「誰もが職人になれる世界」
「記憶の海」アクセス中…… / 同年 8月20日 11:00 / 民主記憶社会主義時代
広場の中央にある巨大なスクリーンが輝きを放ち、周囲には家族連れや職人、若い学生たちが集まっている。スクリーンには今、ある職人の記憶が映し出されていた。彼の名前は「ダニエル」。ベテランの木工職人で、その手先の動きは魔法のようだった。
「次に、この部分を慎重に削ることで、木材の表面が滑らかになるんだ。」
ダニエルの落ち着いた声がスクリーンのスピーカーから流れ、映像には彼の手元が映し出されている。削られた木の表面が光を反射し、周囲の人々から感嘆の声が上がる。
「リナ、見て! これ、私たちでもできるかも!」
若い母親のエマが隣に立つ娘のリナに笑顔で話しかける。リナは端末をしっかりと握りしめ、目を輝かせながら画面に見入っていた。
「ほんとだね、お母さん! ダニエルさんがやってるの、すごく丁寧だけど、真似できそう!」
リナの声は興奮に満ちていた。彼女は母親に促されて端末を起動する。青白い光が彼女の顔を包み込む。次の瞬間、彼女が瞳を閉じると、ダニエルの記憶がリナの中に流れ込んでいく。
リナの意識の中で、ダニエルの作業場が広がる。木の香りが鼻をくすぐり、かすかに響く鋸の音やヤスリがけの感触がリアルに伝わってくる。目の前には大きな作業台があり、その上で木材が一つの家具として形を成していく過程が展開されていた。
「ここを削るんだ。焦らないで、木目をよく見て……」
ダニエルの声がリナの耳に響く。彼の手が動くのを、自分の手のように感じながら作業を追体験するリナは、思わず「すごい……!」と声を漏らした。
リナが目を開くと、周囲の景色が再び広場に戻った。彼女の手には端末があり、その光が静かに消えていく。
「どうだった、リナ?」
母親が期待を込めて尋ねる。リナは笑顔で端末を握りしめたまま頷いた。
「お母さん、これなら私でも家具が作れるかもしれない!」
「今度、一緒に作ってみようよ!」
エマも微笑んで頷く。
「いいわね。次のお休みにやってみましょう。まずは簡単なスツールから始めましょうか。」
広場全体は、リナたちのような家族や友人で賑わっていた。スクリーンには次々と新しい記憶が映し出され、料理のレシピを学ぶ人、絵画の技術を吸収する人、それぞれが新たな知識を得て、それを生活に生かそうとしていた。
「記憶を共有することで、私たちは互いに成長し合える。これが民主記憶主義社会の素晴らしさだね。」
広場の隅で見守っていた年配の男性が呟き、隣にいた若者も同意するように頷いた。
理想郷のようなこの光景は、人々の中にある希望と可能性を映し出していた。それは「開かれた目(The Open Eye)」の時代を象徴する一幕だった。




