第4話|共働きママとリモート夫の夏休み
「次は、どなたの夏休みのお話を聞きましょうか?」
那賀の問いかけに、勢いよく手を挙げるママがいた。
「佐藤さんの話を聞いてたら、私も吐き出したくなったんで聞いてもらえます?もう我慢できない!私の夏休み、聞いてもらわないと発狂しそう!」
「そ、それはすごい溜まりようですね...。じゃあ、自己紹介からお願いします」
「佐倉紗英、30歳で4歳の娘がいます。うちは共働きしているんだけど……うちには週4リモートワーク夫というバケモノがいるの!!」
「うわ、それは……」
他のママたちが一斉に顔をしかめました。
そう、分かる人にはもう分かる。この単語だけで伝わる地獄。
「それで!私の夏休みだけど......」
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共働きって、本来は家事や育児とかも分担になるはずですよね?
全部とは言いませんが...10対0ってお前!もはやコールド勝ちだよ!
夫の稼ぎがいいなら"私はATMと結婚したんだな"と割り切れるけど、そうじゃないのになんで私だけ地獄見てるんですかね?
私も仕事してるって分かってるんですかね?
子どものために時短で給料削ってでも働いてるんですよ。
なのにさ、週4でリモートワークの夫が家にいるだけで、もう全部狂う!
しかも夏休みは、家に夫と息子がいる状態って地獄以外あります?
リモートワークは、あの人にとっては「家に居ながら堂々とサボれる魔法の制度」ですよ!
こっちが育児でヒーヒー言っている時に、仕事しているフリしているの見ると、後ろから画面に頭を突っ込んでやろうかと本気で思う!
あの、"俺、仕事で忙しいから"アピール、マッジでうざい。
「今日は会議が多いから、子どもを静かに頼むね」
ハァァァァ!?
なんでこっちがそこまで気を使う必要あるんだよ!
そんなに声が気になるなら、お前が会社行って来いよ!それで全部解決するじゃん!
うちは映画館じゃないしさ、こっちがバタバタしているときにあの人の声が聞こえてくるとイラッとする!
でさ、"会議で俺忙しい"とか"子どもの声が入るとマズいから"という割に、お前この60分で発言したの"よろしくお願いします"と"失礼します"の二言だけじゃねえかぁぁぁ!
お前はラジオのリスナーとほぼ一緒じゃん!
会議ラジオばっかり聞いるのを忙しいってよく言えるなって思う。
そりゃあさ、聞くだけの会議になることだっであると思うよ?
でもさ、会議中にもカメラオフでスマホゲームしてるの知ってんだぞ!
会議終わると即スマホゲーム。
会議がなくてもスマホゲーム。
仕事が終わるとスマホゲーム。
こっちは子どもにご飯食べさせながら仕事のメール返してるのにだよ?
私も夫ガチャ10連引き直しできないのー!?
星5の激レアが良かったよー!
スマホゲーム廃人は本当に何も見えていなくて凄いんだよ。
子どもが近づくと「ちょっと待って!」って言うの。
5分経っても、10分経っても「ちょっと待って!」のまま。
ポチポチポチポチ......
4歳児に“ちょっと待って”って永遠に感じるんだよね。
子どもは泣くよ?そりゃ泣くよ。
で、泣いたら「ちょっと静かにさせて」って私にキレる。
お前、何のためにリモートなの?
家にいる意味ある?
ご飯中もスマホゲーム。
お出かけ先でもスマホゲーム。
"息子見ておいてね"、"わかった"からのスマホゲーム。
なに?スマホと結婚してんの?
死ぬ間際までスマホゲームやってそう。
お迎え来ても、ちょっとまってって言いそう。
ってあれ?
私、夏休みのこと話さないといけなかったよね?
もういいや!すみません!夫のこともう少し愚痴らせてください!
夫ってさ、なんで洗濯機に脱いだ服入れられないの?うちの夫だけ?
服、脱ぎっぱなし。
靴下、片方だけ、なんで片方だけ?
うちのリビングはお前のストリップ劇場じゃないんだけど。
洗濯機って足が生えて服を迎えに行くわけじゃないのよ?
服って手を添えてあげないと歩けないの。知ってる?
「これ、洗濯機に入れるの!?入れないの!?」
って聞くと、"あー、明日も着れるから置いといて"だって。
着れるか着れないかは問うてない。
ここにお前の抜け殻があるのが邪魔なのよ。
次はペットボトル一口残し問題。
これやばくない?
冷蔵庫開けるとペットボトルがズラリ。
全部、一口だけ残してある。
なぜその一口が飲めない。そして、いつ飲む。
一週間前から冷蔵庫にある一口コーラはいつ飲む。
お前のDNAでも採取してんのか?ってぐらい。
あの一口は誰のもの?未来の誰かのもの?
飲んだら飲んだでラベルも取らずに机にポン!
これ、私が片付けなかったら、未来永劫残って化石になるよ?
家事もひとつ“手伝った”だけであのドヤ顔。
洗濯物を一回干しただけで、「俺干したよ?」ってアピール。
だから何?賞状でも渡したほうがいいの?
食器一回洗っただけで、LINEで「皿洗っといた」って送ってくるの、なんなの?
私、あなたの部下じゃないから。その報連相いらないの。
特に、地雷イベントが料理任せた時ね。
「俺が作るよ!」
って言うから任せるじゃん?
何作るんだろうって見ていたら、袋いっぱいの買い物をしてくるの。
うそでしょ!?
使い切らない調味料を何千円分も買い揃えて、1回で終わり。
いや、醤油あるやん。
なんで丸大豆醤油じゃないとダメなの?
なんで家にある白砂糖じゃダメなの?
何その調味料、人生で初めて見た。
あと、オリーブオイルは高いんだから、本当にやめてください。
聞いてみると、"レシピにそう書いてあったから"だって......
あのね、あの通りの材料じゃないと死ぬとかはないの。
で、完成した料理は1.5人前しかない。
私と子どもでどうやって分けるの?
しかもピリ辛味ってバカなの?
こんな人だからさ、子育てもたいしてしてないくせに、子どもにはすっごい偉そう。
普段、スマホゲームぽちぽちで子どもの相手しないくせに、たまに関わると「だめだろ!そんなことしちゃ!」って急に父親ヅラするの。
いやいや、子どもも困惑してるから。
「あれ?あなた誰でしたっけ?」みたいな顔してるよ。
極め付けはスカイツリーを建てることを目指しているかの如く積み上がった自己啓発本。
あのさ、自己啓発本を10冊積んでも、読まなかったら何も変わらないんだよ?
"論理的思考力の鍛え方"だって。
なるほど、そりゃ鍛えられていないわけだ。
"人の心が面白いように読める"だって。
お前、誰の心読もうとしてんだよ。
結局夫の愚痴になっちゃったけど、夏休みを総括すると、"リモート夫は邪魔でした"かな。
子どもが家にいる40日間、あの人は一回も戦力にならなかった。
むしろストレスが53万倍になった。
最後の夜、私は布団の中でこう呟きました。
「来年の息子の自由研究は、なぜママはパパを選んだのかだな。」
これが、私の夏休みでした。
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……会場がシーンとした後、
「わかるぅぅぅ!!!」と共感の嵐。
義母じゃなくても、敵は家の中にいる。
リモート夫。全国のママの共通の敵。
「リモートで旦那さんいるならいいわね!ってよく言われるけど、フル出社で旦那さんいなくていいわね!と返したくなりますよね。」
会場はまた爆笑に包まれた。
リモート夫は、家の中に実在する幽霊なのかもしれない。