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開かれた目 〜Memocracia 歴史の影に沈んだ文明〜  作者: CIKI
第三章:閉ざされた真実
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「終焉の序章」

「記憶の壁」作動モード / 同年 3月30日 10:48 / 神聖記憶主義社会〜影の時代〜



信仰と記憶、それがエテルナスの柱である。


夜の帳が降りる教会の最上層にある円形の会議室では、神託者たちが一堂に会し、重厚な木製のテーブルを囲んでいた。壁一面を覆う巨大なモニターが、都市全体の記憶データをリアルタイムで映し出している。その画面は数百の小さなセクションに分割され、都市の各区域で発生している記憶の動きを詳細に示していた。


反対側の壁には高いアーチ型の窓が連なり、その向こうに煌々と輝く「記憶の塔(Tower of Memories)」がそびえ立っている。


その光が会議室内に微かに差し込み、冷たい空気にわずかな彩りを添えていた。


最長老が厳かな口調で切り出す。


「記憶の壁に新たな揺らぎが報告されている。この原因を徹底的に究明しなければならない。」


その声は静かだが重圧感のある声に、全員が緊張した。


一人の神託者が答える。


「揺らぎのデータは分析済みです。市民レベルでは抑制可能な範囲ですが、問題は――」


彼は言葉を詰まらせ、他の長老たちの視線を感じながら続けた。


「記憶の海の深部に異常なデータが検出されています。あれは……『禁忌の記録』かもしれません。」


室内の空気が一瞬、張り詰めたが、すぐにある長老が叫んだ。


「そんなことがあるはずがない!」


別の長老が声を荒らげる。


「禁忌の記録はすべて封印され、アクセスも不可能なはずだ。我々のシステムは完璧だ!」


しかし、その言葉に反して、額に滲む汗は彼の動揺を物語っていた。


「完璧?」


最長老は冷笑を浮かべ、椅子の背もたれに身を預けた。


「完璧なのは記憶の壁ではない。むしろ、我々の偽りだ。」


神託者たちは息を飲んだ。最長老の言葉は、その場にいる全員の心に突き刺さった。


「民主記憶主義社会の記録が復活すれば、どうなるか分かってるな。」


最長老は、窓越しに広がる高層ビル群の中心にそびえ立つ「永遠の目(The Eternal Eye)」を指さした。その巨大な塔の頂点には、冷たい光を放つ監視装置が設置されており、その存在感は、この時代における神聖な秩序の象徴として圧倒的だった。


「この整然とした都市、画一的な笑顔、全てが崩れ去る。我々が築き上げた秩序のすべてが、一瞬で瓦解するだろう。」


「ですが、最長老……」


若い神託者が怯えた声で口を開く。


「我々はその記録を封印しました。復活する可能性など――」


「可能性など関係ない!」


最長老がどん、と机を叩いた。


「教会の存在は秩序を保つためにある。そのためには、記憶そのものを改竄することさえ辞さない。それが正義であり、我々の存在意義だ!」


その瞬間、モニターの一つが一瞬だけノイズを発した。直後に映し出されたのは、かつての民主記憶主義社会の断片的な映像。


笑顔を交わす人々、広場で記憶を共有する光景――それは、現在の画一的な都市とはかけ離れた姿だった。


「消せ!」


最長老が怒声をあげる。


「即刻、その記憶を抹消しろ!」


技術者たちが慌てて操作を開始する。映像は数秒後に消え去ったが、その短い時間で、神託者たちの顔には見えない恐怖の色が刻まれていた。


「これが、教会の崩壊の始まりにならぬよう、全力で対策を講じよ。」


最長老の低い声が会議室に響いた。


都市に君臨する「記憶の塔(Tower of Memories)」の影は、夜の闇の中でさらに深く広がっていた。そして、その影の中に、誰にも触れられず眠る記憶の断片が、静かに目覚めを待っているようだった。


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