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守護者の頁
魔術は記録として世界に残る。
あらゆる場所に契約言語の綴る、魔術の術式が在る。
旅の行く先を灯す里程標の光に。
迷い込んだ森の、精霊が眠る苔の層に。
空を流れる都市の、訪れる者のない図書室で咲く一輪の花に。
底知れぬ迷宮のような、万象の博物館の戯れに。
あらゆるものに記録は残る。
記録には、その術式を編んだ者の記憶が時たま絡む。日記の断片のようなそれら。
大切な人が無事に帰ってくるように。
小さな種や虫達が森を奥深く育てるように。
いつか訪れる友人が笑ってくれるように。
螺旋の理の先で約束を叶えるために。
記憶に触れるたび、気付かれることも少ない密やかな思いが、やわらかく浸透する。
術式を編んだ誰かを、記録に触れる前から知っていたのだと、懐かしく感じてさえいる。
記憶に触れると少しずつ鮮明になる誰かは、いつも温かな笑顔で出迎えてくれる。
今、編んでいる術式にも、己れの記憶が絡むのだろうか。
待てるだろうか。
読み継がれて浸透した己れが、人々の思いの中で再生されるのを。
あなたが私を知るのを。