久しぶりの神様
少女に連れられてやってきたのは、こじんまりとした神社であった。
ただ、こじんまりとしている割にはかつて神様たちが存在したときと同様とまではいかないまでも、それでも周りは神気に満ちていた。
「ほう、珍しいな。この時代でここまで神気に満ちている場所があるとは」
陰陽師である清明にとって、こういう場所は結構好きみたいで、中々にご機嫌だ。
「ささ、どうぞ、こちらです」
少女は笑顔を浮かべて俺たちを手招きして奥へと連れて行く。
「それにしても、ど~こで見たかねぇ」
「どうしたんですか?」
「うん?ああ、ここってどこかで見たことがあるんだよ」
「どこか、知っているところと勘違いって言いたいところやけど、真理さんの場合は、一昔前までは全国をまわっとったもんなぁ~」
そうなのだ。勘違いで済むのなら、それに越したことはないが、勘違いではないと、俺の勘が告げている。
それに、神社の端々にはやはり見覚えのあるものがあったりするのだ。
「お二柱とも~、お客様をお連れしましたよ~」
神社の御神体が置かれていそうな場所に辿り着くと、少女は遠慮することなくずかずかと襖を開けて入って行ってしまう。
てか、御神体が置かれているところに入るのに、そんな無遠慮でいいのか?
ここの巫女さんかどうかは知らんが、流石にそれはないだろ。
『こらっ!お前はまたそうやって、知らない人間を連れてきて!』
『そうだよ。それで前に、やばいことになっただろ……相手が』
中から、ここに連れてきた少女以外の声が聞こえる。
神気があったから、いるかもしれないと思ってはいたが本当にいるとは。
それに、一柱だけかと思ったら二柱も存在しているとは。
「ふむ。一つの神社に二柱か。珍しいな。仏教ではありえなくもないが」
「そうですね。ですが、やはり力は微弱ですね」
「せやねぇ。元々が弱い神様っちゅー可能性もなくはないけど、この時代で存在を維持しとるっちゅーことは、少なくとも下級神ではなさそうや」
麻耶の言うとおり、なんだかんだで生き延びる神様もいるかもしれないが、それでも声が聞こえるまで維持できている神様ならば、最低でも弱い部類の神ではないだろう。
「みなさ~ん。どうぞ、こちらへ~」
中から顔だけ出して、俺たちを招こうとする少女。俺たちは、顔を見合わせた後、一つ頷いてから中へと入っていく。
『ったく、どうせ声も姿も見えやしないってのにこの子は』
『まあいいじゃん。そのうち電波女だと思って、逃げていくのがおちだって』
中へと入っていくと、そこには確かに神様が存在した。存在したが、やけに寛いでいる。大方、見えやしないと思って、だらけていたな?
