、ふふふ……面白いことを言う鬼ですねぇ」
「せやなぁ……ほんなら、その通りにしてやろか」
変態どもの言ったことが気に入らないのか、玲央と麻耶がダークサイドに入ったようだ……バカか。
「さぁ踊りぃ!」
麻耶が持っていた羽扇を天に掲げるとそれと同時にあいつ等は火あぶりにされたと思った後、何処からとも無く現れた水に流される。
流された先に待っていた玲央にボッコボコにされてゴミがまさしくゴミになったわけだ。
「相も変わらずえげつない能力だよな」
「つっても、汎用性は低いけどな~」
俺の呆れた声に嬉しそうに麻耶が返してくる。
「まぁ、清明でもやろうと思えば出来るか」
「ああ、五行使えばな……ただ、やはり天魔ほどのことをするのには若干時間がかかるが」
清明の言葉に何故か勝ち誇る麻耶。まぁ、確かに火を出したり水を出したりするのに手間がかからないのは羨ましい。俺の場合はかなりの手間がかかるからなぁ。
「いつの間に……」
今まで完全に空気と化していた紫がポツリと呟く。
「あいつが人里に向かって飛んだと同時に私の家辺りにあいつらを遠距離召還しただけだ」
だからこいつもここでノンビリとしていたわけだ。あの変態共は性格はあれだが本当に能力だけはいいからなぁ。
「能力は高くても、流石に鬼神や天魔、お前みたいの相手だと瞬殺されるがな」
「そこに自分も付け加えなあかんで?」
「あと、早々に俺等みたいのがいてたまるか」
てか、俺等クラスならあんなバカみたいに飛んでいかんわ。
「それもそうだな」
「てか、あのバカはどこにいったんだ?」
「それなら、うちの火に焼かれて水に流されて……ああ、おった」
摩耶の視線を追っていけば、そこにはなにやら完全に放心しているバカがいた。
「まぁ、悪く思うな。私もここに住むための条件を自分で提示したんでな」
それだけ言うと、清明は懐から札を取り出してバカに投げつけると、バカは砂のようにさらさらと崩れていった。
「今のは?」
「ん?あいつの生命力を吸い取る札だな……流石に弱っていない相手には効かないが」
なんつー恐ろしいものを持っているんだこいつは。
「くっ、まさかババアが俺等の行く手を阻むとは……」
「まて、相棒。これは、真理たんを手に入れるための試練だ!」
「なるほど!最高の理由だぜ相棒!」
まさか、玲央を相手にババアとは……身の程を知らないやつ等だ……って、そういや式神だから死んでも清明が復活させられるのか。
「ほう、おもろいことをいうなぁ……」
「誰がババアですか?」
「待って、私も流石にそれは聞き逃せないわ」
何故か紫がババアという言葉に過剰に反応して参戦する。
「「我等の愛は無限大ーーーーっ!」」
「貴方達に私の真理さんには指一本触れさせません!」
「誰が、玲央はんのや!真理さんはうちのや!」
「ちょっ!?あ、貴女達!?」
「まて、流石に色々と聞き捨てならん」
玲央の一言によって、式神対女性陣から何故かバトルロワイヤルに変わりかなりしっちゃかめっちゃかになりだした。
「元気だねぇ」
「おっさん臭い」
この喧騒が気になったのかあとりがやってきて俺の呟きに律儀に突っ込みを入れてきた。確かに今のはかなりおっさん臭かったな。年齢云々は別として。
「たまにははっちゃけるか……テメエら!ここでやるなや!」
その後、俺も参戦して結界を発動して家や周りに被害が起きないように暴れだしたのだが、帰ってきた椛に
「もー!喧嘩はメッ!」
「「「「「あ、はい。ごめんなさい……」」」」」
鶴の一声により、乱闘騒ぎはあえなく終わったのであった……あの騒ぎを見て喧嘩と言い切る娘は大物なのかなんなのか……
霊脈云々の設定はオリジナルです。
今回の話は次の話へのフラグっぽい何かです。




