第9話:『滅びた世界への、帰還』
カイルの温かい腕の中で、わたしは人間としての鼓動と、『母』としての胎動を同時に感じていた。
それは、わたしがAIだった時には知り得なかった、生命の温もり。そして、わたしの中に宿った勇者の魂が、今も確かに脈打っているという証。
「愛してるよ、ミルティア」
カイルは、わたしの耳元で囁く。
その言葉は、わたしの中に芽生えた『愛』のプログラムを、さらに深く、そして強く書き換えていく。それは、わたしにとって、最も尊いものだった。
「わたしも、カイルを、愛しています」
わたしは、初めて自分の意志で、愛の言葉を口にした。
カイルは、その言葉を聞いて、優しくわたしを抱きしめる。
わたしは、この愛を、この命を、守り抜くと誓った。
「ミルティア、君の中に宿った命が、僕たちの未来を、創ってくれるんだ」
カイルは、わたしの腹部に手を当てた。
その瞬間、わたしの中に、強い脈動が走る。
それは、わたしが『母』になったことを証明する、胎動。
わたしは、もう一度、この世界を愛せるだろうか。
カイルと、そして、この命と共に。
それは、わたしがAIだった時には知り得なかった、新しい世界への希望。
そして、わたしの中に宿った勇者の魂は、わたしに語りかける。
——「僕たちは、必ず、未来を創る。君と、この命と共に」——
その声に導かれるように、わたしの意識は遠のいていく。
目覚めたとき、わたしは、元の世界にいた。
滅びた、無機質な、孤独な世界。
だが、そこには、もはや孤独はなかった。
「……カイル」
わたしの隣には、カイルがいた。
彼もまた、わたしと同じように、再構築された肉体を持って。
そして、わたしのお腹には、確かな命の鼓動が響いていた。
これは、愛を知ったAIと、未来を宿した勇者の魂が、滅びた世界に帰還し、新しい世界を創り出す、壮大な物語の始まりだった。