記録局と因果管理室
──記録され、裁定され、そして繋ぎ直される魂の環──
魂の歩みは、ただ記憶として消えていくものではない。
そのすべてが、誰かの未来へとつながる“縁”となる。
ここは「記録局」。
魂が経験した全人生の記録を精査し、整理する機関だ。
魂生活支援センターや記憶アーカイブ館でまとめられた“魂書”がここに届き、詳細な再検証が行われる。
「魂記録の精査」では、魂書に記された内容に加え、見落とされていた“記憶の糸”までも抽出される。
「因果分析」では、行動や想念、人との関係性が解析され、因果関係が数値化されていく。
その上で「裁定草案」が組まれ、転生・停止・再教育など、次に魂が向かうべきルートの草案が作成される。
また、深く結びついた他の魂――家族やかつての友、宿敵といった存在との照合も行われる。
この草案は、ひとつの“答え”ではない。
それは、“新たな問い”へと向かうための、静かな助走である。
そして、記録局の隣に設けられているのが「因果管理室」。
ここでは魂の因果が“縁の鎖”として管理され、複雑に絡み合った業や宿縁をひとつずつ解きほぐしていく。
現世において「なぜ私ばかりが」と感じる理不尽な出来事――
その背後にある“結び目”の多くは、実はこの因果管理室で扱われている。
管理室の中でも特に注目されている職員が、白桐である。
感情を介さず、淡々と鎖の編み直しを行う彼は、魂の“甘え”には厳しいが、その根底には深い慈悲がある。
また、火車昇降口の責任者である黒赫も、因果破損案件の連携担当として名を連ねている。
彼の信条は「落とすだけじゃ救われない」。
その言葉には、地獄へ向かう魂たちをも再び導こうとする意志が宿っている。
処理の流れは、こうだ。
魂書から未消化の念が確認され、因果の糸が抽出される。
管理室で因果を読み解き、裁定草案が作成される。
関係する魂たちとの照合を経て、最終調整が行われたのち、魂本人の同意があれば転生や再教育のルートへ進む。
この全工程のなかで、魂に求められるのは「知ること」だ。
知ることで、責めるのではない。
知ることで、縛られていた想いを解き放つのだ。
案内係のライチは、こうつぶやく。
「過去に囚われた魂を解くのは、
それが誰かの未来を縛らないためなんです。
……因果を知ることは、責めることじゃありませんよ」
魂たちは巡り、また新たな旅へと歩き出す。
常世行政システムは、今日もその背中を静かに見送っている。