転生設計室と再誕の間
──君が生きるその人生は、誰かの願いかもしれない──
魂が再び「生きる」ためには、祈りと設計、そして受け渡しの儀が必要となる。
ここは「転生設計室」。
魂の履歴、希望、課題、因果関係――それらすべてをもとに、次の人生が静かに練られていく。
たとえばこんな希望が届く。
「もう人間は嫌だ」「今度は芸術に生きたい」
あるいは「どうしても、あの人と再会したい」――
それらの願いを、現実に落とし込むための調整が、設計士たちの仕事だ。
設計内容は多岐にわたる。
――肉体選定。どの種族に、どの体質で生まれるのか。
――魂課題の継続有無。前世でやり残した学びを引き継ぐかどうか。
――家族縁の組み直し。かつての縁者と、今世でも再び出会えるよう調整する。
――記憶遮断レベル。記憶を完全に閉じるのか、それとも“気づき”だけを残すのか。
主任設計士・縵白は、かつて夢見巫女の血を引いた者であり、“設計魔術師”と呼ばれるほどに繊細な転生設計を行う。
その眼差しは、ただ“正しさ”を追うものではない。
魂が本当に生き直したいと願う道筋を、静かに見つけ出すのだ。
そして設計が完了した魂たちは、いよいよ「再誕の間」へと進む。
ここは現世への“降下儀式”が執り行われる、神聖な空間。
並んだ魂たちは、一人ずつ順番に“命の水”を受け取る。
その瞬間、魂の珠は一度すべて分解され、光の粒へと戻り、再び組み直される。
記憶は静かに遮断され、魂の灯がふたたび灯る。
特例として、いくつかの特殊転生も存在する。
――希望転生:魂の強い願いに沿って設計された稀少ルート。
――修行転生:魂課題を明確にし、試練を強く抱える生。
――感応転生:他の魂と縁を組み、共鳴しながら生きる(双子や“魂の伴侶”など)。
そのすべてを、魂案内課の職員・蔓茘枝は、静かに見届ける。
彼はずっと寄り添ってきた。魂のはじまりにも、痛みにも、終わりにも。
再誕の詞が読み上げられる。
「命の水を受けよ
君の光は、誰かの希望
ただしくあれとは言わぬ
君のままに歩みたまえ
今ここに、再び生まれよ」
そしてライチは、そっとつぶやく。
「たとえ記憶が消えても、想いは、かすかに残るものです。
それが“直感”となって、君を導くのかもしれませんね」
魂たちは光となり、地上へと還っていく。
そこには、はじまりでも終わりでもない、“つづき”の人生が待っている。
常世行政システム――
魂の環をつなぐための、小さな祈りの仕組みは、今日も静かに動いている。