あいさつ回り―冥界
「真理、ちょっと冥界いかないかしら?」
「行き成りお前は何を言っているんだ?」
珍しく家に訪ねてきた紫が突如そんなことを言い出すが、まだ死ぬ気はない。
「ああ、別に死ななくても冥界にはいけるわよ?」
俺の心配を他所にそんなことのたまう紫。
「いけるのかよ」
そんなツッコミをしてしまうのも仕方ないだろう。
「そういや、お前の家にいく途中の馬鹿長い階段を上っていくとうんちゃらとか言っていたな」
「よく覚えているわねそんなこと」
俺もふと思い出したからな。紫があきれるのもしかたないだろう。
「んじゃ、行きますか。誘うってことは何かあるんだろ?」
もしなかったらどうしてくれようか?とりあえず木にくくりつけて一晩くらい放置してやるかな。
「っ!?」
「どうした?」
紫が突如ビクリと反応したのだが。
「い、いえ…なんか急に悪寒がしたのよ」
「風邪か?気をつけろよ」
「食っちゃ寝している紫様が引くわけないだろ」
今まで黙っていた玉藻こと藍がそんなことを言うが…
「お前…」
「な、なによその目は!い、いいでしょ別に!」
別にいいが女として終わっているぞ?昼間っから酒飲んでいる俺が言えた義理ではないけど。
「さてと、行くか。もみじー出かけるぞ」
「はーい」
あとりはあいも変わらず留守番しているというので後のことは頼み家を出た。
「それにしても長い階段だな」
「ふぅ、ふぅ」
「私の能力で行けば一発なのに…」
「椛がドン引きしているから無理だろ」
行く場所自体は紫の能力で一瞬でいけるらしいのだが、椛が相変わらずあの空間にドン引きして入ることを拒んだために仕方なしに徒歩で行くことになったのだが、あまりに長い階段についつい愚痴を零してしまう。
「椛ー?きつかったら飛んでいいからな?」
「お父さんは?」
「この位じゃ疲れないから普通に上るけど?」
「だったら私も自分で上る」
何となく頑固っぽくなってしまった。何故だ?
「お前はあまり飛ばないな。普段の行動を聞いていると基本徒歩だとか」
そんな俺達を見ていた藍が尋ねてくる。
「ずっと歩いて旅していたからなぁ、あんまり飛んで移動するという行為になれていないんだよ」
飛ぼうと思えば一日中だろうが飛べるが、味気ないから基本は歩きだな。
「相変わらず変な奴だなお前は」
「自覚しているさ」
俺がそこら辺の奴と感性が違うのなんざ生まれたときから分かっていることだ。まぁ、昔に比べれば丸くなったと思うが。
「お、話していると早いな頂上が見えてきたぞ」
「ほ、ほんとう?」
「ああ、もう少しだからがんばれ」
息も絶え絶えな椛がすがるような目で見てきて、それに頷くとあと少しと言うことで根性を見せてがんばって上っていく。
ううむ、体力はついてきたか?妖怪としてはまだまだ弱いが、最初から強い奴なんざ玲央だけで十分だ。
「到着」
「へふー、へふー」
なんか椛が変な息遣いでバテているが………大丈夫だよな?
「何者じゃ」
頂上で椛が息を整えるのを待っていると後ろから声が聞こえたので振り返るとなにやら中年の男がこちらを睨みつけていた。髪は……うん、苦労しているんだろうきっと。
「何者と聞かれたらちょっと長生きしている犬妖怪と答えるのが俺だ」
「ちょっとじゃないでしょ……」
「何を言っているんだ貴様は…」
なんか、自己紹介しているのに呆れられた……解せぬ。
「妖怪じゃと?ここを何処だと思っているかわかって言っているのか?」
「冥界じゃないのか?」
「そう、冥界にして管理者である幽々子様のご自宅の白玉楼じゃ」
「幽々子?」
「あ、真理に合わせようとした子よ。私の友達のね」
はて?長生きしすぎて耳が可笑しくなったのかな?なにやら戯言が聞こえてきたが。
「は?」
「なによそのお前頭大丈夫かって顔は」
「頭大丈夫かお前?」
「口に出す意味あるの!?」
言ってほしそうな顔をしていたから言ってやったんだが、お気に召さなかったようだ。横で未だにギャーギャー騒いでいる紫を無視しつつ中年の男に向き直る。
「てか、知り合いの紫がいるんだから別に邪険にすることもなかろうに」
「妖怪の仲間など信用できるか」
「ごもっとも」
てか、あいつの横に浮かんでいるのはなんだ?饅頭か?
