宵闇と白狼
「さぁ、始めましょ」
闇色の妖怪がそういうと当たりには一面黒い球体が表れ、真理に襲い掛かる
「嘗めるな」
真理は攻撃をいともたやすく避けると相手に向かって弾幕を放つ
「ふふ」
しかし、真理が放った弾幕は闇色の妖怪に当たる前に闇へと飲まれていった
「なぬ?」
「ご馳走様」
突如として自分が放った弾幕が闇へと飲まれたことに驚く真理と何故か満足げに言葉を出す闇色の妖怪
「私の能力の【闇を操る程度の能力】の前では全てが闇へと飲まれ私に取り込まれるの」
「厄介な能力を持っているな」
闇色の妖怪の能力に真理は軽く呆れながらもこれといって動揺はしていなかった
「あら、攻撃を防がれたのに余裕ね」
「あー、俺の能力も大概だからな」
自分もやろうと思えば空間を弄って攻撃など無効化できるために相手の力の使い方に対してはこれといって言うことはないようである
「んじゃ、遠距離はやめてこれでどうだ」
「くぅっ!」
膝をおり一瞬のうちに力を溜めた真理は一気に爆発させて闇色の妖怪に近づき足を振るう
しかし、闇色の妖怪も真理が次に行うであろう動作を予測していたために剣でその攻撃を受け止めるが数mほど後退させられてしまった
「やっかいね、その力は」
「積み重ねだな」
これほどの威力とは思っていなかったのか闇色の妖怪の顔が曇り、真理は当然といった表情であった
「でも、コレは防げるかしら?」
「その程度の弾幕なぞ、何!?」
再び剣より放たれた弾幕を真理は悠々と回避したのだが、今度の弾幕は真理の傍を通り過ぎたら突如として球体から針のようなものが飛び出して真理を襲ったのである
長年の勘によりすれすれで避けることに成功はした真理だが予想外の攻撃に流石に焦りの色が見えた
「漸く、隙を見せたわね」
「ちっ」
攻撃を避け、その正体を確認していた真理に音も無く近づいていた闇色の妖怪は剣で真理に斬りにかかった
「なっ!」
「はっ!」
されど、真理は素早く体勢を整えて剣を白羽取りし驚いて固まっている隙に蹴りを見舞ったのであった
「ゲホっ、ゴホッ!」
モロに蹴りを食らった闇色の妖怪は呼吸に支障が出ていたらしく咳き込んでいた
「悪いな、その程度の攻撃ならば多少隙を見せようがどうとでもなる。9尾開放」
そういいながら真理は8尾から9尾へと尾の数を増やすと妖力を開放しだす
「くっ、デタラメな妖力を・・・」
苦悶の表情をしながら闇色の妖怪は真理の妖力によりその場に縫い付けられたように動けなくなってしまった
「喰らえるものならば喰らって見せろ」
真理の妖力が研ぎ澄まされていき当たりに出ていた妖力一箇所に固まり、闇色の妖怪の上には太極図が浮かび上がる
「陰陽陣・・・黄龍」
「キャァァァァァッ!」
闇色の妖怪の真上から光と見間違うほどの輝きを持った攻撃が振り落とされ闇色の妖怪は抗うことすらできずに攻撃をまともにあたり落ちていった
「ふぅ・・・疲れた」
真理はシッポを封印しながら落ちていった妖怪の元へと向かっていった
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「確かここらへんだったはずだが」
「真理!」
さっきの妖怪を探していたら紫が飛びながらこっちにやってきていた
「紫、無事だったか」
「ええ、藍は今後始末に回ってくれているわ」
「そか・・・と、見つけた」
紫と現状報告をしながら歩いていたら漸く目当ての奴を見つけた
「この子は?」
「なんか、ここを襲おうとした連中と一緒にきた奴」
「危険じゃない!処分しましょう!」
紫が妖力を噴出しながら近づいていくのを俺は遮る
「真理!?」
俺が何故止めるのか分からず驚く紫
「まぁまぁ、こいつは人間が食えるって言うだけでついてきて食えないからって何もことを起こしてなかったってさ」
「じゃあ、なんでここで倒れているのよ」
「喧嘩売られたから買ったまでだ」
「・・・はぁ、何か疲れたわ」
俺の答えに溜め息をつく紫・・・俺が何かしたか?
「う~ん・・・」
「おっ、起きたか?」
「あんたは・・・」
気がついたので声をかけると此方を見ながら立ち上がってきた
「そういえばお互い自己紹介していなかったな。俺の名前は風由真理」
「ルーミアよ」
ルーミアと名乗った闇色の妖怪と挨拶を済ませる
「そういや、お前って今でも人間食いたいのか?」
「そうね、食べられるなら食べたいけど別にどっちでもいいわ」
「なんじゃそりゃ」
こいつが来た意味ってあるのか?
