STAGE11
紫さんに紐を括りつけ、引っ張りながら元来た道を戻れば、先ほど上がらなかった階段が見えてきた。
「うへぇ、頂上が見えないぜ」
げんなりした顔で魔理沙さんがため息をつきます。確かに、ここの階段は心臓破りも真っ青な位の長さを誇りますからねぇ。
というか、子供のころよく登りきったと自分を褒めてあげたいですよ。
お父様と一緒にどこか行くと、お父様は空を飛ぶのが嫌いというより、自分の足で歩くのが大好きなため、めんどくさがりな癖に、こういった階段や坂、獣道なんかを嬉々として歩きますからねぇ。
「飛べば気になりませんよ、行きましょう」
「ああ」
「ええ」
私の台詞に魔理沙さんと咲夜さんが返事をして、飛びあがっていく。
ただ、その中で霊夢さんが何も言わないで付いてくるだけ。なんというか、不気味ですね。
それに、なんだか私を見てくる目が厳しくなった感じがします。
そういえば、清明さんが言ってましたね。霊夢さんは若くして才能溢れる方だけど、その分、才能に頼りきりで、万事それだけで戦っているとか。
後は、暴れる妖怪のレベルも低いから経験が積ませづらいとかも。
清明さんが相手の模擬選は嫌がるとか何とか。
ここにきて、それがまずいと危機感でも覚えたのでしょうか?
レミリアさんの主であるあの吸血鬼相手に勝ったらしいですし、ある程度の自信を持ったけど、先ほどの私と紫さん……正確に言えば、紫さんの力を見て、その自信が揺らいだのですかね。
「それにしても、お前って強いんだな。あの真理の娘っていうのも納得だぜ」
霊夢さんについて色々と考えていたら、魔理沙さんがこちらを向きながら聞いてきました。
「まぁ、弱くないとは思ってますがね。ただ、紫さんの力があれだけとは思わないほうがいいですよ?」
「どういうこった?」
「寝起きでしたし、何より冬眠から無理やり起こした状態ですからね。本来の実力の6割が出ていればいいんではないですか?」
私自身もそれを見越して喧嘩を売りましたし。起きている時には流石に相手が悪いです。まぁ、起きていたら起きていたで、お父様に早々にお仕置きされていたでしょうけど。
私の言葉が信じられないのか、三人は目を見開いて驚いていました。
「更に言えば、貴女方が倒した藍さんも強いですよ?伊達に九尾の狐ではありませんよ」
日本の妖怪の中でも有名な方ですからね。お父様曰く、三大妖怪の一体とかなんとか。
私的には、お父様・玲央様・麻耶様の三人が三大妖怪ではないのか?と思うのですが。
まぁ、お父様に至っては、一部では有名だけど、人間相手では全くの無名だとか。
玲央様や麻耶様は神様として崇められているらしいですからねぇ。神力もってませんが。
「マジか。じゃあ、なんで勝てたんだ?」
「この時期は忙しいですからねぇ。疲れてたんではないですか?」
まぁ、戦った後はすっきりとした顔をしてましたから、ストレスも相当だったんでしょう。
ちなみに簀巻きにされている紫さんの顔には落書きがされてますが、藍さんも嬉々として書いてましたからねぇ。
私の額に肉という字に、藍さんの髭、ルーミアさんの瞼の上に目と中々愉快な顔になっていて笑いが起こります。
「お、見えてきたぜ」
先頭を行く魔理沙さんの声に改めて前方を見てみれば、階段の終わりが見えてきて、門が見えてきました。
ただし、門の前に一人の少女が立ちはだかるように……立ってなく、なんか膝を抱えてどんよりと座ってました。
「どうしたんですか、妖夢さん?」
知らない仲ではないので、紫さんを置いて妖霧さんに近づいていきます。
「誰も来ない誰も来ない誰も来ない誰も来ない誰も来ない誰も来ない誰も来ない誰も来ない」
ボソボソと喋って聞きとり辛いですが、なにやら病んでいますね。
というよりも、今回の首謀者の関係者だからかなり張り詰めているのかなって考えていたんだですが、ちょっと拍子抜けですね。
「なんだか門番が、使い物になってないので抜けてしまいましょう」
「いいのかよ」
「しょうがないじゃないですか。それに、余計な時間はかけたくありませんし」
なにより、門の奥からとてつもない死の気配が漂ってきていて、先ほどから毛が逆立っているんですよ。
白玉楼にはあまり来たことはなかったので、これが何かというのはわかりませんね。こんなことならな、ちょくちょくとくればよかったですね。
そうして、妖夢さんを無視して中に入ろうとしたのですが、
「ま、待ちなさい!」
再起動した妖夢さんが素早く私たちの前に回り込んで、行く手を阻んできました。
「そこで座っていてもらっていいですよ?」
「相変わらず、綺麗な顔で毒を吐きますね!?」
「照れますよ」
「本当に真理さんとそっくりですね!?」
そんな照れることを言わないでください。それに、私はお父様の半分もありませんよ。
「まぁ、構いませんが……妖夢さんはこの異変が誰が起こしているか分かってるんでしょう?」
「幽々子様です。なんでも、やりたいことがあるとか。それに、紫さんが寝ている今がチャンスだとか」
「これがですか?」
紐を引っ張り紫さんを見せる。
「ぶほっ」
紫さんの顔を見た妖夢さんが噴き出してしまいました。しまった、シリアスなこの場面でこの顔はいけませんでしたね。
「ぷふふ……え、ええ。そうです。私は幽々子様が望むならば、我が剣を使います」
「おや?庭師はいつから、忠臣になったんですか?」
「関係ありません。楼観剣と白楼剣を譲り受けた私は何があろうと、私が望むことを成し遂げます」
厄介ですね。主が何かやっているというのに、それを疑問に思ってませんね。まぁ、妖夢さんは素直な方ですからねぇ。
「それじゃ、やりますが……スペルカードルールは知っていますね?」
「ええ。敵を切ればいいんですよね」
全然違います。何をどう思ったら、そういう結論になるんですか。呆れてため息を吐いても、妖夢さんの態度は変わりませんでした。戦闘モードに完全に入ってしまいましたね。この戦闘狂が。
「それじゃ、後はお願いします」
「おいおい、お前さんが喧嘩を売ったんだろ」
「ええ、そうなのですが、申し訳ないんですが、体力がまだ回復してないんですよ」
冗談抜きで紫さんとの戦いのダメージが抜けきってないので、今戦っても負けるのは必然ですね。
妖夢さんも才能の塊のような方なので、油断したら負けるという方ですし。
私の周りには才能にあふれる人しかいないんですか。泣けてきます。
「まぁ、いいわ。私がやるわ」
今まで黙っていた霊夢さんがずいっと前に出ます。先ほどまで考えていたようですが、何か考えがあるんでしょうか?
