あいさつ回り―地底7
「いやぁ、すまんすまん」
「はしたない姿をお見せしました」
玄関先で尻尾を触らせていたら呆れたような顔をした少女に案内されて現在は応接間にて謝っていた。
かなり間抜けな格好をさらしていたようでいまだに呆れ+胡散臭いものを見るような目でこっちをみている。
「俺は風由真理。お前が覚り妖怪でいいのかな?」
「古明地さとりと言います」
口数少なく自己紹介をしておじぎをするさとり……
「名前もさとりなのか」
「はい」
「分かりやすくていいねぇ」
「本当ですね」
俺の言葉に同意を示す玲央だがお前も十分分かりやすい名前だろうが。
「貴方は何者ですか?」
「どういう意味だい?」
さとりが何か信じられないという感じで俺を見るのに俺は首をかしげて聞き返す。
「貴方の心がわかりません」
「人の心なんぞ分かるものじゃないだろ」
「いえ、そうではなくて……」
俺の言葉に言いよどむさとり、一体何を言いたいんだ?
「真理さん、真理さん」
よく分からずに首を傾げていると隣の玲央が着物の裾を掴んで引っ張ってきた。
「どうした?」
「絶、使ってます?」
「ああ、それが?」
絶とは能力で作った他人からの干渉を一切排除するものだ。ちなみにこれを使っているおかげで紫なんかは俺を覗けないとかいっていたっけ。
「多分、彼女は能力で真理さんの中を見ようとしているのに見れないからそういっているんだと思いますよ」
「なるほど!」
ようやく合点がいった。そうと決まれば早速絶を解除する。
「ほれ、これで俺の中見えるだろ?」
「それは一体……」
能力だよ。
「相手からの干渉を防ぐものですか……」
厳密には違うけど、応用すればそう使えるってもんだな。
「そうですか」
「もう、いつまで二人の世界で喋っているんですか」
「すまんすまん」
心を読んでもらえる分、口で喋らなくて済むから楽してしまったよ。
「能力って一口に言うが、一体何処まで読めるんだ?」
「そうですね……意識をしなければ表層部分しか読めませんが、意識すれば深層まで読めます」
「というと、切り替えができないのか?」
「はい。この力は常に発動しています」
なるほどね、だからこんなところに住んでいるのか。
「その通りです」
「切り替えられるように努力はしなかったのかい?」
「やりましたが、不可能です」
「ありゃ」
能力に振り回されてしまうのか。
「妹もそれがいやでこの目を潰して能力を消しましたからね」
さとりはそういいながら彼女の左胸ら辺にある目を撫でている。そういや、こいしの目は閉じていたような気がするな。
「それにしても、心を読まれているというのに動揺しないのですね」
「便利な能力じゃん」
「そうですね」
「本当にそう思っているのですね……」
呆れたような疲れたような顔でこちらをみるさとり……ふむ。
「よく分からない」
「っ!?」
俺が呟いた一言にビクリと体を震わせるさとり。
「どうして」
「っ!?」
再び体を震わせ、信じられないような目でこちらを見てくる。
「な、なぜ……」
「なぜ、私の心を……この妖怪は一体」
口を開いたさとりにかぶせるように言葉を紡ぐ。
「貴方は……」
「貴方は一体」
「やめて……」
「これ以上私の心を覗かないで」
「やめて!」
大声を出して俺の言葉をさえぎるさとり。
「怖いかい俺が」
「一体どうして……」
怯えるような目で俺を睨みつけるさとりに俺は笑いを漏らす。
「読心術って奴だな。まぁ、お前見たく深層まではわからんが表層くらいはどうってことはなく読める」
いやぁ、久々に使ったからどこまで使えるかはわかんなかったけど問題なく使えてよかったよ。
「懐かしいですね」
「俺も数千年ぶりぐらいにつかったわ」
マジで久々に使ったから使えるかどうかわからんかったわ。
「こんな感じで別に心を読むのが特別とは俺は思ってないんだよ」
「そうですか……」
さとりが何で俺達がお前に怯えないかを分かりやすく実践してあげたのだが、まだ動揺が収まらないようで冷や汗を流している。
「さとり様!」
さとりの動揺が収まるのを待っていたら突如ドアが乱暴に開かれそこには赤髪の三つ編みをした少女と黒髪に背中に羽を携えた少女が入ってきた。
「さとり様どうしたの~?」
黒髪の少女はどこかノンビリした感じだな。
「お燐にお空、大丈夫ですよ」
「あんた達、さとり様を苛めたの?」
「まぁ、苛めたと言えば……そうなるのか?」
「どうなんですかね?」
俺達にとっちゃこの程度はコミュニケーション程度でしか捕らえてないんだが。
「本当に大丈夫ですよ。ちょっと驚いただけですから」
入ってきた二人にそう説明したさとりは二人を退出させた。
「取り乱してすいませんでした」
「いや、こっちも悪かったな」
「女の子を苛めちゃダメですよ?」
いや全く。
「まぁ、なんだ。能力で嫌われているかもしれないが、世の中には物好きも多いってことさ」
「はぁ、それはなんとなく貴方を見ていたら分かりますが」
物好きの筆頭だろうな俺は。
「例えばこいつなんかはいい意味でも悪い意味でも裏表はないし」
玲央を指差しながらそう伝える。
「いやん。常に私が真理さん一筋だってばれちゃったじゃないですか」
よく言うわ。
「鬼なんかは元々裏表が少ない連中だがこいつなんて筆頭だしな」
「嘘が嫌いな鬼にとって、謀はもっとも似合わないですからね」
中にはいるっちゃいるが、そんなもの少数どころか一人二人程度だし。
「俺もこいつと付き合って長い分、そういうところが似てしまったしな」
「夫婦宣言!」
「ちげえよ」
玲央の頭をはたいて正気に……元々正気かこいつは。性質が悪いな全く。
「まぁ、あまり深く考えるな」
「はぁ」
生返事で返すさとりに苦笑いしながらそのあとお茶を楽しみ俺は地上へと帰っていった。
さぁ、二日ぶりの椛とあとりは元気にしているかな?




