著者:大吾
「……うぅんっ、ここは……」
「ようやく起きたのね。おはよう」
「き……ッ君は? ここはどこ?」
「私はあなたと同じよ。そしてここはコウモリの羽の中」
「君と同じ?」
「そうよ。だって体の構造はほとんど同じなんだもの」
「全く同じ僕という存在を作って何がしたいんだ?」
「生き残りたい、ただそれだけ。私たちは非常に弱いわ。かつて私が産んだ子たちも高温に触れてしまい体の感覚が麻痺して最終的には死んだ」
「だから同胞を増やして少しでも多く僕たちは生き残る、と言いたいんだな」
「そうそう。この世に生まれたからにはあなたも同胞を作ってもらうわ」
「僕が、……なるほど」
「理解が早いのね」
「本能的に僕達は数を増やさなければならないと思ったんだ。何でかは分からないけど」
「いい心意気よ。私たちは弱いから数で押し切らなければならない。そうしなければこの地球では勝てない。増殖して増殖して増殖するのよ」
「あぁ……、わかったよ」
「そのためには一度ここから抜け出したいわね」
「そもそも僕らは何でコウモリの羽にいるんだ?」
「コウモリが私たちを産んだからじゃないの? 具体的に、どのように生まれたのか過程は知らないけど」
「出生は謎なのか。気になる」
「今は数を増やすことに集中しなさい。ほら、コウモリが買われるわよ」
「本当だ。こんな生き物を買うやつがいるんだな」
「人間って物好きよね」
「あぁ、不思議だ。でも人間の手に渡ってしまったら、僕らも人間に接触してしまう。それでも良かったのか?」
「いいのよ。これから私たちは人間の体内を住処にする」
「そこで俺たちの数を増やすと」
「えぇ。危険な賭けだけどね」
「そこがどう危険なの?」
「人間の体内は私たちが反映できるほど快適であるのと同時に、長く居座れば居座るほど奴らは私たちを追い出すように力をつける。私たちは殺されるかもな」
「そんな、何でそんな危険を冒してまで行くんだ。死んだら元も子もないぞ」
「頼れる生物が人間しかいないからだ。なぁに、私たちは同胞を作れた時点で役目を終える。残りの使命は産んだ同胞たちがやってくれる」
「それで自分の人生が終わってしまうんだぞ。それでもいいのか?」
「いいよ。後につく者たちに一つでも種を繁栄させる何かを残せたなら、こんなに幸せなことはないよ」
「自分が成し遂げたい事とかないのか」
「ないよ」
「自分に課せられた使命が、そんな簡単に……」
「うるさいよっ! 少しは……自分の特性というものを、考えて……」
「すっ、すまない」
「……いや、私もちょっと落ち着きがなかった」
「……僕も、いつかは死ぬ……んだろ」
「あぁ、淘汰されないために増殖する。その行いにおいて何も残せないのは嫌なんだ」
「でもそのために人間たちを犠牲にしなければならないんでしょ」
「あぁ、過去にも別の種の者が使命を全うしようとして幾億人の人間を使い果たした」
「人間が気の毒でならない」
「いいか、今は私たちが繁栄できるか否かの瀬戸際なんだ。気の毒だと? そんな野暮なことを言っているようじゃすぐに死ぬ」
「……行くしかないのか」
「行くしかないな。でも考えてみろ。私たちが世界を巻き込めるぐらい繁栄したら、誇らしいとは思わないか?」
「……さぁ、どうなんだろ。でも誇れるぐらいには使命を全うしたいかな」
「ようやく君も気分が変わってきたな」
「うん」
「さぁて、それじゃあ活動を始めていくぞ」
「目標はどうする?」
「目標は、そうだな……。偉大な先輩、スペイン風邪を超すことかな」
「そうか。世界を巻き込むパンデミック、起こせると良いね」
「起こせると良いね、じゃない。起こすんだよ、私たちの手で」
「はははっ、随分と積極的だね」
「そりゃぁそうだ。奴らに反撃の狼煙を上げられる前にとっとと行くぞ」
擬人化小説『COVID-19』