魂の港と迎え火管理局
──魂たちが最初に降り立つ、常世の玄関口──
常世行政システムの第一階層に位置するのが、「魂の港」。
正式名称を「常世港湾局」といい、現世を旅立った魂が最初に足を踏み入れる、彼の世の出入口管理施設である。
魂は様々なルートを経てこの地に辿り着く。霊道を通るものもいれば、灯明の炎や線香の煙を伝い来る者もある。鳥便、舟便と呼ばれる特殊経路を経由する魂も、近年では増えてきた。どの道を選んでも、最終的に魂たちはこの港で受け入れられ、識別され、滞留の有無が確認される。
状態が良好な魂は、そのまま第2階層――閻魔庁や因果照合課がある階層へと転送されるが、不安定な魂は「魂調整ラウンジ」へと案内される。そこは、言うなれば心の休憩所。癒しを必要とする魂にとって、静かな揺籃のような空間である。
この港の運用において、欠かせない存在がもうひとつある。
それが「迎え火管理局」だ。
ここでは、現世と常世をつなぐ火点――つまり霊道の開口部――の整備と監視を行っている。火点の強度や安定性、時間帯による混雑状況を確認し、魂が正しく道を辿れるよう日々管理されている。
ちなみに、よく知られる「精霊馬」も、魂の導線を整える補助具として登録されている。
線香や灯明などの供物も、迎え火としての効果があるとされ、現世からの祈りが霊道を照らす“灯”となる。
──迎え火は、ただの火ではない。
それは、想いであり、心の灯。
物理的な炎でなくとも、誰かを想う気持ちがあれば、魂はその灯を辿って還ることができる。
ただし昨今では、迎え火の焚かれぬ家庭も増えており、火点申請を怠ったことで魂が港まで到達できず、いわゆる“浮遊状態”になる例もある。その場合は、魂回収課あるいは案内係が対応にあたるので、どうかご安心を。
ちなみに、この港には「案内係」と呼ばれる職員も存在している。
彼らは事務的な対応とは異なり、到着した魂に寄り添い、不安を和らげる“心の橋渡し”の役割を担う。
近ごろ特に話題となっているのが、魂案内課から派遣されたある男性職員。
「いつも泣いているけれど優しい」「名前がすぐ覚えられる」と、魂たちから密かな人気を集めているという。彼については、また後の章で詳しくお話ししよう。
さて、次回は彼の世における最重要機関──「閻魔庁と因果照合課」についてご案内する。