彼の気配
聖剣とか魔剣って厨二っぽいからか名前も厨二になっちゃうよね。
こう……考えてて恥ずかしくなった。
「ぅううぁああ……!!違う!……そんなこと……出鱈目だ……」
迷いがある。
柚木君が突然いなくなった理由に僕が関係しているような気がした。してしまった。
僕にとっての唯一の心の支えが壊れかけている。
助けて。
助けてよ柚木君。
けれども彼は来ない。
皆が僕を呼ぶ。あいつが消えた事で眠りから覚めたのだろう。
いつの間にか僕の左手に輝きを放つ剣が握られている。
そんなこと、僕にはどうでもいい。
そう思ったとき皆の声が突然なくなり頭に女性の声が響く。
「初めまして。拙者の名はホープという。お主が拙者の新たな主殿か?」
女の子……なのになんでだろう?彼の気配がする。
彼が……柚木君が。
「む。状況がわからないのだな?ならば教えてやろう」
勝手に説明を始めるホープ。
ここは結界のなかだとか、誰に作られたとか、使命だとか色々。実体化、霊体化を自由に変化させ、普段は半霊体になって傍にいるとか、話したい時は念じてくれれば届くだとか言っている。
煩い。黙ってて欲しい。
こんなどうでもいいことよりも彼とこの子の関係を考えることが忙しい。
「……と、言うわけだ。何か質問はあるか?」
「柚木君……知ってる?」
直接聞いてみた。わかるわけがない。そう理解していながら……
「柚木……ああ、あれのことか」
「!?……知ってるの!?」
だけど返ってきた答えは予想外のものだった。
「確か……中西柚木……とかいったな」
「今は……今どこにいるの!?」
「すまない……わからぬ」
「そう……」
やっぱりわからなかった。
でも、柚木君がこの世界にいることは確かだ。
「ああそうだ。一ついっておくことがある」
「何?」
「その柚木とか言う男だがな……名を落としていったぞ」
「落とした?」
意味がわからない。
名前なんてものをどうしたら落とすんだろう?
「む。まぁ、なんといえばいいのやら……早い話が拙者と接触し、危害を加えたのが原因で起こった罠の誤作動というか……とにかく、撃退のために行った呪いの一種だ」
罠。
聖剣だからそういった防衛機能があるんだろう。
でも柚木君が彼女に何をしたんだろう。
「……たっ、たとえ主殿にもっ、それだけは言えぬっ!」
不思議なことにとっても不愉快な気分になった。何でだろ?
何度聞いても頑なに答えてくれないので聞き出すことを一旦諦めた。
いつか絶対聞き出してやろう。
数少ない柚木君の貴重な情報なんだ。
「……あれ?」
突然気が楽になった。
いつの間にか結界から出たようだ。ホープは僕の肩に乗っかって霊体化している。
「ユウ様!?お怪我は!?」
「大丈夫ですか、勇者様!?」
マリアさんとグラニアちゃんが心配してくれる。
「うん、もう平気。心配ないよ」
ホープを通して微かにだけど柚木君が感じられる。
嬉しい。
「へえ……それが聖剣か」
「その聖剣を持つことでユウ様の力が増えるのですね」
「……たぶん。実感無いからわかんない」
僕がこの剣を持ってから力が強くなったような感覚もない。
多分だけどなにか強力なスキルを手に入れたとかかな?
「ま、なんにせよ武器が手に入ったんだ。これでナイトオークに勝てる」
「そうですね。この大陸ではあのナイトオークに勝てるハンターは数えるほどしかいませんからまだ討伐されていないでしょう。フォースデッド唯一のAランク、グレイ・アルフォードが討伐に向かってくれていれば……」
「……人任せにしてられないよ。あいつを倒そう!」
「ああ、そうだな」
そう決意した矢先、ホープが突然話しかけてきた。
「(……主殿。そのナイトオークというのはもしや王都へと続く道の途中にいたのではないか?)」
「(そうだけど……なんでわかるの?)