「まあよい、この楼観剣で斬れば分かること」
そういって腰に刺してある剣を抜いて正眼で構える男。
「え?なにこいつ、危ない奴?」
とりあえず横にいる紫に尋ねる。
「まぁ、常識人なのだけれど一点だけ汚点があるとすればこれね。だからスキマで行った方が楽なのよ」
ああ、だからスキマをがんばって椛に進めたのか。まぁ、それでも椛は嫌がって結局こういう羽目になったわけだが。
「チェストーーーーッ!」
「おわっ!あぶねえな。人が話しているときに攻撃してくるなよ」
「……助けてくれるのは嬉しいのだけど他に方法はなかったのかしら?」
あっちのほうで倒れている紫が文句を言ってくるが、助かったのだからいいだろうが。まあ、蹴って吹き飛ばしたから文句を言いたくなるのはわからんでもないけど。
「ふん、言い訳など斬った後でも聞ける」
「いや、無理だろ?」
こっちのツッコミなどお構い無しに斬りかかってくるのでとりあえず避ける。
「ちぃ、ちょこまかと」
「まぁ、落ち着けって、な?」
「斬れば分かる」
ダメだ、いっちゃってる系の奴だったか…ああ、ノリが誰かに似ていると思ったら玲央に似ているのか。
あいつも戦えばいいとかなんとか言ってけしかけてくることがあるからなぁ…
「ぬうりゃ!」
「っと、いつまでもこんな場面を娘に見せるのもあれだし終わらせるか。3尾開放」
「ぬっ」
3尾を開放すると先ほどまで勇敢に攻撃を仕掛けてきたのに間合いを取るように少し下がる。
ふむ、ただの直情馬鹿ではなさそうだな。
「どうした来ないのか?だったら、このまま抜けさせて貰うが?」
こういう奴の場合はこちらから仕掛けるというよりこういったほうが効果的だな。
「させぬ!ぜぇりゃっ!」
覚悟を決めたのか一気に仕掛けてくる。今まで以上に早く鋭い太刀だが相手が悪かったな。
「よっと」
「なにっ!?」
左手一本で白刃取りをしたものだから驚き体を硬直させる。
「命のやり取りでそんな程度で固まっていたらダメだろ?」
「がはぁっ!?」
腹に蹴りをくれてやるとそのまま倒れた。
倒れた後でも剣を話さないとは中々見上げた根性ではあるな。
「とりあえず、紫案内よろしく」
「ええ。それにしてもあんたまた強くなったんじゃないの?」
「そうか?」
シッポを元に戻して紫に道案内させようとしたらそんなことを言ってくるが、別段人間モドキ程度あいてならこんくらいだろ?
陰陽師とかでも3尾必要ないやつのが多かったし、そういう意味ではこいつは十分に強いと思うがね。
「お父さん」
「どうした?」
「足が痛くて動かない」
うるうるとした目をしながら告げてくる娘。
「だから飛べと」
「だっこ」
「いやだから飛べば」
「疲れていや」
くっ、涙まで浮かべるとは。しかし、ここで甘やかすのは問題ないのだが…
「つってもこいつを放置するのも気が引けるからな……あ、そうだ」
「「「??」」」
ひらめいた俺にたいして3人は首を傾げているが、しったこっちゃない」
「椛、そいつの腹の上に乗れ」
「はい」
「うっ…」
椛が俺の指示に従い素直に中年男の腹の上に座る。座られたほうは若干苦しそうな声を出すが俺には聞こえない。
「さていくぞ」
「おー!」
「あがっ!?ごふっ!?」
足を持ち引きずりながら中へと進んでいくと凹凸の所で頭を打ち付けてなにやら聞こえてくるが自業自得だな。
「「鬼ね(だな)」」
そんな様子を見て二人はそんなことを言うが失敬な、俺は犬だよ。
「あら、紫きたのね~」
中に入り、大きな木がある一軒家の縁側に死に装束を着た女性が紫に声をかけてきたのだった。




