術を極めしもの2
なにやらパニックになっていた紫もひとまず落ち着いたから説明をしてもらおうとしたら再びドタドタと騒がしくこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
「真理さん!とてつもない霊力がこちらに!」
「いったい誰や~?」
玲央襖をもうすこしやさしく開けろ。お前の力じゃどれだけいいやつでも直ぐ壊れるわ。てか、こいつらタイミングいいな。麻耶を見ればなにやらニヤついているから、こいつタイミング計ったな?
「なっ!?安部清明!」
「ん?鬼神か、懐かしいな」
「知り合いだったのか」
「まあな」
玲央や麻耶が現れても動じないようでのんきに言っている清明。
「貴女が何故ここに?」
「外では陰陽師が廃れてな」
玲央の問いかけにそっけなく返す清明。てか、そんなに外はダメなのか?
「それで……真理さんとの関係は?」
「そやそや、それが一番重要や」
ギロリと殺気と共に清明を睨む玲央。そんな殺気にさらされても何処吹く風の清明。
「真理との関係か……寝食を共にした仲と言ったら?」
「殺します」
「どう死にたい?」
間違っちゃいないが、何故に場をかき乱す?うちの家の中で莫大な霊力と妖力のせめぎ合いがおきている。
流石にあとりに影響が出そうだったから早々に絶を使ってこの心臓に悪い力を感じさせないようにしたけど。
「やめとけアホども」
「「「ぎゃんっ!?」」」
にらみ合っている三人に拳骨を落としてやめさせる。またうちを廃墟にしたのか。
「まぁ、清明との出会いは……からまれたんだっけ?」
「そうだったな……あの頃の私は若かった」
なんだそのやんちゃだったみたいな言い方は。お前のそれはしゃれにならんくらい物騒だからな。
「流石にガキに負けるほど落ちぶれちゃいなかったし、ちょうどそのくらいのときから有名なこいつを見つけて押しかけたんだよ」
「あの頃は意味が分からなかったな。まぁ、半年ぐらい一緒にいたら意味が分かったが」
「あぁ……真理さんの悪い癖ですか……」
「うちは話しか聞いてないけど、そうとうやな~」
三人が呆れ顔で俺を見てくる。知らんよ。俺は気の赴くままにやっているだけにすぎん。
「それにしても……妖怪にとって極悪非道。容赦のかけらもない、裏の世界じゃ知らないものもいない阿部清明があんたと親しいなんて…」
「私はどこぞの大悪党か?」
俺もそれは思った。まぁ、相手には容赦しないってのは十分に分かるが、それはお互い様だろ?
「てか、清明に喧嘩売るバカがいるのか」
「私が死んだとされてから100年くらい経ったら普通に襲われだしたな。まぁ、そんなもんだよ」
ああ、表の世界から消えたとされた後はこいつの素性を知る奴なんていないから普通に力が強い人間だと思うわけか。
「私はなにやら強い人間がいると聞いてやりあいましたね」
「前鬼・後鬼を瞬殺されたからあの時は焦った」
「よく言いますよ。その後、大規模な術を使って攻撃してきたじゃないですか」
「まさか、術の発動まで持たないとは思ってなかったんだよ」
おおう、物騒な話だ。こいつらの全開の戦闘なんぞ巻き込まれただけで死にかねない。てか、玲央。お前人のことをあーだこーだといっているがお前も大概だぞ?
「うちはなにやら山に侵入してきた人間がおる聞いて、うちの子らが張り切って狩りにいったら返り討ちにされた~ゆうてな、仕方なく」
「あの時は食料が尽きていてな、何か食べるものと思って山に入ったらそこが妖怪の山とは思わなかった」
いや、分かるだろ。なんだかんだで天狗とかいるから。
「てか、清明はいつまでその姿でいるんだ?」
「ん?おお!そういえば、外だと元の姿だと嘗められるという理由でずっとこの格好でいたな」
清明が指を弾くと同時に変化の術が解ける。まぁ、解けたからといってそこまで変わるものじゃないが。
「お、女!?」
紫が驚いた声を上げる。知らなかったのか?お得意のスキマからの覗き見はしなかったのか。
「てか、玲央が貴女と言っていただろ?」
「知らないわよ!」
何をそんなに怒っているんだこいつは?