「(そのナイトオークだが……既に殺されておるぞ)」
「え!?」
驚いてつい大声を上げてしまった。
「あん?どうした」
「ユウ様……?」
「な、なんでもない……」
突然大声を上げる人って傍から見たらとても変な人に見えるんだろうなぁ……恥ずかしい……。
「(なんでホープがそんなことわかるの?)」
「(何故、といわれても……なぁ?)」
「(いや、僕に聞かれても……)」
どうしてわかるのかは結局わからないようだ。
信頼していないわけではないが、簡単に信用するわけにもいかないのでナイトオークを探すことはそのまま続けることにした。
死体は残っていないなんていわれても信憑性が低いので皆にはそのことを言ってはいない。
「……いねぇな」
「いませんね」
僕達があいつに襲われたところの辺りを探し回ってみたけどナイトオークは見つからない。
まさか本当に何者かによって死体すら残さずに消えてしまったのか。
そう思っていた時だ。
「おい見ろよ……血だ……」
「戦闘の痕跡も見て取れますね」
なんと、ナイトオークが何者かと戦闘したような痕跡が見つかった。
そこには地面が抉れ、ナイトオークのものと思われる血痕が多量にあった。
「死体は……持ち去ったか……それともゴブリンが巣に持ち帰ったかですね」
「ま、なんにせよ脅威が一つ減ったってところだろ。腕試しできないのは残念だけどな」
「あ、安心しました……」
「あはは、グラニアちゃんはあいつに追いつめられちゃってたもんね」
しかし、妙だ。
あれだけの巨体を態々全身を運ぼう何てこと、しないはずだ。そんなことをしても引き摺った跡が出来る。
その場で魔物に食べられたとしても血ももっと吹き出ている筈だ。
一体誰が……
「(十中八九、あやつであろうな)」
「(え?なに?)」
「(いや、なんでもない)」
ホープはそういって霊体化を解き、剣の中に戻っていった。
ホープは誰がこれをしたのかを知っているのだろうか。
「んじゃ、王都に戻ろう。王様に報告しないとな」
「そうですね。急がないと今夜は野宿することになりそうですし」
グラニアちゃんが嫌そうな顔をする。
なんでだろ?
「馬車……壊れちゃってるよ。歩いて帰るんだよね?」
あっ
─ ─ ─
とある鍛冶屋の一日
「シノブ、おはよう!」
「おはよう」
「そういえばグレイが言ってたんだけど」
「どうした?」
「ナイトオークっていう魔物が現れたらしいわよ」
「へ、へー。そーなんだー」
「でも、異変は起こってないから危険は無いらしいんだけど……」
「まあ、用心するくらいが丁度いいんじゃないかな?」
「そうね」
「ああ。ほら、仕事仕事!」
「そうね。それじゃあいつものよろしくね!」
「ほいほい。『水よ』!」
これがいつもの風景。
だが、グレイにこれを見られていたようだ。
「おいテメエ……なんでリリーと一緒に住んでやがる。殺すぞ、出てけ」
「あー、うん。無理、かなぁ……?あはは」
「何笑ってやがる!」
「グレイ、シノブを虐めちゃ駄目よ」
「リリー、何でこいつを庇うんだ。知らない男においそれと関るんじゃないと何度も……」
「もー、グレイには関係ないでしょ!お母さんもシノブのことは認めてくれたんだから!」
「なん……だと……?馬鹿な、小母さんが?しかも認めた?なにを?」
グレイはバッドステータス:混乱 になった。
「さて、お仕事お仕事っと」
「え?グレイ置いていってもいいの?」
「いいの!ほら、行きましょう」
落ち込むグレイを見て頑張れ、と思う忍だった。
名前を奪われると奪った相手に対して極端に弱くなるという呪いです。
柚木君、現・村雨くんはホープで斬られると致命傷になります。




