友人の友人……転生?
ようやくお留守番していたアレの出番です。
──キャー勇者様よー!
──うちの村の男衆なんて目じゃないくらいかっこいいわー!
──素敵!
「ねぇ、これ、どうにかならないのかな?」
「諦めてください勇者様。さ、ギルドに向かいましょう」
「ううん……」
思わず頭を抱える僕。
フィーツ村についた僕に待っていたのは先ほどのような熱烈な歓迎だった。
主に女の人の。
歩くのを躊躇ってしまうくらいに人が集まって来ていたので暫く前に進めなかった。
多かったといっても王都よりも少ないが熱気だけは負けてなかった。
そしてマリアさんグラニアちゃんと話していたらお爺さんがやってきた。
「ようこそフィーツ村に。私はシモン・バーンズ、数年前に村長を引退した爺じゃよ」
お爺さんが丁寧に自己紹介とお決まりの台詞『ようこそ○○へ』といった。
柚木君からよく聞いてたけれど本当に言ってくれるとは思わなかったな。
「初めまして。優です。勇者をしてます」
「うむ、よい名じゃの。立ち話もなんじゃ、とりあえずギルドでゆっくりと話そうではないか」
村長さんの案内で僕たちはフィーツ村にあったギルドの応接間に通された。
あ、この椅子結構いい座り心地だ。
僕が堪能しているとマリアさんと村長さんが勝手に話を進めだした。
「それで……勇者様はやはり?」
「はい。この地に封印されたとされている聖剣を抜きに来たのです」
「成程。それならここから更に北に行ったところにある森。そこにあるはずじゃ」
「北……ですか」
「うむ。魔物もあまり強くはないから管理しやすいしの」
「そうですか。ですがこの近くでナイトオークを見かけましたが……」
「なんと!そのようなことが……」
村長さんは心底驚いたようだ。
それはそうだろう。あの人型の豚に襲われたら一巻の終わりっぽいもの。
「実はここ最近、おかしな出来事が起こっているのです」
「おかしなこと?」
聖剣のある森からオーク、コボルト、ゴブリンがいなくなったそうだ。
こんな異常事態は初めてなので警戒をしていて、このことを知っている一部の人は何か不吉なことの前触れかと考えているようだ。
「勇者殿。聖剣を抜いてくるついででよいから、異変の調査をしてくれんかの?」
べつに何も問題は無いと思う。
でも、どうなんだろ?
「どうしようかな?」
「知るか。お前が決めろ」
「そうですね。方針などは全てユウ様に決めて頂かなければ」
「?勇者様の好きなようにすればいいんじゃないですか?」
好きなようにかぁ。
だったらやっぱり……
「うん。引き受けよう」
「おお!有難い、それでは頼みましたぞ」
困ってそうなら取り合えず助けとけって柚木君言ってたしね。
宿屋に着き、ゆっくりしようと思っているとタニアさんとマリアさんがなにか考え込んでいた。
「どうしたの?」
「あん?……呑気なやつだな、おかしいとは思わねえのか?」
「え?」
「おいマリア、お前が教えてやれ」
「はぁ……それではまず1つ目。何故一部の人間しか知らないのか、ということ」
「口の軽そうなやつが一人いたけどな、一応緘口令出してるみたいだ」
「そして二つ目、この村にもギルドがあるにも関らず私たちに依頼をしたことです」
あ、そうか。
そういえば何でだろ?
