あいさつ回り―人里2
「さて、どうしたものか?」
椛と連れたってやってきたが、行き成り妖怪が訪れましたじゃ混乱招くよなぁ?
「まぁ、そんときはそんときか。ごめん」
思考を捨て去って、玄関前で大声を出して中にいるものに呼びかけると少しすると女中と思わしき女性が出てきた
「ここに上白沢慧音がいると聞いてやってきたが、まだいるかな?」
「な、なにようでしょう」
ああ、やっぱり恐れてるわ。まぁ、予想していたことだから別にこれといって傷つかんが
「真理が尋ねてきたと言えばあいつが来ると思うから伝えてくれるか?」
「は、はい」
退散するようにすぐさま家の中に入って行く女性を見送りながら待つことしばし
すると、慧音が玄関から呆れ顔でやってきた
「どうしたのいうんだ真理殿?」
「いや、あいさつ回りしている最中でな、慧音に挨拶をしようと思ってやってきたらお前がここにいると聞いてさ」
「それだけのためにか?頼むから騒ぎを起こさないでくれ」
失礼な。俺はただやってきて騒ぎは起こしてないぞ
「慧音さんそちらのかたは?」
ひょっこりと慧音の後ろから顔を覗かせる日本人形と思わしき少女。あとりとなんとなく似ているな。
「この方は真理殿と言って、私の知り合いです。大丈夫ですよ、この方はこれといって暴れる妖怪ではありませんから」
「そうですか」
慧音に説明され考え込む少女
「では、中に入っていただきましょう。慧音さんのお墨付きもあるので大丈夫でしょう」
「いいのかい?」
「はい。あ、申し送れました。私、この家の主人の稗田阿弥と申します」
「ご丁寧にどうも。俺は風由真理。しがない犬の妖怪さ。んで、こっちは」
「いぬばしりもみじです」
俺が椛に視線を送ると椛は行儀良く頭を下げて自己紹介を終える
「では、中へとどうぞ」
「どうぞ」
「すまんね」
「ありがとー」
中に案内された後、茶が出されたので素直に頂く
「さて、真理さんと申しましたね」
「ん。お前さんはあの稗田阿礼の子孫かなんかか?」
「知っておいでですか?」
「かつて、見たことがあるだけさ。そんときはこの姿じゃなくて犬の状態だったけど」
う~む、確か都に用があってついでにあうとか何とかと言っていたような気がするなぁ
「正確に言うのならば私はその阿礼自身です」
「なぬ?」
「私は閻魔様との約束事を行い記憶を持ったまま転生することができるのです」
閻魔を説得できたのかそりゃまた凄いな
「正確に言えば一部の記憶を引き継いでとなりますね。私の一族が代々作っている求聞史紀を残すためです」
「ほう、それほどのものなのか?」
「コレは人が妖怪に抵抗するための書物に近いですね。例えば妖精に対してどのように行動すればいいのかなどです」
へぇ、面白いことしているな。ようは妖怪のための攻略書か
「最近は妖怪の賢者様のおかげで人里に攻めてくるような妖怪は減りましたが、逆に一歩でも外に出れば話は別となりますから」
「確かになぁ。それに下手に頭がよくなってくる中級妖怪なんかは逆になんで従わなければみたいに思って無視してやってくるだろうしな」
下級は力を見せつけりゃ逆らう馬鹿はいないんだが、中級や大になると従う理由がないとかになるからなぁ。
妖怪の山の連中だって当初はいきなりやってきた俺に随分喧嘩売ってきたもんだ
「出来れば少し見せてくれないか?」
「少しお待ちを」
そういうと阿弥はその場を離れていき少しすると手になにやら紙束をもって帰ってきた
「どうぞ」
「ありがとな」
目を通した最初のページに良く見知った名前が書いてあった
†――――――――†
【境界の妖怪】八雲 紫
能力:境界を操る程度の能力
危険度:不明
人間友好度:普通
主な活動場所:如何なる場所でも
†――――――――†
後は能力や特徴などのことがつらつらと描かれていたがなるほど、この備考の部分を読むとどういった対処が適切かなどがよく分かる
鬼についてなどはないのが不思議だが天狗についてもある程度書かれているようだな
「いや、面白かった。まさか能力まで調べられているとは」
「はい、できる限りを残したいと思いまして」
