0、プロローグ・ライラが呪われた日
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
三日月の夜、クルム侯爵家に伝説の魔女が舞い降りた。これは誰かが呼んだからではない。否、そもそも魔女は滅びたとされているため、ここに魔女がいるということ自体、あり得ないことなのである。
魔女の目的は、スヤスヤと眠るクルム侯爵家の長女のライラに呪いをかけること。
「ボンソワール、あたしは魔女のXッサXXラだ。お嬢さん、あんたに呪いのプレゼントを持って来てやったよ。フフッ、どんな呪いかって?そりゃ、これから愛を求めることも受け取ることも許されなくなっちまう恐っろしい呪いだ。あんたが思いを寄せる相手から“好きだ”と言われた瞬間、心臓はバラバラになっちゃうからね~。精々、誰にも愛されないように気をつけて生きて行くんだよ。ヒャッ~、ヒャッ、ヒャッ」
魔女はまだ夢の中にいる少女の額へ血のように赤黒い爪で触れて、呪文の詠唱を始めた。
刹那、ライラの額に赤い魔法陣が浮かび上がっていく。――――と、このタイミングでライラはフルフルと銀色の睫毛を震わせて目を開けてしまう。
薄暗い部屋で知らない女と視線が合った。ライラは恐怖で声が出ない。それでも、泣いたりはせず、ありったけの勇気を振り絞って、その女のことを睨みつけた・・・。
「あらら~、強気なお嬢ちゃんだこと。せいぜいあたしの呪いに足掻いて、長生きでもしてみせな!」
ニヤリと妖艶な笑みを浮かべたまま、魔女は姿を消した。
魔女が消えた安心からだろうか・・・。ライラの双眸から、涙がブワッと一気に溢れ出す。
(――――早く誰かに伝えないと・・・)
彼女は涙を袖で拭きながら上掛けを捲り、寝台から冷たい床へ裸足で降りる。そして、助けを求めるためにドアの方へ駆け出した。
♢♢♢♢♢♢♢♢
ライラは自分の母親のことをほとんど知らない。それは父ことロイド・ピーター・クルム侯爵が『ライラは留学先で出会った女性との間に出来た子で、彼女は出産時に亡くなったんだよ』としか教えてくれないからである。
――――ライラの母が出産時に亡くなったというのは半分が真実で、もう半分は嘘だ。
実は・・・、ライラの母は隣国エスペン王国の王女レンなのである。レンが名も知れない誰かの子を留学先で産んだと知ったエスペン王国の王家はライラの命を狙った。そして、産まれたばかりのライラを刺客から守り抜いたレンは命を落としてしまう。ロイドは愛するレンを失ったことを悲しむ間もなく、追手からライラを守らなければならなくなった。
彼は大陸で一番力を持つ祖国(サンチェスキー王国)に戻ることを決意する。
隣国エスペン王国は高い山脈に囲まれた小さな国だ。だから何処に行くにしても、ロイドの祖国サンチェスキー王国を通らなければ余所(他国)に出られない。これは地形的な欠点である。――――逆にこちら側からは相手の動きを探り易いという利点がある。
また、サンチェスキー王国はエスペン王国の対貿易国一位で立場が強い。もっというなら、国土も人口も経済力も医療も遥かに勝っている。正直なところ、サンチェスキー王国は彼らにとって取り入った方が良い相手だ。それをわざわざ崩してしまうような行動はしないだろう。
――――その後、エスペン王国の放った追手がロイドの前に現れることはなかった。彼のヨミはしっかりと当たったのである。
♢♢♢♢♢♢♢♢
――――――五年の月日が流れた。
昨年、侯爵位を継いだロイドには多くの縁談が持ち込まれるようになった。
かねてより『一刻も早く伴侶を迎えろ』とロイドに言い続けていた彼の両親はとうとうしびれを切らし、強引に彼を見合いの席に引っ張り出した。――――これは先週末のことである。
しかし、ライラのことが何よりも大切なロイドは新しい女性を家に入れたくない。だから、相手の女性の顔を見るなり、早々にお断りの言葉を伝えた。
魔女がライラに呪いをかけるという最悪の事件はこの後に発生したのである。
――――誰の差し金だったのか?真相は十一年経った今も解明されていない。
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