調査くらいだったら誰でも出来そうなんだけどな。
「何か隠してやがるな……」
「大方、調査に出たハンターが帰ってこないとかそういうことだと思いますよ」
「そんな……!」
「ま、いいさ。どの道あの森には入らないといけないんだからな」
「そうですね。ですがなにが起こるかわかりませんのでいつも以上に警戒をした方がよろしいかと」
「うぅ……僕、間違ってないよね?」
「あーもう、うっせえな!男がウジウジすんな!気持ち悪い」
……僕、体は女の子だもん。
「ま、それは兎も角早く寝ましょう。ナイトオークの報告は私がしておきましたので」
「おう。んじゃな」
「あ、おやすみ。グラニアちゃんは?」
「グラニアならもう寝てますよ」
「ガキだからな」
僕からするとタニアさんもマリアさんも子供なんだけどな。
今は二人の言うとおりに少し早いと思うが寝ることにする。
翌日、朝食をとるとすぐさま村を出た。
村長さんも聖剣の詳しい場所を知らないから自分達で探さないといけない。
魔物は何故か現われなくなっているそうなのでさくさく森の中を進んでいく。
「ほんとにいないね……」
「ああ、気味が悪いったらありゃしない」
「まあまあ、余計な手間が省けたと思いましょう」
「魔物がいないのがこんなに違和感感じるなんて思いもしませんでした……」
不安になります。と、グラニアちゃんが言う。
でも、僕は元々魔物なんていないところから来たからべつに違和感なんてないんだけどな。
なかなか聖剣が見つからないので水辺に出て一時休憩にした。
「みつかんないね……」
「そんなホイホイ見つかって堪るか」
「しかし、見つけなければなりません」
「あぅ……疲れましたぁ……」
「はぁ……」
動き回って疲れた僕はそのままグラニアちゃんと一緒に寝転がった。
すると地に伏せた視点からしかわかり難いような穴が開いていたのが見えた。
「おいおい。もうへばったのかよ。グラニアは仕方ないとしてもお前はなにしてんだ」
「ね、ねえ!」
「あん?」
「あれってなんだろ?」
「あれ?」
「ほら、あれ」
「……穴?」
「穴……ですか。もしかしたらどこかに繋がっているかもしれませんね」
もしかしたら地下に繋がっていて、なにか隠されているかもしれない。
「行ってみようよ」
「……ああ」
「そうですね。ですが、先ずはグラニアの回復を待ちましょう」
「あ……」
「ご、ごめん……なさ、い。わた、し、お外、に、出ない、ことが、多い、ので……ゴホッ」
「お前そんなんでよく魔王討伐に選ばれたな。ったく」
「ごめんなさい……普段から強化魔法で肉体強化してて、使わないで頑張ろうって思ったんですけど」
「よく魔力が持つな……」
「その代わり、筋力が全然ないんですよ」
「……ほーう。それは俺に対する挑戦か?あん?」
「ひっ、ごめんなさい!」
うーん。
タニアさんって今の僕とそんなに年が離れてない筈なんだけどな。
あ、でも精神的にはもう40代前半になりかけだから……あまり考えないで置こう。
体は18のままだから柚木君に嫌われるなんてことないよね!
タニアさんと違って筋肉質ってワケでもないし、胸もそんなにないし。
……うう、僕負けてる……?
グラニアちゃんの体力が回復したので早速穴に飛び込んでみる。
なにが起こるかわからないから慎重に。
「これは……」
「すごい……」
「なんだこれ……」
「わぁ、綺麗だなー」
降りて初めて見えた景色は澄んだ湖とその中心に何かの祠のようなものだ。
僕達からの位置からは祠はよく見えないが何かがあそこにあるということは直感でわかった。
僕は祠に近づこうと進もうとしたがマリアさんに止められた。
「お待ちください。誰かいます」
僕には誰もいないように見えるけど……
不思議に思って注意深くみると男の人が寝ていた。
「なんだありゃ……」
「男性がねていますね」
「見りゃわかんだよ!」
「どうして寝ているんでしょうか……」
「知らねえよ」
ここは一旦様子を見ようとすると新たな影が男の人に近づいていった。
「あれは……!」
「ゴブリン……ですね。やはり完全に居なくなっている訳ではなさそうですね」
「あれがゴブリン……」
ゴブリンは大きさが子供くらいで、見た目はたぶん日本に住む人なら誰もが嫌悪感を抱くような顔だ。
ハ○クみたいに緑色でイボイボのある顔だから更に気持ち悪い。
「ゴブリンは確か一番弱いんだったよね?」
「はい。ですが舐めてかかると痛い目を見ますよ。実際駆け出しハンターが何人も殺されたことがあります」
「ま、俺たちくらいになると全力じゃなくても楽勝だけどな」
「あ!皆さん、ゴブリンが!」
ラザニアちゃんが叫んで気付いた。
ゴブリンが寝ている男の人に近づいていっている。
「あちゃ~、あんなとこで寝るから……」
「どうなさいますか?」
「勇者様!急がないと……!」
「助けるに決まってる!」
ゴブリンは木の棒を大きく振りかぶり頭を潰そうとした。
だけど男の人がそれを避けて手刀でゴブリンの頸を刎ねた。
「……は?」
「…………」
「……あれ?」
タニアさんは驚いた表情でポカーンとしている。
グラニアちゃんとマリアさんは絶句。
僕はというとこの男の人を見て驚いた。
だって……
「あっはっは。引っかかった~。ば~かば~か、ぶぁ~くぁ。……ヒィ、ヒィ、お腹痛い……」
「なん……で……?」
「ん?お~、嵩原じゃん。相変わらず綺麗な顔だね~。もう男でも良いや。俺と付き合ってよ」
その男の人は柚木君の友達の畑田君だったんだから。
自我が芽生えてから間もない畑田。のコピー。
なにを考えているかはうみだした柚木にもわからない。
畑田君:軽い男だがチャラくない。




