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開かれた目 〜Memocracia 歴史の影に沈んだ文明〜  作者: CIKI
第二章:永遠の目による監視
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「塔の影に立つ者たち」

「記憶の壁」作動モード / 同年 同日 8:30 / 神聖記憶主義社会〜影の時代〜


エテルナスの朝は、低い鐘の音で始まる。


その音は街の隅々まで届き、人々に「記憶浄化の儀式(The Cleansing of Memory)」が行われることを知らせていた。中央広場に集う市民たちの表情は様々だった。


期待に胸を膨らませた若者、義務感に駆られて足を運ぶ年配者、そして、無関心な目つきで立ち尽くす者たち。


広場の中央には「記憶の塔(Tower of Memories)」がそびえ立ち、その頂点に刻まれた「永遠の目(The Eternal Eye)」が朝日を反射して輝いている。その威容に、周囲の建物は影を落とし、街全体がその存在に支配されているようだった。塔を見上げる市民たちの間から、小声の会話が聞こえてくる。


「今日はどの地区が浄化されるんだろう?」


「聞いた話だと、北区だってさ。最近、あそこの住民が不安定だとか……」


「また不適切な記憶が増えたのか。ほんと、神官様には頭が上がらないよ。」


広場の中央に設けられた壇上に、教会の神官たちがゆっくりと姿を現した。


その服は純白に輝き、金糸で縫われた教会の紋章が誇らしげに胸元を飾っている。


彼らが手にした聖なる装置「記憶浄化端末(Memory Purge Terminal)」は、見た目には美しい宝石のようだが、その実、最先端の科学技術が詰め込まれている。


神官たちの一人が壇上に立ち、静かに手を広げると、広場全体が静寂に包まれた。


「人々よ、記憶は我らが魂の深奥を映し出す鏡である。しかし、その鏡が曇り、不純な影が差せば、我らの平穏は失われるだろう。本日、我々は記憶の浄化をもって、神聖なる秩序を保つと誓う。」


群衆の中から、ひとつ、ふたつと拍手が起こる。それは次第に波のように広がり、広場全体を包み込む。壇上の神官たちは一斉に端末を掲げ、塔の中へと進んでいった。


塔の巨大な扉が重々しい音を立てて開く。中から溢れる青白い光が広場を照らし出すと、人々は息を呑んだ。記憶の浄化が始まる合図だった。塔の中では、無数の記憶データがホログラムとして浮かび上がり、それらが一つずつ選別され、端末の操作により消えていく。


「見て、あれが浄化される記憶よ。」


「本当に不純なものなのかな……?」


「そんなこと言っちゃだめよ。神官様が決めたことなんだから。」


少女と母親らしき人物の囁きが群衆の中で交わされる。


ホログラムの中には、ある一家が笑顔で食卓を囲む場面が映し出されていた。突然、それが一瞬の光と共に消滅する。群衆の中から、誰ともなく拍手が起こり、浄化の成功を祝う。


しかし、その中に静かに佇む者たちがいた。彼らは群衆のざわめきから距離を置き、塔を見上げるその瞳に、それぞれ違った色の感情を宿していた。その中の一人がエリザである。


彼女は無感情に見える表情の奥で、心に揺らめくものを隠していた。「記憶の塔(Tower of Memories)」の儀式に対する疑問を抱きながらも、それを言葉にすることはできなかった。この社会で疑念を口にすることは不純とされ、許されないからだ。


エリザの視線は塔の頂点に据えられた「永遠の目(The Eternal Eye)」に向けられていたが、周囲の者たちには気づいていなかった。彼らもまた、それぞれの思いを胸に抱えながら、塔を見上げていた。


エリザと彼らの間にはまだ交わる糸は見えないが、やがてその糸が絡み合う日が来ることを、彼女は知らなかった。


「記憶の塔(Tower of Memories)」の扉が再び閉じられると、人々は徐々に広場を離れていく。その足取りはどこか安堵に満ちているようでもあり、また何かを背負ったようでもあった。


塔の頂点の「永遠の目(The Eternal Eye)」が再び静かに街を見下ろし、エテルナスの日常が続いていくのだった。


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