第3話|義理両親同居ママの夏休み
「じゃあ次は、誰の夏休みを話しましょうか?」
主催の那賀が、花岡の次のママを見回す。
「はい!私!私の夏休み聞いてください!!マジで最悪だったんで!」
「よっぽどですね。では自己紹介からお願いします」
「佐藤沙姫、29歳。5歳の息子・虎太郎がいます。そして……旦那の両親と同居してます。ヤバくないですか?」
その瞬間、ママ達の顔がひきつる。
「……うわぁ……」
「それだけで地獄認定ですね……」
空気が凍る。
「私の最悪な夏休みですが......」
⸻
私ね、結婚する前に教えて欲しかったの。
義母ガチャ、マジで外れたら人生終了。
最初は普通だったのに、結婚した途端ラスボス化。しかも一緒に住むとか、地獄以外の何なんですか?
結婚する前に何回か会った時は普通だったのに、
このババ...この人とあと何十年暮らすことになるのかと思うと、もうお先真っ暗!人生終了ですよ!
ほんっとに、いちいちいちいちいちいちいちうるさいんです!
朝起きた瞬間からストレス。
「おはようございます」って言っただけなのに、
「あら、今日は早いのね」
「あら、今日は少し遅いのね」
うるせえ!時刻表が私は!私はバスか!
てか、あんたどうせ昼は気持ちよさそーに寝るんだから、そんなに眠いならもっとゆっくり寝ててくださいって思いますよ。
でもこんなのは全然かわいいほう。
一番ヤバいのは、何をするにしても監視されているところです。
トイレ行こうとしただけなのに、
「あら沙姫さんどこ行くの?」
家の中ぐらい好きに歩かせろ!
いやトイレ行くときに実況報告が必要なシステムあります?
近所のスーパーに行こうとすれば、
「どこのスーパー行くの?何買うの?あまり無駄なものは買わないようにね」
はぁ!?
私、密着ドキュメンタリーでも撮られてるのか?ですよ!
もー!何するにしても、どこ行くにしても、いちいち聞いてくるなよ!
じゃああんたもトイレ行く時、私に言えよ!
"沙姫さん、トイレ行ってきますね"って!
あー思い出してきたらイライラしてきた!
あと知ってます?私は子育てのプロよアピール!
しかも昔の知識で全部止まっているから、もう知識が古い古い!
息子が小さい時に粉ミルクあげていたら、
「粉ミルクなんて...母乳のほうが健康な子に育つのよ。粉ミルクなんて何が入っているか分からないでしょ?」
とか言ってくるし、今でも息子がコーラ飲んでたら、骨が溶けるからとかさ...コーラで骨は溶けねえよ!
冷房も扇風機も、死ぬとか言ってすぐ止めるし!
あと、"私はほとんど一人で4人の子どもを育てた"って話、もう100回聞いてますよ。
昔はもっと大変だったとか、沙姫さんは恵まれていていいわよねとか...はいはい!すごいですね!
普段でさえこんな感じなんですよ?
夏休みはここに息子がフルでいるとか......この世の地獄ですか?
義母は孫LOVE。
毎日一緒に入れて嬉しいかもしれないけど、私は義母のストレスと子どもの相手でもうヘトヘト。
「虎太郎ちゃん、お菓子買ってきてあげたわよ。ばあちゃんと一緒に食べよ」
……いやいやいや。
私が虫歯予防でお菓子減らしてるの知ってるよね!?
しかも昼ごはん前にポテチ食わすなよ!頼む!
孫のポイント稼ぎしてんじゃないよ!
お菓子だけならまだしも、おもちゃも無限に増えていくんですよ。
何でもない平日に勝手に高額おもちゃを買ってくるのやめてくれ!
誕生日とかクリスマスの特別感を返せ!!
「いいじゃない、たまには」
って、あんたのたまには週1ですか、そうですか。
それで、夏休み最大のイベント、お盆休みの帰省イベント。
うちに義母や夫の親戚が全員集まる一大行事。
今度からタイミーとかでスポットワーク頼もうかな。
その日は朝起きた瞬間から、1日が早く終われと祈ってる。
料理の準備も、お酒の準備も、ぜーんぶ私!
ぞろぞろと、人間何人いるのよこれ。
義母の兄弟、その配偶者、その子供、その子供の子供......家系図ないと誰が誰だか分かりません!
玄関で親戚をお迎えしたら、開口一番に、
「あら?沙姫さん、ちょっと太った?」
...今すぐ警察と救急車を手配してください。
そして宴会が始まってからは、さらなる地獄ですよ。
「沙姫さんも飲めるでしょ?ほら飲んで飲んで!全然減ってないじゃん!」
お酒弱いんだから本当にやめて!
それ、会社だとハラスメントでアウトですからね。
さてさてお次は?
あら、おじさんの毎年恒例の武勇伝ですね、はい拍手ー!
オチが分かっているのに毎回驚くフリする私にも拍手ー!
おっと、最近の大卒はバカばかりで使えないアピールのおじ様もいらっしゃいました!もうすぐ定年で万年平社員だったのにすごい自信ですねー!
あら!そっちのおばさま達はブランド自慢合戦開始!誰が優勝するんでしょうね!
子ども達はというと...運動会でも始まったのかな?小さい子達はお家で元気に走り回って元気ですねー!
そろそろ調子乗りすぎて飲み物をこぼすんでしょ?...ほら、ね!
そしてショータイム!
義母の孫可愛いでしょ自慢の始まり始まり。
「本当に可愛いのよ!両親はそんな大したこともないのに不思議ねー」
「(このクソババア!表出ろ!!)あはははは、なんでですかねー!」
で、私はと言うと...
台所で皿洗いと親戚達のお酌の繰り返し。
つまらない話を笑顔で乗り切るスキルは自信あるわよ!
そして嵐のように過ぎ去っていく怪物ども。
私のヒットポイントはマイナスになりました。
そして8月31日。
長い戦いが終わり、布団の中で天井を見上げて呟いちゃった。
「義母と暮らすって、拷問だな」
明日で夏休みは終わる、でも義母との日常はエンドレスで続く...
これが、私の夏休みでした。
ーーー
笑いすぎてしまい、今度は花岡の時と違ってハンカチで涙を拭くママ達。
「ちょうど旦那から、両親と一緒に住まないかという提案受けていたんですが、全力拒否する意思が固まりました!」
ムーンバックスのママ達のテーブルは、明るい笑い声に包まれていた。