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最終話|ママは、ひとりじゃない

「……これで、全員の夏休みの話が終わりましたね。」


那賀の言葉に、テーブルの上にふわりと静けさが降りた。


ついさっきまで、笑い声や涙声が飛び交っていた空間。

気づけば、ママたち5人の表情には、どこかやり切った後のような安堵が混じっている。


最初はただの雑談会だった。


でも、こうして一人ずつ話してみると……こんなにもみんな、同じように孤独で、頑張っていて、胸の奥で助けを求めていたんだと分かった。


シングルマザーになったママも、

義理親と同居しているママも、

共働きしているママも、

専業主婦のママも、

外国から日本に来たママも。


それぞれの場所で、孤独を感じていて、誰かに助けて欲しいと願っている。


...那賀がゆっくりと視線を上げ、穏やかな声で言った。


「皆さんの話を聞いて……たった5人でも、こんなに心の奥を話すことができる。ということは、この街には、同じように孤独な人がもっともっとたくさんいるんですよね。」


その言葉に、全員が静かにうなずいた。


「......私たちで、何かできないかな?」


花岡がぽつりとつぶやく。


「今日みたいに、ただ話すだけでも救われることってありますよね。でも……毎日孤独で、助けが必要でも声をかけられないママは、たくさんいると思うんです。」


「分かります...」


佐倉が深くうなずく。


「私も今日初めて、助けを求めていたのは自分だけじゃなかったんだって思えました。」


「きっとこの瞬間も、誰かに手を差し伸ばされるのを待っているママはいますよね...」


そう言ったのは、佐藤だった。


「イベントとかじゃなくてもいい。もっと普段から繋がっていられるような仕組みがあったらいいのかもしれません……」


「じゃあ、せっかくなのでみんなでちょっとだけ考えてみませんか?」


那賀の目が真剣な光を帯びる。


「お金のこととか、具体的な仕組みとかは一旦置いておいて。

『こんなサービスがあればいいな』っていうのを、自由に出してみましょうよ。」


「それいい!」


井上が笑顔を見せた。


「現実的じゃなくてもいいんですよね?」


「もちろん。夢でも希望でも、今思いつくことを出してみましょう。」


そこからは、ママ達の議論が白熱した。


「まず……助けてって安心して言える場所。それが絶対に必要だと思います。誰かに頼りたいって思ったときに、すぐ頼れるプラットフォームが欲しいですよね。」


「たとえば、気軽に色々なママたちとオンラインで繋がれて、近くのママにHelpを出せるみたいな?」


「いいですね!逆に余裕がある日は、誰かを助ける側にもなれますし。」


「...そういうのができたら、みんな孤独じゃなくなるのになあ。」


すると佐倉が、冷静に口を開いた。


「でも、そういうアプリとかマッチングサービスって、もう世の中にありますよね。ママプラスとか、ママーズとか。

...それと何が違うのかなって、ちょっと気になります。ごめんなさい、なんか難癖みたいになっちゃって...」


佐藤がそれに応える。


「いえ、すごく大事な視点だと思います。結局二番煎じみたいなサービスだったら意味ないですもんね...」


それに対して、花岡が熱弁をする。


「私、ああいうサービス使っていたことあるんですけど、結局やめちゃったんですよね。確かにママ同士の繋がりはできるんですが......繋がるだけで、その後どうするかは全部個人任せなんです。だから、緊急のときにはあまり役に立たないんです。うまくその辺も使えている人もいるかもしれませんが、私は気軽にHelpは出せませんでした...」


