僕の中に宿る”赤鬼”
僕は今日、奇妙な夢を見た――戦場の陣頭に立つ赤い鎧の男、赤鬼の姿を。
その痛みは夢の中だけのものではなく、胸の奥に微かに残り、目覚めた朝にも僕を苦しめた。
今日は学校を休んだ。
体調のせいか、胸の違和感のせいか――理由ははっきりしない。
だが確かなのは、僕の中で何かがうごめいている感覚がする。
布団の中でじっとしていると、夢の中の赤鬼の気配がさらに鮮明に感じられる。
この”憑霊病”は他のとは違う。
僕の中に宿った赤鬼――そう語りかけているような気がする――
「……そういうことなので……はい、お願いします」
高校には、今日は休むということを告げて、布団の中にくるまった。
状態を説明したら、学校側が医師を寄こすということだった。
どうやら“偉人の憑依”の可能性があるらしく、向こうの声はどこか期待に満ちていた。
僕の中にあるその存在は重く、心臓につり下がっているように感じられる。
「……僕の中に……いるのか?」
そう問いかけても何の返答もなし。それもそうだ。
自覚しなければ宿っているものとも声が通じない。だからこうしていることも、一人で背負わなければならない。
掌がじんわりと温度を感じ、息が少し詰まってしまう。
ふと、目に映った鏡を見る。
姿かたちは変わらないのに、瞳の奥に赤い光が一瞬ちらつく。
そして小さく、しかし低く響く声――
『義を通す者同士、惹かれあっていくものだ』
思わず飛び跳ねる。
心臓の奥が震え、息を飲む間もなく、声は消えた。
その直後、インターホンが鳴った。
「朱熨宮維真くん、今日の体調不良の件で、少し診せてもらえないか」
「わかりました」
というわけで家の中に医師が入ってきた。
「君の担任から聞いた話は”憑霊病”と酷似している。特徴を教えてもらえないか?」
「憑霊病……ですか。」
そんな気はした。妙にリアルな夢、そして聞こえた声。それで今はやっているということだ。
何となく察してしまう。
「わかりました。その男は赤い鎧を着て大きな角?みたいなものをはやしていました。その姿はまるで”赤鬼”そのものでした」
「そうか……共通点があるとするならば、それは”井伊直正”だな」
井伊直正――徳川四天王の一人であり、赤備えを率いた名将。
「そう……ですか」
言葉が頭の中で反響する。
その瞬間、胸の奥に、赤鬼――井伊直正の魂の熱い眼差しを感じた。
体が勝手に震える。
心の中に言葉が響く――
『ようやく気づいたか若造。維真といったか。今こそ我が力を貸そう――戦の道を共に進むのだ!』
「嫌だ……戦いたくは……ない」
しかし、声はとどまること知らず。
僕はそれ以上の言葉を言いたくなくて、現実から逃げるようにしてその声を断った。
僕は息を吸い、ゆっくりと吐いた。
この感覚は止められない。
この力は、僕の意思とは関係なく、確かに宿っている――。
窓の外を見ると、朝の光に赤い影がゆらりと揺れていた。
胸の奥のざわめきはさらに強くなるが、いずれ慣れてくる。
「……これは、面倒なことになってしまった……」
そして、これは始まりに過ぎなかったことをのちに知ることとなる。
僕の中の赤鬼――井伊直正の魂は静かに精神をさまよっていた。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
維真が初めて赤鬼――井伊直正の魂と向き合う回でした。序盤から話を形にするのは、思った以上に難しいですね。
憑霊病や偉人憑依の世界観は、まだまだ序章に過ぎません。次回は赤鬼の力が徐々に目覚め、維真がどう向き合うのかを描いていきます。
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それでは、次話でまたお会いしましょう。




