勇者の歓迎会
主役がいなくても盛り上がるパーティ
国民はただ騒ぎたいだけ
城に帰った僕にクルエルさんが走ってきて今晩、急遽一般市民に勇者の存在を更に広めるために勇者披露宴を執り行うことになったと伝えられた。
急なことだったので驚いてしまったけど侍女さんが冷静に僕用の服を持ってきていたので否応無く参加することになった。
僕の為に開く宴会なので参加は決定されてたみたいだけど心の準備が出来ていない。
いきなり主役だなんていわれても困るだけだよ。それに僕の映像を大陸中に中継で送るらしい。
これも僕よりも前の世代の勇者の人たちがテレビやラジオの代わりとして考えた物だ。
うぅ……恥ずかしいな。でも柚木君……見てくれるかな?
「異世界より出でし勇あるものよ。よくぞ我等の世界を救うために参った。我々はそなたを歓迎しよう。あ~、異世界から来たばかりで分らぬ事もあるだろうがそのようなことは気にせず好きに楽しむがよい!それでは皆の物、杯を持てぃ!……乾杯!!」
王様の宣言に皆一斉に杯を掲げて一口飲む。
僕はお酒を飲むことはあまりなかったのですぐにほろ酔い状態になってしまうのだけど今日は何故か酔わなかった。もしかしたらお酒の度が低いのかも。
広場の隅でちまちまと飲んでいたら貴族の人が話しかけてきた。
「初めまして勇者殿。主役の方がこのような隅にいるのは不自然ではありませんかな?」
「は、はぁ……。あまり目立つのは苦手なんですよ」
「そうでしたか。しかし、勇者となったからには大陸中の人間全てに注目される存在になるということをお忘れなきよう」
「あ……」
そういえばそうだった。
町を歩いていた時でさえほぼ全ての人が僕を見ていた。
「おっと失礼。私はキルス・ジ・ロールと申します。以後お見知りおきを」
「僕は嵩原優。名前が優で家名が嵩原だよ」
「これはこれは、珍しいですな。姓名が逆になっているのはエルフや妖精ぐらいしかいないのですが」
「そうなんですか?」
「あとは勇者様から名を賜った家や、勇者様の子孫が同じように姓名が逆になっているのです」
これから僕は自分の名を名乗る度に恥ずかしい思いをしなければいけないのだろうか。
今度からは最初からユウ・タカハラで名乗ろう。
「それでは勇者様、私は綺麗な花を愛でに参ります。今宵の宴を今のうちにお楽しみください。数日もすればこのような心休まることなどなくなるかもしれないのですからね。」
「はい。……愛でに?」
「おや?聞きなれませぬかな?ふむ、歴代の勇者様風に言うならばお持ち帰り、ですかな」
紳士だとおもったらナンパな人だった。
この人僕のためのパーティで女漁りにきたのか。最悪だ。
僕が黙るとすぐに近くにいた女性の方に声をかけにいった。
「初めまして、僕はカール。君のことを教えてくれないか?レディ」
「え、ええと、初めまして?私はリリー、鍛冶屋を営んでます「リリー、何してるんだ。早く来い」……ごめんなさい、呼ばれているので……失礼します」
速攻で失敗していた。
それでもめげずに他の人に声をかける姿を見て凄いと感心しそうになったけどよく考えたらただの軽薄な軟派だ。
クルエルさんもいろんな女性に声をかけられていて、知っている人が一人もいなくなってしまった。
暇になったので外にでて気分転換でもしようと歩いていると女の子が一人でいるのを見つけた。
僕は気になってしまったのでとりあえず声をかけてみる。
「ねえ君。何してるの?」
「ふぁいっ!?」
凄く驚かれた。いきなり過ぎたのだろうか。
「あ、勇者様。は、初めまして」
「初めまして。ね、何してるの?」
「お父様に部屋から出るなと言われてまして……こっそり抜け出したのです」
「へぇ、酷いお父さんだね」
「とんでもございません!父は素晴しい方です!」
「だったらどうして部屋から出るななんていうんだい?」
「それは……」
「?」
「私が王女だからです」
僕の周りの空気が凍った気がした。
箱入り娘ってやつだろう。
僕が王様に逢ったときもそばには女王様しかいなかった。
「あ、あのときはですね。あの時は私、部屋で中継で見てたんです」
流石に過保護だと思う。
確かに暗殺だとか誘拐だとか危険は一杯だし、護りたい気持ちも解るけど世間知らずに育ててしまっては駄目だ。
「あの……勇者様」
「なにかな?」
「私、勇者様のお話が聞きたいです」
「僕の?」
「はい。歴代の勇者様は一人を除いて素晴しい方だったと聞きます。それで勇者様はどんな方か知りたいのです」
「ユウで良いよ王女様」
「それでは私のことはメルルとお呼びください」
「解りましたメルル王女」
「今この場には2人だけなのですよ?呼び捨てにしてください!」
「ですが」
「駄目です!」
「解りましたよ、メルル。それで、どんな話が聞きたいんですか?」
「何でも構いません」
困ったな。歴史の話なんて女の子にはつまらないだろうし……
そうだ。彼の話をしよう。これだったら僕は何時間でも話し続けられるぞ。
僕が知る限りの彼のことを懇切丁寧に教えてあげたら苦笑いされてしまった。
「柚木さんのことがお好きなんですね。大丈夫です。フォースデッドでは同性結婚が認められております」
「け、結婚なんて……。それに柚木が僕のことどう思ってるかなんて解らないし……」
「あ……そういえばその柚木さんにはどうやって逢うのですか?」
「この世界に来てるらしいんだ。僕は彼を探しにこの世界に来たつもりだったから」
「?ですが異世界から勇者様以外の方が来たなんてことはダイア=マグナでは過去一度も……」
「え?」
「え?」
過去一度もなかった?
だったらどうして王様は柚木君を探してくれるなんていったんだ。
「それはおそらくですがユウさんのスキルで会わなければならない人を直感で見つけたんだろうとでも思ったのでは?」
「そんな……」
思わぬところで彼と逢えない可能性が高くなってきてしまった。
でも、前例がないだけでありえないわけではない筈だ。
諦める訳にはいかない。
「あ、もうこんな時間……ユウさん。そろそろお戻りになられたほうがいいですよ」
「うん。……そうするよ」
「元気を出してください。ユウさんはこれから大変なことが待ち受けているのですから」
そういってメルルは足早、だけどこっそりと城内に戻っていった。
そうだね。あきらめたらそこで終わりだって彼も言ってたしね。
姓名が逆の中西柚木なんてすぐに見つかると思う。
そう信じよう。今の僕にはそれしかない。
宴も終わり、夜が明ける……
同性愛は認められております。
ちなみに自然の国では認められてません。