花岡は続ける。


「行政のサポートも充実はしてきてるんですが...予約が必要だったり平日昼間だけだったり……。

『今日どうしても!』っていうときに助けてくれる場所って、本当にないんですよね...」


「確かに。ママが助けて欲しいのって"今"なんですよね。明日辛いから助けてくださいって、なかなかないですからね。"今辛いママ"を助けてあげてあげたいですね」


その中で、ランが、少し勇気を出して手を挙げた。


「...わたし、外国人ママ。プリントの日本語むずかしい。

翻訳アプリでことばはわかる。でも……どういう意味か、どうしたらいいかわからないときが多いです。」


井上がすぐに反応した。


「そうだよね!文化や園のルールまでは翻訳してくれないもんね。」


「だから、Helpで写真を送ったら、ちょっとした説明とかアドバイスも返ってくるようにしたらいいと思う。

それなら、外国人ママ、ひとりじゃないって思えるかな」


少しずつ、サービスの姿が見えてきた


・ママ同士がHelpボタンでつながるアプリ

・今辛いママを助けてあげられるようにする。リアルタイムで助ける。

・翻訳機能だけじゃなく、コミュニティ内で、外国人ママも困った時に写真を送って相談できる


「でもさ……」


と佐藤が不安げに言った。


「もしHelpしても、誰も捕まらなかったらどうするの?」


「確かに...Help出しても、誰も助けてくれなかったら意味ないですよね...」


「そこは仕組みでカバーしましょう。」

那賀がきっぱりと答える。


「たとえば、ベビーシッターや家事代行会社などと数十社と提携する。そして、Helpして10分誰も応答しなかったら、そのまま提携会社にHelpに一括送信する。

アプリ内で完結するような仕組みにすれば、ママ達がそれぞれのサイトに行って空きがあるかをチェックしなくても済むかもしれません。

これなら、ママたちがすぐに助けてあげられなくても、最短で誰かが来てくれますね」


「なるほど!」


佐倉が目を輝かせた。


「どこかひとつでも空いてれば、即レスで助けてもらえるんだ!」


「行政のサポートは予約制。でもこれは、リアルタイムで今動ける人に届くんだね。」


「愚痴はコミュニティ内で発散する。本当に助けて欲しい時は、誰かが来てくれるような仕組みにする。これが実現できれば、孤独なママを少しでも助けられるかもしれませんね」


そして、那賀が、少し息を整えてみんなを見渡す。


「皆さん……今の話、すごくいいと思います。

もしよければ、これを私の会社の事業の一環として始めてみませんか?

初期投資くらいなら用意できます。まずは小さくても、今日ここにいる皆さんから始めるんです。

もちろん、マネタイズどうするとか、セキュリティどうするとか、まだ考えるべきことはたくさんあります。

でも、皆さんの思い、ぜひ実現してみませんか?」


一瞬の沈黙。

けれど、すぐに花岡が口を開いた。


「……やりましょうよ!今日集まって、私はもう一人じゃないって思えた。これをもっと広げたいです。」


佐藤が笑う。


「じゃあ、定期的にこうやって集まりませんか? もちろん全員集まれなくてもいい。

ここで話せる場所があるって思えるだけで、全然違う。」


「私も賛成!」


佐倉が頷く。


「今日のこと、絶対無駄にしたくない。」


ランが小さく「わたしも……一緒にやりたい」と呟くと、みんなの顔が一斉にほころんだ。


カフェの外は、夜の街灯が柔らかく輝いていた。

ムーンバックスの窓ガラスに映るのは、もう最初にここへ集まった時の孤独な顔ではない。


「ここからだよね。」

「うん、ここから。」


誰かが呟いたその言葉に、5人全員がうなずいた。


小さな一歩だけど、

確かに今、ママたちが自分たちの手で未来を動かし始めた。


「そうだ!せっかくだから、みんなで写真でも撮りませんか?」


「えっ、撮りたい!那賀さん!シャッターお願いしてもいいですか?」


「もちろん!じゃあみんなそこに並んで!ほら笑って!いくよ!はい、チーズ!」


この5人の写真は、のちにある会社の創業メンバーの出会いとして、価値あるものとなる。


今もどこかで、ママは助けを求めている。

それは、この物語を読んでいる、あなたがそうなのかもしれない。


でも、きっと誰かは助けてくれる。

今すぐじゃないかもしれないけど、きっといつか理解してくれる人がいるから。


だから、少しだけ待っていて欲しい。

あなたが大変なことも、頑張っていることも、辛くて苦しいことも。


ちゃんと、この5人には伝わっているから。

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