「だから慧音と仲がいいのか」
「どういうことだ?」
今まで沈黙を保っていた慧音だったが俺の言葉の意味が分からなかったのか聞いてきた
「だって、お前の親父を思い出してみろ。何よりお前もやっているんだろう?」
「ああ、そういうことか。確かにそうだな」
思い当たる節を指摘されて納得する慧音に頷く
「そういや、お前もやっているのか?」
「ああ、私の場合は正しい歴史を残したいと思ってな」
「正しい歴史ねぇ」
歴史ってのは口伝から書物化されるから確かに歪むなんてことはよくあるが…
「何をとって正しい歴史となるかだな」
「?何を異なことを言っているんだ?」
分からないといった表情で首をかしげる慧音に阿弥
「例えば大きな戦いがあっとして、それは後世に伝える必要があるのか?あったとして、それを事細かに伝える必要があるのかってことだな」
「ふむ、確かにそうだが私の場合はそれを誰かに見せるためにやっているわけではないからな」
「だったら、いいか」
俺があっさりと言葉を覆したことに目を疑う両者だが、自分のためだったら別に何も言わんさ
「できれば、真理殿もこちらの幻想郷縁起に協力してもらいたいのですが」
唖然とした表情から回復した阿弥が俺に尋ねてきた
「それって能力のこととかも教えるってことか?」
「はい、できればですが」
「う~む、正直協力するのはやぶさかではないんだが」
「でしたら」
何となく目をキラキラとさせながら此方につつつとよってくる阿弥を見つつ手をかざす
「すまんが、協力できそうにないな」
目に見えて落ち込む阿弥。ううむ、子供にこんな顔をさせるのは忍びないが理由が理由だ
「まぁ、理由を教えとくよ」
「理由ですか?」
「そうだ。単純に俺は能力を教える気が無い」
そう、単純にそれだけなのだ。それ以外でいいのなら何だって答えてやることはできるがな
「ああ、因みに能力を持っていないわけじゃないぞ?珍しく2種類使う妖怪だしな俺」
「そうだったのか!?」
そこで驚くのは慧音だったんだがなぜお前が驚く
「妹紅に真理殿は能力を持っているらしいとは聞いていたが2つも持っているとは」
「少し違うな。俺は2種類使いえるのであって2つ持っているわけじゃない」
「どういうことでしょう?」
俺の謎かけみたいな言葉に阿弥は多少考えた後、答えが出なかったのか素直に尋ねてきた
「簡単に言えば俺の元は犬だ。普段はこの姿なんだが本来の姿といわれれば犬なんだよ。こんな風にな」
そういって二人の前で獣化する
「元々この姿で生まれてその後に人間になる術を学んで人としての姿で生活しているだけさ」
人化して座りなおす
「んで、話を戻すと簡単で獣化している本来の犬の状態とこの人化している人の状態で俺は別々の能力を使うんだ。因みにどちらかの状態で別の能力は使えないという部分があるがな」
「なるほど。それで2つとは言わないで2種類と言ったわけか」
「そういうこと」
俺の言葉に納得がいった慧音は頷いていた
「ああ、因みに犬の状態の能力は教えても支障がないな。犬の状態の能力は【悪意を受けない程度の能力】って言うんだ。
教えたくないのは人の状態の能力だな、これは俺の奥の滅多に使わないようにしているし知っている奴も片手でたりるくらいしかいないからな」
えっと、母親に玲央、諏訪子様に神奈子様くらいか?後誰かに教えた記憶はなかったような気がするな
うすうす気がついているやつもいるかも知れないが俺の能力をはっきりと言い当てた奴なんていないし
「ふむ、真理殿がそこまで言うなら余程強力な能力なんだろうな」
とびっきりな
「…分かりました。無理強いするつもりは無かったので諦めます」
「その内気が変わったら教えてやるよ」
「期待しないで待っています」
はは、強かだねぇ
「んじゃ、またな」
これ以上話すことも無いからと言う理由で阿弥の屋敷を後にする
「ああ、そうそう」
「?」
思い出したように後ろを振り返る俺に阿弥は何があったのだろうと首をかしげている
「俺は男だから」
「…はい?」
「んじゃな」
ううむ、久々に見たなあんな反応。昔はそれで切れていたのが懐かしい




