幻想郷にご案内
「あのぅ、ちょっといいですか?」
諏訪に来て一週間が過ぎようとしている。
久しぶりに会った、お二柱との会話が楽しいってのもあったのだが、紫の件を抜きにしても、このままお二柱が消えてしまうのが惜しいと感じたので、酔わせて無理やりでも連れて帰ろうと画策していたのだが、諏訪子様がいつも酔っぱらわないので、不発に終わっていた。
そんな時、ここの神社の祝である早苗に話しかけられた。
「どうしたんだい?」
「えっと、真理さんは、神奈子様と諏訪子様を幻想郷というところにお連れしたいと考えているんですよね?」
「まあね。君には悪いが、今の日本であのお二柱の居場所はないからね」
困ったときの神頼みという言葉があるが、残念ながら、基本的にあのお二柱の加護は風病や土地関連に関してなので、現代の日本ではほぼ意味がなかったりする。
「いえ、正直なところ、私は、私のことなど気にせずに、生きていてほしいんです」
「ほう」
神に死の概念はなくもないが、生きるという表現は微妙であるが、それでも、今のこの早苗の言葉は少なからず、俺を驚かせた。
と、言うよりも、結局は互いに互いのことを考えているわけだ。ちょっと羨ましいかな。
うちの場合、最近、椛が反抗期なのか、俺のことを心配してくれなくなってしまった。『お父様なら、何があっても生きていますよね?』とか言って。泣きたくなったよ。
「まぁ、物理的に力ずくで連れて行くのはいいんだけど、その場合は、天照様が怖いんだよねぇ」
ちょっと、この一週間の間に会いに行って、あのお二柱を連れて行くという旨を伝えに行ったのだが、その時に、双方の同意があればいいけど、無理やりはダメよと言われた。なので、酔わせた勢いで、無理やり同意を取ろうとしたんだけどねぇ。
「物理的って、乱暴ですよ」
俺の言葉に、早苗が苦笑いを浮かべる。まあ、妖怪だし?その辺は、勘弁してくれ。
「話は変わるのですが、幻想郷ってどんなところなんですか?」
「どうして、そんなことを聞くんだい?」
「その、皆さんが楽しそうに話しているので、興味を持って」
「そうさなぁ……」
まぁ、この年頃の少女ってのはこういうものか。
それに、話してやるのも一興かね。
「って、感じだが」
「ロボットはいないんですか?」
「は?」
「いえ、なんでもありません」
とりあえず、早苗の戯言はわきに置いておこう。きっと空耳だ。
「えっと、真理さんは空って飛べますか?」
「飛べるぞ」
好きくはないけどな。
「どうしたんだい?」
「いえ、神奈子様や諏訪子様が昔の話をしてくれる時に、よく空を飛んでいたとか、空から見た景色はって言っていたので」
「あ~。そうさなぁ、かつては結構多かったな。つっても、資質もあるから、だれしもってわけじゃないし」
「そうだったんですか」
「そうだったんだよ。あとは、神奈子様は風の力も持っているからね。諏訪子様は土の力だったかな?」
だから、この近辺は毎年豊作で、疫病にかからず、なおかつ天気もいい意味でよかったからなぁ。コメが美味い。
「私も飛べるんでしょうか?」
「飛べないのか」
「諏訪子様が、私にやり方を教えたら、絶対人前で使うから教えないって」
「確かに」
なんだか、この子の場合は、やっちゃいそうな気がしてならない。
「ヒドイですよ」
「すまんね、根が正直なもので」
納得する俺に、可愛らしく頬を膨らませる早苗に笑みがでる。こういった意味では、この子は俺の知り合いではいないタイプだな。
「それにしても、それだけの資質を持ちながら、空を飛べない、か」
「そうなんですかね?ただ、この力があるせいか、普段は力を出さないように気を付けているんですけどね」
「どういうこった」
「実はですね……」
それを聞いた俺は、とりあえず、あのお二柱に会うべく移動した。
「どうしたんだい、真理。そんな顔をして」
「神奈子様、諏訪子様」
「ん~?そんな真面目な顔をしてどうしたっての?真理は無駄に美人なんだから、迫力があって怖いよ?」
「俺もこんな顔をしたかないですがね。とりあえず、聞きそびれていたんですが、あの早苗は能力持ちですよね?どういった、能力ですか?」
からかってくる神奈子様たちに、普段の俺ならば、ノリについていくが、流石にこのままでは、やることもやれないので、本題を尋ねる。
尋ねてみれば、二人とも苦い顔をして黙ってしまう。
「まぁ、別に関係ないじゃないか」
「そうだよね」
「お二柱とも?」
「「ひぃっ!?」」
「あ、あれは!」
「あ、あかん!」
「あれだけは!」
ヘラヘラと笑う二人に笑顔を向けながら近づいていくと、なにやら短く悲鳴を上げる。失礼な、こんなに俺は笑顔だというのに。
「あれは、ダメです。ごめんなさい。許してください」
「うちらがオイタをしすぎる時に向ける顔や」
「ああ。笑顔が本来は、攻撃的なものというのがよく分かる」
なにやら外野がうるさいが、とりあえず要件をすませよう。
「それで、早苗の能力は?」
「え~っとなんだったっけなぁ~?」
「見た目は変わらないけど、私たちも歳だから……」
この期に及んで、まだ言い逃れをしようとしているお二人の頭を掴む。
「いいから答えろ」
「「【奇跡を起こす程度の能力】です!」」
流石に我慢が限界で命令口調で言ってしまったのだが、お二柱は素直に答えてくれた。
「んなっ!?馬鹿な!人間にそのような能力が!」
清明がひときわでかい声で驚きの声を上げる。清明ほどではないが、玲央や麻耶も同様に驚いていた。
「早雪のこともあったから、もしかしてとは思っていたけど、やはりですか」
「と、言うよりも真理は、どうしてそんなことを尋ねたんだい?」
「早苗から話を聞いたからですよ」
俺がそういうと、お二柱とも微妙な顔をする。
「ガキの頃から能力が暴走して、友達もできずにいるっていうじゃないですか。俺も親となった身だからこそ言えますが、流石にそれはあの子が可愛そうでしょうに」
「それは……」
「はっきりと言いましょう。あの子は現代に合いません。性格や生活は合いますが、力が異質すぎます。これで力が一般人と同等だったら、話は別でしょうが、強すぎる力は孤独どころか、今の世じゃ、よくて村八分、悪けりゃ、モルモットでしょうに」
俺の言葉を聞いて、二人は完全に黙り込んでしまう。言い過ぎたかね?けど、偽らざる本心だ。
「お二人の懸念も分かりますが、もう少しわがままでいいんじゃないですかい?それに、早苗も言ってましたが、私のことじゃなくて自分のことを優先してほしいって」
「早苗……」
「あの子ってば……」
早苗の本心を伝えると、二人は何やら嬉しそうな、悲しそうな微妙な笑顔を浮かべた。
「まぁ、つーわけで、三人をご招待しましょう。場所は決まってますし、移すのも本殿と……後ろの湖も持っていきましょうかね」
「なっ、何をいって……」
「ま、まさか!」
「お二柱は俺の能力を知っているでしょう?ちなみに早苗の準備は終わっています。恨むのはどうぞ俺だけに」
そういって、俺は転移する土地を能力で固定した後、指を弾いた。




