「スクリーンに映る記憶」
「記憶の海」アクセス中…… / 2254年 8月17日 18:43 / 民主記憶社会主義時代
広場の中心には巨大なスクリーンがそびえ立ち、そこには無数の記憶らしき断片が静かに流れていた。青空を映すその光沢が、穏やかな陽射しに反射しながら、周囲に柔らかな輝きを広げている。街のあちこちに設置された小型スクリーンも、同じ映像を反映している。
行き交う人々の視線は、映像に一瞬だけ留まっては、また自分の道へと戻っていく。買い物袋を提げた女性が足早に歩き去る一方で、若い男性が立ち止まり、映像に見入っている。その表情には、何かを思い出したかのようなわずかな変化が見える。
周囲の空気には静けさが漂っていたが、それは緊張感や無関心ではなく、むしろ柔らかな調和のように感じられた。人々の歩みや会話の音が重なり合い、映像と共にその場の一部として混ざり合っている。
スクリーンの映像が切り替わった。
すると、広場のざわめきが徐々に小さくなり、人々の視線が吸い寄せられる。最初に映し出されたのは、灰色の空と、広がる荒涼とした大地だった。がれきが散乱し、地平線の向こうには黒い煙がゆっくりと立ち上っている。空気が変わったのは、その場にいた人々が自然と声を失ったからだった。
視点は地面すれすれに揺れながら進む。音もなく舞い上がる砂埃の中で、折れた柱や崩れた壁が無造作に横たわっている。スクリーンの映像は徐々に細部を映し出し始める。砕けたレンガの隙間から、誰かのヘルメットが転がっているのが見えた。
やがて画面の中央に、一人の男性の姿が現れる。息が荒く、その振動が直接伝わってくるようだった。彼はヘルメット越しに前方をじっと見つめている。瓦礫を乗り越えながら歩みを進めるその足元が不安定に揺れるたび、砂利が音を立てて崩れ落ちる。
「……まだ終わらないのか……」
低く漏れるような声が聞こえた。
スクリーンに映し出された男性の姿が一瞬止まり、彼の視線が地面に向けられる。その先には、動かない誰かが横たわっていた。ヘルメットが少しずれ、泥にまみれた顔が露わになる。
「ダン……起きてくれ……約束しただろう、帰るって……」
男性がしゃがみ込むと、その手がダンの肩に触れる。
しかし、その体はぴくりとも動かない。男性の声がかすれる。
「おい、ダン……起きてくれよ……」
映像の中で風が吹き抜け、画面越しにも聞こえるかのようにがれきが揺れる音が響く。そのとき、男性の目がスクリーンいっぱいに映し出された。その瞳には、言葉では表せない苦しみと、果たせなかった何かへの苛立ちが宿っているようだった。
広場に立つ人々の間に、息を呑む音が混ざり合った。誰かがそっと目を伏せた。一人の子どもが、スクリーンを見つめる母親の腕を掴みながら「どうしたの?」と小さな声で尋ねたが、返事はなかった。