外の世界へ
「暇だな」
「そうですね」
「せやなぁ~」
「これと言って、やることもないからな」
異変も起きなければ、起きてもしょうもなかったり、月見酒が続けられただけというような結果しかなかったからなぁ。
そういや、竹林経由でチルノが新しい友達が出来たとか言っていたな。
なんでも、Gもとい、ホタルかなんかの妖怪なんだとか。
虫かぁ。これと言って、仲良くしたいような奴が今までいなかったんだよなぁ。基本的に虫ベースの妖怪ってなぜか知能低い低級妖怪ばっかしか会ってこなかったからだろうけど。
「しかたねぇ、こうなったら外行くか」
俺の発言に、一緒にいた玲央達も揃って頷く。
「待ちなさいよ!」
「玄関から入ってきなさいといつも言っているでしょ」
「アッー!」
隙間から現れて待ったをかけてきた紫だったのだが、俺らに文句を言う前に、椛に襟首を掴まれて外へと放り出されてしまった。
「あんた、娘の教育どうなってんのよ」
「問答無用でぶっ飛ばされないだけマシだと思え」
山の麓に建っているからか、新顔の妖怪が結構ちょっかいをかけてきたりすることが多い我が家。
玲央や清明が入り浸っていたりするが、基本的にうちのことはうちが処理するという方針のために、手を出してこない。
そうすると、必然的に相手をするのは俺か椛となる。
あとりも戦闘力は高くはないが、そこはそれ。結構な年月を過ごすうちに、新顔程度には負けない実力は有している。
基本的に頭が悪い奴らばかりなので、来たら速攻でお帰りいただいているのである。
顔見知りとあって、紫の場合は、玄関に叩き出されるだけで済んだというわけだ。
「物騒すぎるわよ!って、そうじゃなくて!外に出るのはやめてと言っているでしょ!」
「暇なのが悪い。暴れてやろうか?」
「すいませんでした。どうぞ行ってください。だから、暴れるのだけはやめてください」
すぐに手のひらを返した紫に呆れつつ、椛とあとりに出かける旨を伝えたあと、幻想郷の外へと移動する。
「あ、ついでだから、ここに行ってきて」
出る前に、紫にお使いを頼まれたが、まぁ、断る理由もないし、暇つぶしにはなると思い承諾したのであった。
「ナンパがうぜぇ」
外に出て、それなりの格好をしてぶらぶらと歩いているのだが、ひっきりなしにナンパに合い辟易していた。
「そうですね。それに、目線が厭らしいです」
「せやなぁ。てか、値踏みするような感じで話しかけてくるっちゅーのは失礼やろ?それに、なんでうちだけ厭らしい視線が足限定なん?」
「胸がないからだろ。それに、話をするにしても目線を合わせんとは、どうなっている?」
毎度のことなのだが、それでも今の日本人を見ていると、なんか残念でしかたないな。
特に清明が言った、目線を合わせないというのは、人と会話するものとしての、礼儀がなってない。
「それにしても、洋服でしたっけ?これはこれで、可愛いですよね。着物みたく、着るのに手間がかかりませんし」
「そやね。文ちゃんとかが着とるけど、こういったのも悪くないわ」
「私的には、真理が履いているズボンの方がいいのだがな」
流石に、普段の格好で出歩くのも目立ちすぎるために、前に適当に買い込んでいる洋服を渡してやったのだが、中々に気に入っているみたいだ。
「でも、やはり着物の方が落ち着きますね。胸も苦しいですし」
「お前はいつも、扇情的すぎる着方をしているだろうが。もう少し、慎みを持て」
「あなただって、普段の服はだぼだぼしてみっともない感じがしますよ。洋服を着ると、貴方だってそれなりに大きいとわかりますし」
「あれは、そういうものだから仕方なかろう。それに、こんなのは別に必要ない」
「なぁ?喧嘩売っとる?売っとるよな?」
「お前ら、俺がいる前で、生々しい会話をするな」
枯れたとはいえ、女の会話に男が混ざりづらいのは、いくつになっても変わらん。
「失礼しました。そうですよね、みっともなかったです」
「済まなかったな」
「あ~ん。真理さん。皆がいじめるわ~」
胸に飛び込んでくる麻耶の頭を撫でつつ、それに大いに嫉妬する玲央をたしなめながら、街をぶらぶらと歩いては、気になる店に入っては冷やかす。
金は持っているが、あまり下手なものは持ち込めないからなぁ。まぁ、いろいろと持ち込んでいるから、手遅れっぽいが。
「だから、俺は男だって言っているだろ!」
そんな風に歩いていたら、どこからか、俺と似たようなことを言うやつの声が聞こえてきた。女顔って、マジでこの時代は大変だよな。
野次馬根性で見に行ってみたら、そこには二人の男が、確かにきれいな顔をした男をナンパしていた。何でわかったかと言えば、似た悩みを持っているせいか、性別を一目で見分けられるんだよね。
助けてやろうか、それとも黙って事の成り行きを見ていようかと悩んでいたら、俺より先に行動に移った子がいたようだ。
「みなさん!くだらない争いはやめて信仰しましょう!」
「はい?」
「あらあら、あの娘は面白いことを言いますね」
「今の時代に信仰か」
「う~ん。こっちに出てくるとうちらも力落ちよるし、それでかな?」
何やらちょっと奇抜な緑の髪にカエルと蛇の髪留めを付けた女の子がすっとんきょうなことを言いながら、ナンパされた男とナンパしていた男に割って入って、信仰しましょうとゴリ押しを開始した。あの子、将来は訪問セールスに向いているんじゃね?
てか、な~んかあの子のこと見たことあるような、ないような?
「それに、神力と霊力を宿している、か」
「この時代ではかなり珍しいですよね?」
「せやね。何度も来とるけど、ここまで強く力を感じたのは初めてや」
「ああ。それに、普通人間に神力が混ざることはないはずだが」
「聞いてみるか」
結局、三人とも割って入ってきた子を気味悪がって別の場所に逃げて行ってしまったし。
「うぅ、また失敗です」
信仰者が集められなかったためか、がっくりと肩を落とす少女。いや、その方法じゃ無理でしょうに。
「お嬢ちゃん、ちょっといいかな?」
「はい!今なら、紅白まんじゅうが付きますよ!」
「何かの通販かよ」
いや、別に信仰心なんてかけらもねぇからどうでもいいんだけどさ。
「とりあえず、今の方法じゃダメだろ。無理に信仰心を集めても、それは神様には通じないよ」
「えぇっ!?」
「信仰とは、心から祈り捧げることによることだからね。ちょっとでも、雑念が入れば、力は得られないのさ」
「なんということでしょう……」
俺のツッコミに激しく落ち込む少女。う~ん、悪いことをしたかな?でも、本当なんだよね。
「詳しいですね」
「なんだかんだで、知り合いが多いのが俺の取り柄だからな」
何千年と世界を渡り歩いているためか、古株の神様は知り合いが多い。
「あ、あの!」
「ああ、悪かったね。なんだい?」
「もう少し、お話を聞かせてもらってもいいですか?なんか、詳しそうですので」
「う~ん。つれがいいって言うならいいよ」
「構いませんよ?神様は嫌いですが」
「同じくや」
「私もだな。うちの巫女にも見習わせたいものだ」
「それでは、ご案内しますね」
そういって、歩き出した彼女の後ろについていくと、どこかで見たことのある神社が見えてきた。
真理たちは、ちょいちょいと外へと行っているのでした(おもに、酒を買いに)