私たちは邪魔にならないように後ろに下がります。時間は……まだ、大丈夫っぽいですね。少なくとも、幽々子さんと戦うまでもちそうな感じです。
「白玉楼の主、幽々子様の剣術指南役兼庭師の魂魄妖夢、参ります」
「博麗神社の巫女、博麗靈夢、受けて立つわ」
宣言と同時に空へと上がっていく二人。そんな二人とは対照的に、私たちは階段に腰掛けます。お茶が欲しいですね。
「今後、こういう感じで進むなら、ティーセットでも持ってこようかな」
「貴方は何を言っているんですか」
魔理沙さんは私と同じ意見だったようですね。ただ、咲夜さんは呆れかえっていましたが。
「はぁぁぁぁっ!」
妖夢さんの気合の入った声が聞こえてきたので、魔理沙さん達から視線を空中に戻してみたら、妖夢さんが霊夢さんの針や札を片っ端から切り落としていました。
「楼観剣に斬れぬものは、あんまり無い!」
「言い切りなさいよ!閉まらないわね」
「し、仕方ないじゃないですか!私はまだまだ未熟だからおじいちゃんみたく言い切れないんです!」
いえいえ、あなたのお爺さんも言いきれてませんでしたからね。
それにしても、霊夢さんにとっては、妖夢さんは相性が悪そうですね。ぐいぐいと懐に潜り込んでくる妖夢さんに霊夢さんは嫌な顔をしながら、引きはがそうとしてますし。
この中だと、魔理沙さんも同じようなタイプですし、今後がちょっと心配ですが、そこは清明さんしだいですね。
清明さんも徹底的な後衛型ですし、対策は教えているでしょうし。てか、玲央様相手にそのスタイルを崩さずに互角とかどんだけですか。
咲夜さんはナイフを使いますし、ある程度はできると思いますが。
「はぁっ!」
「がっ」
追いつめられていたと思ったのですが、霊夢さんが妖夢さん相手に、サマーソルトみたいな感じでカウンター気味に顎に蹴りを放ちました。
「これで落ちなさい!霊符「夢想封印」」
「まだです!人符「現世斬」」
霊夢さんが放った七色の霊弾が妖夢さんに迫っていきましたが、二刀をもって、霊夢さんの弾幕を全て切り捨ててしまいました。
流石のこれは、私も含めて全員唖然としてしまいました。なんでも、ありですか。まぁ、玲央様も同じような感じですが。
「やってくれるわね!」
「そちらこそ!」
なんでしょう、このスポ魂は。汗臭そうです。
「あまいわよ!弾幕はこういったこともあるのよ!」
「ぐっ」
そう、これは弾幕勝負。正面からの一対一なのは間違いはありませんが、格闘戦ではありません。
妖夢さんの後ろから陰陽玉が遅い、それに直前に気がついた妖夢さんがギリギリで避けるも、そのチャンスを逃さんと霊夢さんの怒涛の攻撃が妖夢さんを襲います。
針、札、陰陽玉、さまざまな攻撃手段で妖夢さんを削っていきます。
「本当におしまい!霊符「夢想封印 -集-」」
「きゃぁぁぁっ」
今までの夢想封印とは違い、一か所に集まった力が妖夢さんを見事に撃墜しました。
「ふん」
そして、降りてきた霊夢さんは何やらドヤ顔でこちらを見てから、顔をそむけました。はて、なんでしょうか、このムカつく気持ちは。喧嘩なら、そう言って欲しいものです。10倍にして買いますよ?
「ほら、とっとと行くわよ」
「命令しないでください」
「あんたもやってるでしょ!」
だったら、貴女もやっているでしょうが。
「なんか、あいつらの相性悪くないか?」
「そうね。それに、なんだか霊夢が一方的にって感じもしなくはないけど、そんな霊夢を見て、椛もなんだか対抗しているって感じね」
後ろでこそこそと喋っている二人、置いていきますよ?
妖夢さんを倒し、遂に目的地へとたどり着いた。
椛が横文字使ったり、いろんなことを知っているのは真理のせい。




