魂生活支援センターと記憶アーカイブ館
──生のあいだに疲れた魂へ、憩いと記録のひとときを──
旅を終えた魂にも、ひと息つく時間がある。
「魂生活支援センター」、通称「魂サポ」。
ここは転生前の準備期間や、記録保存後の待機時間に立ち寄る、魂たちの休憩所である。
また、現世に一時的な介入を終えた魂や、転生を拒んだ魂たちも利用することができる。
施設内には、さまざまなケアと支援が用意されている。
――「心理ケア室」では、香りを添えた静かな対話によって、魂の不安や混乱がゆるやかに解かれていく。
――「養魂ラウンジ」は、五行の気を湛えた“魂の癒し温泉”が特徴。魂に合った色の湯船が、その波動を整えてくれる。
――「想念整理デスク」では、次の章へ持ち越したい想いや記憶を“魂箱”に詰めて保管する。
――「幽界観測サロン」では、現世の様子を遠くから覗き見ることができる。愛する人々を見守りながら、別れの想いを整理するための空間だ。
そして、この魂サポと対をなす施設がある。
それが「記憶アーカイブ館」だ。
ここでは、魂がこれまでに歩んできた記憶や体験――すなわち「魂書」が記録・保存されている。
魂書とは、魂ごとに一冊存在する記録書。
過去生の出来事、思念の変遷、出会いや未達の願いまでもが綴られ、その一部は自由に閲覧・修正が可能である。
魂の状態に応じて、他者の魂書の“縁の章”を閲覧することもできるが、それには許可が必要となる。
記録を守る職員たちもまた、個性的である。
――「灯音」は記録整備主任。静かな語り口で、魂の話をゆっくりと聞いてくれる。
――「白桐」は封印担当。過去の痛みや想念を、丁寧に読み解きながら扱う青年。
――「粟蓮」は交流サロンの担当で、魂の感情の流れを読むのが得意な世話焼き体質だ。
ある魂は、こう語っている。
「記憶の湯船がとても懐かしくて……気づいたら涙が出ていました。
でも、それでやっと“前に進める”って思えたんです」
また別の魂はこう記した。
「アーカイブ館で前世の“師匠の言葉”を読み返したとき、
“あ、これをもう一度やり直すために戻るんだ”と感じました」
魂にとって“休む”という選択は、決して逃げではない。
そしてそのことを、案内係・蔓茘枝はこう語る。
「魂にだって、休む権利はあります。
休むことを選べた魂は、きっと強い。……誇っていいんですよ」
次回は最終章。
旅のすべてを包む「常世」の全体構造と、その奥にある“祈り”のあり方について、最後のご案内をいたしましょう。