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一人の少女の不思議なお話

作者: 仁斗世 繚


 コンセプトは『絵本っぽくて、不思議なお話』です。






 とある昼下がりのことです。

 少女は街でとても不思議な男の人を見かけました。


 その男の人は紫色の傘を差して、首には紫色のマフラーをぐるぐると巻き、手には紫色の毛糸の手袋をつけています。それなのにノースリーブの服を着て、膝上丈の半ズボンを履いていました。色はやっぱり紫色です。

 さらによく見ると、その人は裸足でした。彼は、裸足でアスファルトの道路を歩いていたのです。


 そして最も不思議なことに、そんな奇妙な男性を道行く人々は誰ひとりとして気に留めないのでした。

 みな彼をちらりとも見ずに過ぎ去って行きます。まるで少女以外、彼が見えていないかのように。



「ねぇ、おじさん」と少女は声をかけました。

 すると男性は、少し驚いたように振り向いて「なんだい?お嬢ちゃん」。



 振り向いた顔を見て、少女は はっと息を呑みました。

 男性の目が、今まで少女が見てきたどんな紫よりも澄んだ 綺麗な紫色だったからです。



 少女は少し考えて、尋ねました。



「おじさんは、何処に行くの?」


「おじさんかい?おじさんは、これから故郷に帰るところなんだ」


「この近くなの?」


「いや、近いと言えば近いが、遠いと言えば遠い所だよ」




 少女にはその言葉がよくわかりませんでしたが、「ふぅん、そうなんだ」とだけ返しました。



「どんなところ?」


と聞くと、男性は、


「こんなところさ」



 男性は楽しそうにくるりと回り、傘を持っていないほうの腕を広げました。


 男性が腕を広げたその瞬間、少女は男性の後ろに広がる黄金色の草原を見ました。空はよく晴れた日の夕焼けのような薄紅色です。そして、鹿に似た見たこともない美しい生き物が、草原を駆け回っているのです。


 この世のものとは思えないあまりにも美しい光景に、少女は瞬きするのも忘れて見入りました。



 そうして何分が立ったでしょう。

 未だ食い入るようにその光景に見入っている少女を、男性はしばらくの間ニコニコと見ていましたが、ふと思い出したように傘を閉じました。



 そして、



「それじゃあ、ばいばい、お嬢ちゃん」




 男性は再びその場でくるりと回り───、次の瞬間には、霧のように消えてしまいました。

 黄金色の草原も、薄紅の空も、あの美しい生き物も───もう何処にも見当たりません。



 けれど、なぜでしょう。

 少女はちっとも驚かなかったし、不思議だとも思いませんでした。

 なんだかそれが、当たり前のことのような気がしたのです。





 ふと気づくと、もう夕暮れでした。空は薄紅に燃えていて、さっきまで見ていた空に少しだけ似ていました。


 少女は太陽がすっかり沈んでしまうまでその空を眺めました。

 やがて太陽が西の山にすっかり沈み、空が群青に染まり出す頃、少女は夢から覚めたように目をしばたたかせました。

 そしてゆっくりと家までの道のりを歩き出します。



 少女はもう先ほどの出来事を覚えていません。

 けれど ふとした時に───例えば紫色の傘を差して歩く人や、薄紅色の夕焼けを見た時───少女は何か懐かしいような気分になるのです。


 ただ、どんなに考えても、それがなぜだかは分からないのでした。




end



 如何でしたでしょうか。


 思いつくままに綴った拙文ですので、とくに深い意味はありません。

 解釈は読んで下さったあなたにお任せいたします。




 お付き合い頂き、ありがとうございました。




2011.3.23 碧

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