「そんで、お前はこれからどうするんだ?」
「そうだな、幻想郷に来たことだしノンビリするのも悪くはないか」
「変わったなぁ」
「お前ほどではないが、それでも長生きしたからな考え方なんて変わるさ」
確かになぁ……俺だって幻想郷という狭い空間で生活しているし。
「それはそれとして……真理」
「どうした?」
なにやら清明が真剣な顔でこちらを見てきた。
「……当分の間、泊めてくれ」
「真剣な顔して何を言い出すかと思えば……好きに……」
「反対です!」
「せや!絶対にあかんで!」
ため息をついて了承しようとしたら玲央と麻耶が言葉をかぶせてきた。
「む?何故だ?」
「貴女のような女が真理さんと一つ屋根の下など、うらやm……ゲフン、羨ましいではないですか!」
「うちらだって出来ないのにそれは認めへんで!」
玲央よ……正直者があだとなったな、言い直そうとして直せていないぞ。麻耶の場合は素直に言っている分まし……ましか?
「しかしだな、私は家を持ってないのだからな、流石に知り合いがいるのに野宿は嫌なのだが」
「だったら速攻で私が立ててあげますよ!」
「うちの子らにもやらせるわ!」
誰一人危険という言葉を口に出さないな……まぁ、鬼神や天魔とやりあう陰陽師が危険とは思えないが。
「それでも一日……今日の夜までは無理だろ?」
「ぐ、ぐむむ……」
「し、真理さんも何か言うたってや!」
とりあえず茶を飲みながら黙って静観していたら矛先がこちらを向いた。
「いや、別段俺はかまわないぞ?昔、こいつの屋敷に世話になったからな」
「しもうた!?真理さんは義理堅かった!」
「当たり前です!それが真理さんなのです!」
なにやらどんどん話がずれていっているな。まぁ、面白いから黙っているが。
その後話し合いにより山と人里の間にこいつの家を作ることが決まった。理由は単純で山からの妖怪と人里からの人間をこいつが止めるということだ。
無駄な禍根を残したくないために慧音まで呼んで話はとんとん拍子で進んでいった。
「ああ、そういや清明」
「どうした?」
「お前って封印術も得意だよな?」
「術と名が付くものは、私にとっては得手不得手いう以前の問題だ」
ああ、そういやこいつの能力がキ○ガイすぎたな。
「それで、どうしたのだ?」
「紫、ルーミア呼んでくれね?」
「いいけど……」
完全に萎縮している紫にルーミアを呼んでもらう。
「今まで放置していたのに急に呼ぶなんてどうしたの?」
なにやら完全に紫邸でなじんでいたルーミア。なんか、前ほどの危険は感じないな。
「お前の力の封印について目処がたったからな」
「やっと?」
「まぁ、今のお前を見ていて正直言えばいらんと言いたいけど、ケジメはつけんとな」
「そう」
あっさりと了承するルーミア。
「こいつの力だけ封印できるか?」
「かまわんが、何をやらかしたんだ?」
「前に幻想郷を襲った」
「はしょりすぎよ。まぁ、間違っても無いけどね。序に言えば、真理にあっさり負けたけど」
「ハッハッハ!真理に勝てる奴なぞ鬼神や天魔くらいだろうさ」
笑うのはかまわんが、その中に自分も入れろよ?
「力だけの封印か……これでかまわんかな」
何処からか札を取り出してルーミアの髪にリボンみたいにつける。
「あら?」
「おや?」
「ふむ」
「えぇ……」
なにやら封印は上手くいった様なのだが、何故かルーミアが縮んだ。
「え、何?妖怪って力のみ封印すると縮むの?」
「そーなのかー?」
俺の素直な感想というか疑問にルーミアが清明に尋ねる。てか、縮んで口調もなにやら幼くなってね?
「いや、知らん。私も力のみの封印なんてメンドクサイことは初めてだからな」
ああ、封印するなら藍みたいな感じだろうな……あんな、拙い術じゃなくこいつ以外解除できないようなガチなやつ。
「まーこの姿でいいのだー」
「え、その口調って素?」
「なんか、気を抜くとああなるわね」
おお、元の口調に戻った。もしかしたら、精神が体に引っ張られるとかそんな感じなのかもしれないな。
「礼を言っておくわ、陰陽師。これで、色々見て回れるし」
「別に真理の頼みだからな。それに、人間を襲わなかったり、私に襲い掛からない限りは基本的に私は妖怪は放置しているからな」
「陰陽師がそれでいいのかしら?」
「細かいことを気にしていると老けるぞ?」
「老けないわよ!見なさいこのピチピチの肌を!」
ピチピチってお前……何も言うまい。ガールズトークに男が混じっても碌なことにはならんしな。
「まっ、ゆっくり慣れていけばいいだろ」
「そうだな、何かあったら茶でも飲もう」
「ああ、暇だったら来い。娘も紹介したいしな」
「それは楽しみだ」
こうして幻想郷に最強の陰陽師が暮らし、ひそかに人里の安全度が上がった。




