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開かれた目 〜Memocracia 歴史の影に沈んだ文明〜  作者: CIKI
第二章:永遠の目による監視
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「崩れゆく聖域」

「記憶のフラクタル」発動中…… / 同年 同日 15:38 / 神聖記憶主義社会〜崩壊の時代〜



アドラー大司教がモニターを見つめながら静かに言葉を発したその瞬間、部屋に突然の通信が入った。


「大司教、至急、会議室へお越しください。」


厳かな声が部屋に響くと、アドラーは迷うことなく立ち上がった。その横に立っていた若い男、レノーは一瞬だけ躊躇した様子を見せたが、大司教の動きを追うようにその後に続いた。


レノーはアドラーに直接仕える役目を担っている。その姿勢は几帳面で礼儀正しく、白い教会の制服を少し窮屈そうに着こなしていた。


真面目さの奥に憂鬱さを感じさせる顔立ちと、鋭い目つきが特徴的だが、内心の緊張を隠せていないのか、歩くたびに少し硬さが見える。


二人が向かったのは、教会の最上層に位置する聖域の間。そこは、教会の支配構造を形作る最も重要な議論が行われる場所だった。廊下を進むたびに空気が張り詰め、レノーの足取りはますますぎこちなくなった。


しかし、アドラーの背中には迷いがなく、その姿に導かれるようにレノーは進み続けた。


部屋はステンドグラスから差し込む冷たく厳粛な光によって硬質な雰囲気で満たされていた。


テーブルを囲む五人の長老たちの視線がアドラーとレノーに集まる。


その沈黙を破ったのは、隅に座る長老の一人だった。低い声で話し始める彼の目には、明らかな恐れが浮かんでいる。


「フラクタルの拡散は……単なる記憶の解放ではありません。私が観測した限りでは、記憶の壁を壊す“性質”だけでなく、それに従うような連鎖的な動きがあります。そして……それには何か別の“意志”があるように思えるのです。」


その言葉に、テーブルを囲む他の者たちも顔を曇らせた。アドラーは席に着くと、険しい顔つきで次の言葉を待ち受けていたが、誰も続かず、重い沈黙が部屋に漂う。


「記憶は、我々が管理する限りにおいて神聖だ。」


別の長老が続けた。その声には、制御が効かない恐怖を必死に隠そうとする揺らぎがあった。


「だが、記憶の壁を越え、消去された記憶に触れるとなれば……」


その瞬間、レノーの目が鋭く光った。


「禁忌の領域……?」


アドラーがレノーを一瞥したが、何も言わなかった。沈黙を破って中央に座る最長老が口を開いた。


「問題はそこではない。」


彼の低い声が部屋全体を包み込み、全員が一斉に振り向いた。


「もしフラクタルが記憶の壁だけでなく、記憶そのものの“構造”を変える力を持つならば……それは我々が築いてきた秩序の終焉を意味する。単なる支配の崩壊ではない。我々の存在意義そのものが否定されるのだ。」


最長老の言葉は、場にいた全員の胸を深く突き刺した。その一言は、ただの危機感ではなく、確信を帯びていた。


レノーは一人、静かに考えを巡らせていた。


(フラクタル……それが何なのか、私は知るべきだ。そして、この支配の本質を問い直す必要があるのかもしれない……。)


彼の思考は、いつしか父親の記憶へと向かっていた。教会が抹消したはずの父の言葉が、またしても心の中に蘇る。


「揺らぎを否定する者は、自らの人間性を否定するに等しい……。」


レノーは拳を強く握った。


彼の瞳は教会の重圧的な光景の中で、ほんの一瞬だけ鋭い決意を宿したのだった。


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