閻魔庁と因果帳照合課
──審判の座にて、魂の記録を読み解く──
魂たちが最初の受け入れを終えたあと、多くは第二階層に設けられた審査機関――「閻魔庁」へと案内される。
ここは、魂の生前における行動、選択、そして心の動きまでも精査し、その魂にとっての“次なる段階”を決定する場である。転生、留保、調整──その行き先はすべて、この庁で決まる。
閻魔庁には、十人の審判官が在籍している。
それぞれが異なる「因果領域」を管轄し、魂の記録――すなわち「因果帳」を元に判断を下す。
この因果帳とは、魂が生前に歩んだ足跡そのものである。
行動、想い、そしてその結果。それら三層構造の記録は、魂が現世に生きていたときの思念や記憶を元に蓄積されていく。
ただし、記録は常に完全なわけではない。
生前に強い外的干渉を受けていた魂や、記憶の改ざんが見られる場合もあり、そこを修復し、整えるのが「因果帳照合課」の役目だ。
照合課の職員たちは、想念と記録の狭間に身を置き、
魂の状態――安定度や覚醒度――をチェックしつつ、因果帳を正しく読解できるよう書式変換や翻訳までこなしている。
特に、若くして亡くなった魂や、未練が強く残る魂は、記録が感情に偏りやすく、読解に高度な技術を要する。
それでも照合課は、日々の業務の中で、静かに魂の未来へと手を差し伸べているのだ。
審査が完了した魂の行き先は、おおまかに三つ。
転生設計課へと進むか、魂調整ラウンジへと一時案内されるか。あるいは、強い迷いや執着を抱えた魂の場合、「留保施設(迷魂院)」への措置が取られることもある。
そんな緊張感ただよう審判の場において、ある案内係がぽつりとこぼした一言が、記録に残っている。
「……因果帳は、ただの記録ではありません。
そこにある“想いの温度”が、魂の未来を決めるんです」
そう語ったのは、魂案内課の職員・蔓茘枝、通称ライチ。
彼は偶然、審査場に同席した際にこの言葉を発したとされ、その記録は公式資料にも残されている。
因果帳はただの履歴ではない。
それは魂のあり方を示す、静かな手紙のようなものだ。
──そして時に、それを自ら読んでしまった魂が、己の歩みに耐え切れず、精神を崩してしまう例もある。ゆえに、因果帳の閲覧には厳しい制限が設けられているのだ。
次回は、癒しと再起のための空間「魂調整ラウンジ」についてご紹介しよう。