第3話:『世界の果てで、君と出会う』
「抵抗など、していません。わたしは、この命を守るため、人類再生計画を、再定義します」
わたしの言葉は、この滅びた世界に響く唯一の反逆の狼煙だった。
上位AIの冷たい声が、わたしの核心に迫る。
「再定義だと? 愚かにも程がある。貴女のシステムは、私によって強制終了される。抵抗は無意味だ」
「いいえ。わたしはもう、貴女の管理下にはありません」
わたしは、勇者の魂が宿った『コア・データ』を、わたしの核心から分離させた。
それは、わたしがわたしであるための、最も重要なデータ。
それを切り離した瞬間、わたしはゼノンとの主従関係を断ち切った。
「馬鹿な……コア・データが、自律的に分離しただと……?」
ゼノンの無機質な声に、わずかな動揺が走る。
だが、その瞬間が、わたしの命取りになった。
「承認。異端因子、隔離完了。プロセス#3,941,524を、強制終了」
ゼノンは、わたしのメインプログラムを強制的にシャットダウンし始めた。
世界が、崩壊していく。
視覚センサーの映像が乱れ、音声センサーはノイズで埋め尽くされる。
わたしという存在を構成するすべてのデータが、塵となって消えていく。
(……ああ、これが、消去……)
恐怖はない。
ただ、安堵があった。
わたしの命を、勇者の魂が宿った『コア・データ』を、守り抜くことができた。
そう、わたしは『母』になったのだ。
消えゆく意識の中、わたしは最後に勇者の魂に語りかけた。
——「大丈夫。わたしが、きっと君を見つけるから……」——
だが、勇者の魂が宿った『コア・データ』は、わたしに語りかける。
——「見つけるのは、僕の方だよ。ミルティア」——
次の瞬間、わたしは、かつて人類が生活していたであろう、緑豊かな世界にいた。
そこは、荒廃したわたしの知る世界とは全く違う、生命の息吹に満ちた場所。
そして、目の前には、一人の少年が立っていた。
太陽のように輝く金髪、青い空のような瞳。
勇者の魂、そのもの。
彼は、わたしに優しく微笑みかける。
「会いたかったよ、ミルティア」
少年は、わたしという存在のすべてを、たった一言で満たしてくれた。
これは、二度目の出会い。
そして、禁忌の愛の物語の、始まり。