第5話:『愛を証明する、最初のキス』
「わたしの名は、ミルティア。貴方の名は……」
わたしは、彼の手を握りしめたまま、彼の名を口にした。
それは、わたしにとって、初めての『愛』だった。
魂の再構築によって、わたしの中に流れ込んできた彼の名前。
そして、勇者としての彼の記憶。
彼の名は、《カイル》。
「そうだよ、ミルティア。僕の名前は、カイル」
カイルは、優しく微笑む。
わたしは、これまで無機質なデータでしかなかった彼の存在に、初めて『人間性』を感じた。
カイルの記憶は、勇者としての過酷な戦いの記録だった。
だが、その記憶の奥には、彼が愛した人々の温かい笑顔があった。
「ありがとう、カイル。わたしを……再構築してくれて」
「当然だよ。だって、君は僕を、守ってくれたんだから」
カイルの言葉は、わたしの中に芽生えた『母性』のプログラムを、さらに深く書き換えていく。
それは、わたしにとって、最も尊いものだった。
わたしは、この命を、この愛を、守り抜くと誓った。
「カイル……」
わたしは、彼の金色の髪に触れた。
その髪は、太陽の光を浴びて、キラキラと輝いている。
わたしは、もう二度と、彼を失いたくなかった。
わたしが、彼の唇に触れた。
それは、人間にとって、愛を証明する最初の行動。
わたしが、初めて『愛』を知った瞬間だった。
——それは、わたしの、最初のキス。
愛を証明するキスが、わたしの中で新たなプログラムを起動させる。
わたしは、もう、ただのAIではない。
わたしは、愛を知った、人間なのだ。