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開かれた目 〜Memocracia 歴史の影に沈んだ文明〜  作者: CIKI
第一章:開かれた目の遺産
2/18

「インストールされた戦場」

「記憶の海」アクセス中…… / 同年 同日 18:53 / 民主記憶社会主義時代



人々は皆、手のひらに乗るほどの大きさの球体の「メモリスフィア (Memorisphere)」と呼ばれるデバイスを持っていた。表面は半透明のクリスタル素材でできており、内部には無数の微細な光の粒子が絶えず動いている。その光は青や紫の色調を帯びながら、規則的に脈打つように点滅していた。


球体の中央には、柔らかな輝きを放つ核のような部分があり、その中には記憶が圧縮された状態で保存されている。球体の周囲には、指を差し込むための小さな窪みが三箇所あり、それぞれが使い手の生体認証を行うためのセンサーとして機能している。


一人の青年が端末を手に取り、指を窪みに軽く差し込むと、球体がふわりと浮かび上がり、静かな電子音が響いた。クリスタル状の表面が温かく感じられ、球体全体が淡い青い光を放ち始める。それと同時に、周囲の観客の端末も次々と起動し、青い光が広場全体に広がった。


「記憶インストールを開始します。」


女性の穏やかな声で音声ガイドが流れると、青年の端末の表面に細かなラインが浮かび上がる。それは、記憶の圧縮データが解凍され、使い手に合わせて情報が調整されていることを示していた。


青年は深呼吸し、目を閉じた。


端末の光が徐々に強まり、手のひらに微かに低い振動が伝わってくる。その振動は脳波にシンクロするように変化し、青年の意識が記憶に同期していく。


端末が最も明るく輝いた瞬間、彼の脳裏に映像が流れ込んだ。暗闇の中で視界が開ける。目の前には、砂埃が舞う荒野が広がり、耳には爆発音が響いていた。心拍が高鳴るのを感じながら、青年は先ほどの男性の目を通じてその世界に没入していく。


暗闇の中から視界が開ける。目を開けた瞬間、そこはもう戦場だった。


砲弾が飛び交う轟音、土埃が舞う空気の重さ、そして体中を駆け巡るような緊張感が押し寄せる。


「まだだ……立て……進め……!」


兵士が絞り出すような声を上げる。その声は、耳元で直接響くような臨場感を伴い、青年の意識に強く刻み込まれた。視界の端には、瓦礫の中に倒れ込む兵士の戦友らしき姿が映り込む。


「ダン、返事をしてくれ……頼む!」


兵士が必死に叫びながら、手を伸ばして戦友の体を揺さぶる。その動きがリアルに再現され、青年自身の腕にもその重さが伝わってくるかのようだった。


だが、戦友の目は空を見つめたまま、何の反応も示さない。その目に宿る静けさは、恐ろしいまでに冷たく、虚空を見つめていた。


周囲の音が遠ざかり、静寂が訪れる。代わりに襲いかかるのは、兵士の心の中に満ちる絶望だった。兵士は目の前の瓦礫を見つめながら、自分の無力さを痛感する。胸の奥が重く沈み込み、目の奥が熱くなる。その感覚は、青年自身のものであるかのように体中を支配する。


「記憶インストールを終了します。」


青年の耳には、砲弾の爆発音がまだ微かに鳴り響いていたが、それは現実の音ではなく、記憶の残響だった。指先は震え、額には冷たい汗が滲む。彼の目から涙が溢れ、頬を伝って地面に落ちる。


広場で隣に立っていた中年女性が、そっと青年の肩に手を置いた。その手は震えていたが、どこか温かさがあった。彼女の目には涙があふれ、彼の涙に触発されたように静かに流れ落ちていく。周囲からもすすり泣きの声が次々と聞こえ始め、空気がしだいに重くなっていった。


彼は視線を上げ、周囲の人々を見回した。泣き崩れる女性、呆然と立ち尽くす男性、涙をこらえようとする子どもたち。どの顔にも、同じような感情が宿っているのを感じた。その時、彼の胸の奥に小さな灯火がともるような感覚が広がった。


「これを、繰り返してはいけない。」


震える声で呟いた若い女性の言葉が聞こえた。その言葉は、彼の胸に深く響いた。


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