「ここ最近暇だったから誘ってきた奴の誘いに乗っただけよ。で、来てみればあると言っていた里ってのもないしとりあえず見ていたら貴方がいたから話しただけよ」
「ああうん、暇って敵だよな」
ついつい同意してしまったのだが、紫がすっごく睨んでくる
「それで、お前はどうするんだ帰るのか?」
「別に定住って持ってないからここで暮らそうかしら」
「ダメよ!」
「いいじゃない、別にあいつら見たく暴れないし」
「でもね」
「まぁ、それに関しては考えがあるっちゃある」
「本当!」
ルーミアが何か嬉しそうに言ってくる
「何故にお前がそこまで喜ぶ?」
「貴方の近くにいたら暇なんてふっとびそうだもの」
「あっそう」
俺のお株を奪うな
「それで、考えって」
「あまり悪さできないように力だけ封印しちまえば?」
「どうやって?」
「さぁ?」
「さあって、貴方ねぇ・・・」
やば、紫が切れてる
「おちつけ、結界術とかは得意なんだが封印とかその他は解呪法しかできねえんだよ」
流石に封印術とかはきちんと覚える気が無くて解呪しか教えてもらわなかったんだよな
「まぁ、当分は大人しくしてろ。ゆっくりだが覚えたら施すから」
「まぁ、従うわ」
「さてと・・・んあ?」
「どうしたの?」
「泣き声が聞こえるな」
分からないといった表情の二人をほっといて泣き声の元へと向かうとそこは沢山の家が倒壊している場所であった
「確かここは、白狼天狗の集落だったか?」
「ええ、そうよ」
後を追ってきた紫がそういう
「それで、泣き声なんて聞こえるかしら?」
ルーミアもやってきてそう言ってくる。紫も聞こえないようで同意して首を縦に振っているが
「お前等耳悪いな」
そういいながら瓦礫が不自然に積みあがっている場所を丁寧に崩していくとそこには泣いている子供が結界によって守られていた
「なんで、聞こえるのよ・・・防音とか色々なものがかかっている結界なのに」
「てか、白狼天狗ってこういったものも出来るんだ。ぶっちゃけあの剣で戦うだけと思った」
「天狗ってついているでしょ、向き不向きはあるけど使える子は使えるわ」
嘗めすぎてたな、反省反省
「まっ、ぶっ壊すのが目的の奴等がここまでなっている場所を掘り起こすとは考えにくいしな」
「そうね」
「さてと、解」
結界に手をかざして解除するとそこには今だ泣き続ける外見は5歳程度の少女
「ひっぐ、うっぐ」
「大丈夫か?」
「ひっぐ…え?」
声をかけられたのに気づきこっちに向き直ってくる少女
「悪い奴はいなくなったぞ?」
「本当?」
「ああ、本当だ。それで、お前はなんでここにいるんだ?」
「お、お父さんとお、お母さんが・・・えっぐ」
ふむ、どうやら両親に隠されたようだな。こいつ自身が血だらけということは既に
「そうか、しかしお前の両親は」
「真理!」
青い顔をしている紫が俺の言葉を遮ろうと言葉をかけてくるが
「分かってる・・・」
「そうか」
強い子だな。まさか、自分で言えるとは
「お前はこれからどうしたい」
「どう・・・したい?」
「そうだ。復讐に生きるか?それとも、天狗として一生を全うするか?それとも別の何かをするか?」
なんで、ここまで言うか自分でもわからんけど
「・・・わかんない」
「そうか、そこで一つお前に選択肢を上げよう」
「選択肢?」
「そうだ・・・どうだ?俺の娘になるか?」
「お母さんになってくれるの?」
「「ぶほっ!」」
今までのシリアスな雰囲気台無しにするように紫とルーミアが吹いたが丁度いい
「ちょっと違うな・・・父親だ」
「女なのにお父さん?」
「フフフ、だめ、我慢できない」
「あ、あんたがそんなに笑うってことは、ほ、本当にお、男なのね、ハハハ」
紫も緊張が解けたのか笑い出しルーミアも俺が男だと納得したようで同じように笑い出した
「俺は男だ」
「お母さんより綺麗」
・・・なんて答えればいいんだ?顔自体は綺麗だと客観的に見ても自覚していたが
「そんで、どうする?」
「娘になったら何かある?」
てか、この子もなんで怪しまないでここまで信用してんだ?純粋な子なのかな
「何かか・・・家族が出来るってだけじゃダメか?」
「でも、血が繋がってないよ?」
「どうでもいい。あと、そこで笑い転げている胡散臭い奴なんて女なのに女好きなんだぞ?」
「誰が胡散臭いのよ!女好きでもないわよ!」
お前だお前
「女の人好きなの?」
「違うわよ!違うからね!?」
「まぁ、あそこもな血が繋がってない奴を家族とするとして同じ苗字を名乗っているしな」
「へ~」
ちなみにシッポをさっきから抱かせていたんだが笑顔が出てきたな・・・マジでなんだ俺のシッポは
「それで、どうする?」
「う~ん・・・」
シッポをぽふぽふと抱きながら悩む少女
「ついていく」
「そうか、俺は風由真理」
「えっと、犬走椛です」
「そうか、宜しくな椛」
「うん!」
笑顔で答えてくれる椛に頷いている俺に紫が近づいてきて声を潜めて聞いてきた
「真理、娘なんてとってどうするの?貴方の趣味の旅は?」
「別に旅が好きって訳じゃなくて面白いやつを見るのが趣味なんだがな」
「なに、その趣味?」
黙れルーミア、てめえさっき自分で言った事を思い出せ
「それに、今の世界は人間同士が争うだけ争う世界だからな」
そう、戦国時代となり人はなりあがりを狙う奴が増えてきて野心の固まりになっちまった
別にそれを見ていてもいいが、ゆっくり見れるわけでもないし別に・・・
ただ、未だに覚えているやつの時代は見に行くのもありかな
「んじゃ、家に行くか・・・無事だよな?」
「どうかしらね」
「私はどうすればいいかしら?」
しらんよ
「さてと、椛」
「何?」
「別に風由椛と名乗れとは言わない」
「なんで?」
「お前は確かに娘になったけど、本当の両親のことを忘れてやるな。犬走というお前の両親が使っていたそれはとても大切なものだ」
「うん!」
いい笑顔だ。これならば、強い子に育つだろう
「とりあえず、今日は帰る。紫話はまた後日でいいな」
「ええ、私も今日は疲れたわ」
それだけ言うと俺と紫はそれぞれ目的の場所へと向かった
「だから、私はどうすればいいわけ!?」
ルーミアの叫びが朝焼けの中に木霊したのだった