改めて、そんな神様(笑)の姿を見てみると……
『あ』
清明と少女以外の声が重なったのであった。
「諏訪子様に神奈子様」
「あー!って、誰?」
「どっかで見たことがある気がするんだが……」
こっちは名前を言ってあげたのに、あっちは名前が思い出せないようだ。なんか、すげぇ悲しいんだけど。
「いや、知り合いに似てはいるんだよ?」
「けど、あいつって妖怪なんだよねぇ」
「ああ!」
そこでようやく、お二柱が俺の姿に違和感を覚えている理由が分かった。
そういや、外に出るということで耳と尻尾を隠していたんだったな。
それは、玲央や麻耶にも言えることだが。
指を弾くと、いつもの耳と尻尾が現れる。うむ、やはりこれがないと落ち着かないねぇ。
「真理!」
「真理かい!久しぶりだね!」
耳と尻尾が現れたことにより、お二柱とも俺が誰かわかったようだ。やはり、特徴というのは大事だな。
「お久しぶりです」
そうだ。なんで忘れていたんだろ?まぁ、ここ近年はいろいろなことがあったし、ここ最近は来なかったからなぁ。
「ほんとだよぉ」
「ずるいぞ諏訪子!私だって、癒されたい!」
早速諏訪子様が俺の自慢の尻尾へと抱きついてくる。それを見た、神奈子様が、諏訪子様にたしいて嫉妬しているし。
「てか、真理がいるってことは周りの奴らも普通じゃないだろ?そっちの二人は妖力を感じるし、そっちは莫大な霊力を感じるけど」
諏訪子様が尻尾に抱きつきながら蕩けた顔で尋ねてくる。そんな諏訪子様を見ながら、羨ましそうにしている神奈子様はこっちを見て、おねだりしたいけど、神様としてのプライドなのか、我慢しているのでそっと尻尾を増やすと速攻で抱きついてきた。
「始めましてになりますかね。洩矢神、八坂神。私の名は鬼神母玲央。かつては、鬼神と呼ばれた者ですよ……そして、いつまで真理さんの尻尾に抱きついているんですか!離れなさい!」
「いつぞや以来やね~。うちは天狗の頭領の天麻耶や……玲央はんの言う通りや!ぶっ飛ばすで!」
「噂はかねがね聞いていますよ。私は陰陽師の阿倍清明だ……少し変わってくれ。ここ最近、馬鹿弟子共がストレスをためてくれてな、癒されたいのだ」
ったく、うるせぇなぁ。後で撫でさせると約束させてからいったん、距離を取り直させる。
ここまでの流れについてこれなかったのか、少女は目を見開いて固まっていた。
「えっと、皆さん、お二柱が見えるんですか?」
「見えるねぇ。ロリっ子と変な髪型の二人が」
「「ぶっ飛ばすぞ、ゴラァッ!」」
「ほんとに見えるんですね!」
「「早苗!?」」
ガビーンといった感じでショックを受ける二人とも、仕方ないだろ。それが共通認識なんだから。
「いやぁ、懐かしい。何年ぶりですかね?かれこれ、500年は会ってなかったと思いますが」
「それくらいかなぁ?いや、もっとじゃない?なんか、真理がどこぞで腰を落ち着けたって風の噂で聞いたっきりだし」
そっか、そんなに経つか。そういや、幻想郷に腰を落ち着けたのも結構前だしなぁ。
「それにしても、鬼神や天魔、あの陰陽師って凄いメンバーもいたもんだ」
「まぁ、玲央なんかは昔からの知り合いですしね」
「そういや、言っていたっけ?酒の席での話だし聞き流してた」
まぁ、そうだよねぇ。てか、俺と神奈子様なんて大体は酒を飲んで騒いでいただけだしね。
「あのぉ、それで皆さんは一体?」
いけね。また、この少女のことを放置しちまっていたよ。
「すまんすまん。俺は風由真理。ちょっと長生きしている犬妖怪さ」
「先ほど申し上げましたが、私は鬼神母玲央。鬼の総大将です」
「うちは、天麻耶。天狗の頭領や」
「安倍清明。陰陽師だ。こいつらと違って、私は人間だぞ」
清明のセリフにはちょっと待ったをかけたい。確かに人間だが、人外には変わりはないだろうが。
「妖怪ですか。諏訪子様や神奈子様の昔話で出てきましたが、実際にお会いするのは初めてです」
「まぁ、現代で生き延びている妖怪なんてのは少ないからなぁ」
いなくはない。地方のド田舎にはまだ何体か残っているんじゃないかなぁ?実際に会ってないからわからんけど。
「まぁ、とりあえず……飲もうか。昔話も交えて、色々と教えてやるよ」
「「「「乗った!」」」」
諏訪子様以外がテンション高く、提案に乗ってきた。諏訪子様も、落ちつているけど、楽しそうだ。
さぁ、夜はこれからだ。色々と旧交を深めようじゃないか。
ここの早苗を某動画のコスプレ好きにさせたい。けど、流石にギャグ専の小説じゃないから、やらないけど。




