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開かれた目 〜Memocracia 歴史の影に沈んだ文明〜  作者: CIKI
第二章:永遠の目による監視
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「忘却の儀式」

「記憶の壁」作動モード / 同年 2月6日 9:45 / 神聖記憶主義社会〜影の時代〜



今日もまた、エテルナスの朝は、いつもと変わらず静かに始まった。


透明なスクリーンで覆われた建物群の間を、青白い光がほのかに照らし出す。街の中央に位置する広場では市民たちが忙しなく行き交っている。


ある若い母親が幼い少女の手を引き、広場の一角にある記憶管理センターに入っていく。建物は他の施設よりもひときわ威厳があり、入り口には金属製の扉が重厚にそびえ立つ。母親は案内係の神官に挨拶をし、順番待ちの列に加わった。


「お母さん、ここで何するの?」


幼い声が響く。子どもは無邪気に目を輝かせながら母親を見上げた。


「あなたが大きくなるために大事なことをするのよ。」


母親は優しく微笑むが、その瞳にはどこか躊躇いがあった。


やがて、順番が来ると二人は奥の部屋に案内された。部屋の中央には、光沢のある白い台があり、その周りに複数の端末が設置されている。白衣を着た技術者の隣には、神官が立ち、厳格な表情で儀式の準備を進めている。


「記憶の壁を埋め込む準備が整いました。これにより、この子の記憶は教会の保護下に置かれ、秩序が守られるでしょう。」


神官の声は無感情だった。


技術者が無言で操作を始めると、台の上に横たわった子どもの頭上に、小さな金属装置がゆっくりと降りてきた。装置からは微弱な青い光が放たれ、それが子どもの額に吸い込まれていく。


「少しだけじっとしていてね。」


母親の声は優しくもあり、不安げでもあった。


装置が作動するたびに、部屋のモニターに記憶の断片が映し出される。


生まれたばかりの子どもの泣き声、母親の胸に抱かれて微笑む姿。だが、その記憶が徐々に白いノイズに覆われ、最後には完全に消え去った。


「これで完了です。記憶の壁が無事に埋め込まれました。」


神官は淡々と告げる。


母親は子どもを抱き上げ、ほっとしたように微笑む。その瞬間、遠くで誰かの叫び声が聞こえた。


「自由を返せ! 記憶は誰のものだ!」


叫び声の主はすぐに数人の警備兵に取り押さえられ、広場の端へと引きずられていく。


通行人たちはそちらに視線を向けるが、誰一人として声を上げる者はいなかった。


「お母さん、あの人は何をしてるの?」


子どもが不思議そうに尋ねる。


「気にしなくていいのよ。」


母親はそう答えたが、その声には微かな震えが混じっていた。


広場の中央には、「永遠の目(The Eternal Eye)」の巨大なシンボルが掲げられ、その冷たい視線がすべてを見守っているかのようだった。


記憶の壁によって守られた秩序の中で、誰もが沈黙を選んでいた。


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